第20話 見当はずれ
「エリさん、すみません。面倒なことをお願いしてしまって」
「いいんですよ。こうとでも言わないと、後で騒がれますからね」
オリバたちがいる宿の食堂を出て俺が頭を下げると、エリさんは手を横に振ってなんともないと言ってくれた。
サラさんを仲間に加えてダンジョンに潜ることになったのだが、そのことをオリバたちに伝えておいた方がいいとエリさんが提案してくれた。
確かに、こうやって知らせておかないとオリバが後で駄々をこねそうだ。
結果として、ただ喧嘩を売られただけになってしまったけど、言質はしっかりと取ることができたし、悪くはなかっただろう。
「ソータ……私のために怒ってくれようとしてありがとうな」
「いえ、気にしないでください。さすがにカチンと来ただけです」
サラさんは俺の言葉に、眉を下げたまま小さく笑う。
サラさん、せっかく少し元気になってくれていたのに……。
「また随分と見当はずれのことを言っていたな、あの人間たちは」
ケルは大きなため息を漏らしてから、ニヤッと笑う。
「あれだけ勘違いしているのだ。あの人間たちが負けたとき、どんな顔をするのか楽しみであるな」
ちょこちょこっと可愛らしく歩きながら、ケルは悪いことを考えるような顔をする。
そう言われて、俺も釣られるように少し笑ってしまった。
「あれだけ馬鹿にしてきたんだ。圧勝してやりましょうよ、サラさん」
「……ああ、そうだな。見返してやろう、あいつらを」
俺がケルのように悪いことを企むような顔をすると、サラさんはそんな俺たちを見て小さく笑った。
「きっと、『黒龍の牙』を負かせるができれば、きっとすぐに噂になる。私のいたパーティにもその噂が届くだろうな……うん、俄然やる気が出てきたよ」
サラさんは元気を取り戻したようで、足取りが微かに軽くなったように見えた。
「今日のことを知っている冒険者さんも多いので、すでに噂になってますよ。皆さん、S級パーティである『黒龍の牙』が勝つと思っているので、その予想をひっくり返したときの衝撃は大きいでしょうね」
エリさんはそう言ってから振り向くと、両手で拳をきゅっと握って、ふんすっと鼻息を漏らす。
「ソータくん、ケルさん、サラさん。オリバさんたちをぎゃふんと言わせてくださいね!」
エリさんの言葉はギルド職員たちの言葉を代弁したかのような重さがあった。
どうやら、オリバたちは俺が想像している以上に嫌われているらしい。
そして、翌日。
俺たちは冒険者ギルドの職員たちに見送られながら、C級ダンジョンへと向かうことになったのだった。
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