第21話 C級ダンジョン


「……ここがC級ダンジョンか」


 冒険者ギルドに快く見送られた俺たちは、今回勝負の対象になるダンジョンに来ていた。


 ダンジョンの入り口で外観を観察して、俺は小さくふむと頷く。


ダンジョンができて時間が経っていないのか、ダンジョンとしてはあまり規模が大きくはないようだ。


 確かに、C級くらいのパーティが攻略するのにちょうどいいかもしれない。


「おいっ、いつまで入り口で突っ立ってんだよ」


 ドンッと肩を押されて振り向くと、そこには不機嫌そうな顔をしているオリバたちがいた。


 行き先が一緒だっただけに、ここまで来る馬車も同じものを使用したのだ。


「どうせトロトロ来るんだろ? それなら、せめて邪魔にならないように後から来いよ」


「そうだな。先が詰まったら帰りが遅くなる。泊りにでもなったら面倒だ」


 オリバとロードは軽口をたたきながら、特に警戒することもなくダンジョンの奥へと向かおうとしていた。


「え? 泊まる道具を何も持ってきてないの?」


 いくら日帰りで帰ることができる可能性があっても、ダンジョンのような場所に行くのなら最低限数日は止まる準備をしていくのが普通だ。


 俺たちと比べて荷物が極端に少ないのが気にはなっていたが、まさか何も準備しないでダンジョンに挑む気なのか?


「はぁ? 馬鹿にしてんのか? S級の俺たちがこんなダンジョンを泊りがけで行う訳ないだろ」


「あんたたちと一緒にしないでくれる? こんなジメーッとしたところに長くいれるわけないでしょ」


 オリバとリリスは振り返ってそう言うと、俺を見て鼻で笑った。


 オリバはニヤニヤとした顔で俺を見ると、言葉を続ける。


「俺たちも新しく荷物持ち君をメンバーに入れないとな。まぁ、少なくとも基礎的な魔法しか使えないようなザコ以上の奴をな」


「そうですね。あと剣しか能のない者をパーティに入れるのもやめてくださいね」


 オリバに続くように、ナナがサラさんを見ながらそんなことを口にした。


 どうやら、オリバは俺がサラさんの分の荷物も持っているから、俺を荷物持ちと言って見下しているみたいだ。


 いや、剣士が動きやすくするために他のパーティメンバーが荷物を持つって、珍しいことでもない気がするんだけどな。


 オリバたちは俺たちを馬鹿にしてすっきりしたのか、笑い声を上げながらダンジョンの奥へと向かって行った。


「……ふむ、ダンジョンの中では何が起きてもバレんよな? ソータよ、処すか?」


「いや、いいって。あんな奴ら相手にすることもないよ」


 ケルが本気でそう言っている気がして、俺は抱きかかえてケルを制した。


 ケルなら簡単にオリバたちをやれるかもしれないけど、そんなことをしてケルの手を汚す方が嫌だ。


 俺がしばらくケルを抱きかかえていると、ケルはソータがそう言うなら仕方ないと言って折れてくれた。


「ソータ、私たちも行こうか」


「うん、そうしましょう。でも、その前に……」


 俺はケルを地面に下ろすと、自分とケルとサラさんに支援魔法をかけることにした。


 筋力増強に魔力増強、自動回復などの基礎的な支援魔法を何重かにして分けてかける。


 基礎的な魔法しか使えないなら、せめて何重にもかけろよとオリバに言われ、俺は基礎的な魔法を何重にも分けてかける方法をなんと生み出したのだった。


「よっし、支援魔法かけておきましたよ」


 俺がそう言うと、サラさんは何かあったのか頻りに体を大きく動かし始めた。


 困惑するような顔で体を動かしてから、自身の腕をじっと見てしばらくの間固まってしまった。


「これは……こ、こんなにすごいのかソータの支援魔法は」


「凄いんですかね? いまいち自分だと分からなくて」


「これをずっと掛けてもらっていたのに、あ、あいつらはその凄さが分かっていないのか?」


サラさんはいなくなったオリバたち指をさして、信じられないものを見るような顔をしている。


「えっと……たぶん?」


 俺がそう答えると、サラさんはそんな馬鹿な連中がいるのかと独り言を呟いていた。


 ……どうやら、オリバたちは俺が思う以上に間抜けなのかもしれない。


 驚くサラさんの表情を前にすると、そんなことを考えずにはいられなかった。


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