第5話 決意

家に帰ると、相変わらずの満面の笑みでママが迎えてくれた。


「あらおかえりなさい!どうだった?お話聞かせて!」


「ただいま。うんそうだね」


これが前世には無かった「実家のような安心感」かなどとくだらないことを考えながら家へと入る。そして朝ごはんを食べたダイニングへと腰を落ち着け、先程の出来事を話す。


「まあまあまあ!魔力量270に水属性!?すごいじゃないカナ!さすがはママとパパの娘ね!」


「ありがとう」


「傾向は極闇なのね!魔法剣士にでもなっちゃう??こう、スパスパっと!」


「ハハ、それもいいかもね」


極闇のことについて深くツッコまれなかったのは助かった。何か思ったが気を使っているのか、それとも何も考えていないのか。……ママの場合後者な気がする。そもそも、昨日までの「ヒロイン」と「私」はだいぶ雰囲気が違いそうなものだが、それすら気づく気配がない。


「学校はどうする?ママお仕事頑張ってるから、貴宝学園以外ならどこでも行けちゃうわよ!」


貴宝学園とはいわゆるお嬢様・お坊ちゃま学校で、貴族と金持ち商人のボンボンしかいない。もとより行くつもりは無いので問題ない。


「私はその、――――


急に前世を思い出し息が詰まる。私の考えはどう言われるか。


――――魔術学院に行きたいな…魔法について色々勉強してみたい…その、まだ何がしたいかは決まってないけど…」


「あらいいわね、パパとママも魔術学院だったし嬉しいわ~まあカナの行きたいところならどこでも歓迎だけどね!」


その言葉にややグッとくる。いや、この「ママ」ならいかにも言いそうなことだと気を取り直す。


「…うんありがとう、嬉しいよ」


「さて、そうと決まったら準備しなくちゃね!」




――――― 3ヶ月後 ――――――




時は流れリアムール歴1198年の9月。いきなり吹っ飛んだが今日は魔術学院の入学式である。ママとの生活にはだいぶ慣れてきた。この世界に関する教養のなさは、ママや店のお客さんの話や読んだ本でだいぶカバーできてきた。ちなみにこの学院にも日本の高校大学同様入学試験がある。だがそれは――――




「新入生代表より挨拶。推薦合格者カナ・ベルナール、前へ。」




意図せず推薦で合格した。推薦人は神の啓示でお世話になった司教殿(本当に司教だった)である。本当にあの人は何者なのか。と思いつつ前へ出る。


「木々の葉が色づき始める頃、私たちは魔術学院へと入学致します。本日は…………」




――――――――――――――――




「……………以上を持ちまして新入生代表の挨拶とさせていただきます。」


私は席に戻る。内容は端折るが至って当たり障りのない内容である。生徒や先生達も普通に拍手する。ただし私への目線は非常に痛い。恐らく推薦合格者への興味関心だろう。……そう思うことにしよう。


入学式が終わり、先生に誘導されながらクラスごとに教室へと移動する。何となく周りに避けられている気がする。さっそく学校デビュー失敗か?……と思っていると、見覚えのある黄緑色の影がこちらに近づいてきた。


「やっほーカナ久しぶり!やっぱり魔術学院に来てたんだね!」


「ジーク!久しぶり、会えて嬉しいよ」


「へへ、僕も!同じクラスだよね、よろしく!」


神の啓示のときに居合わせたジークだ。誰とも話せていなかったので、知人の登場に安堵した。


「にしても推薦合格なんてすごいや!さすがカナ!」


「それを言うなら、一般首席合格のジークもね」


あの後調べたところ、ジークは現王国騎士団団長の息子であり、ロバン家は騎士の一族だとわかった。通りで代々魔力が高いわけだ。そしてジークは特に優秀なようだ。


我々の話を聞いていた周囲がまたどよめき始めた。


「同じクラスに推薦合格者と一般首席が?すげーな」


「しかも2人とも知り合いなんて…」


「どっちも気さくそうだし後で話しかけてみようかしら」


後で話しかけてくれるらしい。これでもう少し知り合いが増やせそうだ。「気さくそう」と思われたのは明らかにジークのおかげなので、感謝しなくてはならない。


そうこうしているうちに教室へと着いた。指定された席へ座ると隣の女の子が話しかけてきた。


「ベルナールさん!…でよかったかしら?推薦合格の。私はマリー・スオーロ、少ない女子同士仲良くしましょう!」


「うんスオーロさん、よろしく」


そう、この学院の女子は少ない。男女比はおよそ19:1、女子は全体の5%である。このクラスの女子は私とスオーロさんだけだ。この世界は基本男性優位、貴族優位で、ただし女でも平民でも優秀なら個別に取り立てるというスタイルなので、魔術学院にも余程優秀でなければ娘を入れようと思う親は少ない。裏を返せば、この学院の女子は大体優秀だ。ちなみに魔法学園は貴族社会の縮図となることを意識してか、乙女ゲームを成り立たせるためか、魔術学院に行かせない選択の結果か、むしろ女性の方が多い。


さて、そんなこんなで始まった学院生活、既に乙女ゲームの筋書きは見る影もない。これからどうなるかは見当もつかないが、せいぜい楽しむとしよう。前世の二の舞にならないように。




――――――――――――――――




ここはカナの知らない場所。誰も知らない場所。重い扉が開く音がする。


「おい、ここに来るまでに誰かにつけられてないだろうな」


「ああ、もちろんでさあ。あっしこれでもそういうとこはちゃんとしてやすよ」


「ならいい。では全員集まったし、会議を始めよう」


「今日の議題はあれっすね?」


「そう、『計画M』だ。」


「そのネーミングもうちょっとどうにかならねえんですか?なんと言うか、正直ちょっとだせぇです」


「そうかもな。だが下手に気の利いた名前をつけて中身を悟られるより、これくらいの方がカモフラージュできて丁度いいだろう」


「なるほどねえ。しっかし大胆なこと考えやすねえ~あんたも」


「ふん。そうかもしれんな。だが我々の目的を果たすためには良い策だと思わないか?」


「全くその通りでさあ。それじゃあ改めて始めやしょうか、会議」

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