第5話 入所テストの準備

舞踏会から数日、私は魔術書やら研究論文やらをウキウキで読みながら過ごしていた。


ちなみにリナは、あの後だいぶ元気が戻ってきた。


オスカル殿下との婚約に関しては、これでリナが愛想を尽かしたなら別の対応を考えなくちゃと思っていたけど、リナ本人がこの状況でもオスカル殿下への気持ちは離れていないと言っていたので、そのままにすることになった。


あと他の家族にも事情は全部説明し、両親は理解を示してくれた。ルーカスお兄様には大爆笑されたけど。


というわけで、リナがかなり可哀想だったけどなんだかんだ丸く収まった。


そして今は朝食を食べ終わり自分の部屋に戻るところだ。


「シェルシェーレお嬢様」


すると、父の秘書さんに呼び止められた。


「あら、どうなさいましたか?」

「シュバルツ侯爵様がお呼びですので、ご同行願います」

「わかりましたわ」


そのまま秘書さんについて行くと、父の書斎にたどり着いた。


「シェルシェーレ、来たか」

「はい、お父様。」


まだ呼ばれた理由が分かってないけど、タイミング的にあれだろうか。


「お前を呼んだのは魔法研究所のことについてだ。」


やっぱり。


「えっと…どうなりましたか?」

「無事お前の就職が認められた。ただし、入る前に入所テストをするらしく、仕事の内容はそのテストの結果で決まるようだ。」

「テストとは、具体的にどのような?」

「私も細かくは知らないのだが、筆記テストと魔法の実技テストを行い、成績が良ければ研究員かその見習い、悪ければ雑用やアシスタントにするそうだ。どの道入れないということは無いらしい。」

「なるほど、承知致しましたわ。」

「入所テストは1週間後だそうだから、それまで準備しておくといい。」

「色々とありがとうございますわ、お父様。」

「礼には及ばん」

「それでは、失礼致しますわ」


ガチャ


よし、これで魔法研究所への就職はほぼ確実なものとなった。ただ問題はテストだ。魔法研究所に入れるならぶっちゃけ最初はアシスタントとかでもいいんだけど、せっかくなら自分の手で実験したい。


お父様は、テストの内容は筆記と魔法の実技だとおっしゃっていた。


筆記は多分問題ない。今まで散々本は読み漁ってきたし、お偉い学者の元に行って話を聞きに行ったこともあった。それに仮に問題があったとしても、あと1週間ではどうにもならない。


問題は魔法の実技だ。


そもそも、この世界の人間は15歳のときに受ける"神託"(国や地域によって言い方は違う)によって、1人1属性の魔力を与えられる。属性は多い方から順に土、火、風、水の4属性ある。"多い方"というのは、何故か属性ごとに人数の偏りがあり、1番多いのが土属性、最も珍しいのが水属性。


また、人それぞれに属性とは別に"傾向"と呼ばれるものがある。傾向は大きくわけて光と闇があり、ざっくり言えば支援や防御、生活魔法が得意なのが光傾向、攻撃魔法が得意なのが闇傾向だ。そして傾向はさらに極光、強光、弱光、中立、弱闇、強闇、極闇という具合に分かれている。なお傾向に優劣はない。


属性は1度決まったら一生変わることはないけど、傾向は取り巻く環境や価値観の変化で変わることもある。


そして私の"神託"の時点での魔法適性は魔力75、属性火、傾向中立(今は少し成長して魔力85、属性火、傾向弱光)だ。魔力はその名の通り持っている魔力の量を数値化したもので、"神託"時点での平均は80くらいだと言われている。よって私はちょうど平均くらいだ。


私が魔法適性で珍しいことと言えば、基本の傾向が中立ということだ。しかも、私の傾向に興味を持った学者に日単位で傾向を調べられたことがあったんだけど、調べる度に強光~強闇の間で行ったり来たりしていた。傾向が変わることがあると言っても、大体親が死んだとか、急に大金持ちになったとかいうレベルでしか変わらないので、私みたいに喜怒哀楽や体調くらいで変わるのは非常に珍しい。


まあ、理由は結局よく分からなかったし、特に何かの役に立つ訳では無いんだけどね。


このように魔法適性は凡人レベルな上に、あんまり自分の魔法スキルを磨こうとはしてこなかったから、魔法が特別得意っていうわけじゃない。あと1週間で何ができるか分からないけど、魔法研究のヒントになるかもしれないし色々試してみよう。


にしても、いざ魔法の特訓をしようと言っても何からすればいいんだろう。とりあえず私は兄達が使っている訓練場に向かう。私の属性は火だから、下手なところでやると火事になるから、石造りの訓練場はその心配が無く安心だ。


訓練場に着くと、そこにはルーカスお兄様がいた。


「お、シェリーじゃん、おはよう!」

「お兄様、おはようございますわ」

「ところで、こんなところに何しに来たんだ?」

「それが…」


私はここまでの経緯を説明した。


「なるほどなあ…よし、じゃあここは俺に任せろ!魔法の扱い方のコツを色々教えてやる」

「まあ、本当ですの?ぜひお願いしたいですわ!」


元々ルーカスお兄様に教えてもらおうかと考えていたので、本人から言って貰えて非常にありがたい。


ルーカスお兄様は魔力170, 属性火, 傾向弱闇で、魔力は大きく平均を上回っているし、魔法の鍛錬を積んでいて魔法操作がかなり上手い。 しかも私と属性と傾向が近いので、教わるにはピッタリの相手という訳だ。


「…ところで、それ」

「どうされましたの?」

「いい加減その喋り方やめないのか?婚約決まる前はそもそもタメ口だったろ」

「あ…」


そう、私は本来こんなお嬢様喋り方はしていなかった。でも皇子と婚約となれば、普段から口調にも気を使わなくてはと思って"ですわ"とか"かしら"とかつけていたのだ。


「変だぞ、その喋り方。なんか"~わ"が多すぎる気がするし。」


お兄様の言い分は随分と不躾ぶしつけだけど一理ある。それに魔法研究所でお嬢様言葉はかえって浮きそう…


「…じゃあそうします。でもタメ口は年齢のせいもあったので、敬語はそのままで。」

「うん、やっぱそっちの方がまだしっくりくるな。じゃああれだ、話を戻すと、教わりたいのはどういう魔法だ?」

「えーと、多分攻撃魔法は使わないので、生活魔法とか支援魔法とかでしょうか?」

「了解!となるとやるべきは手元での操作かな…じゃあとりあえず基本の確認からだ!」


そこからルーカスお兄様による魔法の特訓が始まった。そこであまりいままで気にしてこなかったことが色々と分かってきた。よし、ここから1週間頑張ろう。

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