『初コラボ達成記念! 狐野妖香が喋りまくる雑談枠!』
「んっ……」
眠りから覚める感覚を覚え、僕はゆっくりと目を開く。そして、すぐに妖香さんの動画を確認する。あの時のコラボ以来、彼女のことがより一層気になるようになって、ちょくちょく確認する習慣が身についてしまったのだ。
「えっと、……あっ、昨日の夜妖香さん動画出してる!」
どうやら彼女は昨日配信をしていたようだ。タイトルは『初コラボ達成記念! 狐野妖香が喋りまくる雑談枠!』となっている。この時間に放送してたのか。動画編集に夢中で、気づかなかったな。
「よし、早速見よう」
再生ボタンを押すと、いつものように画面には妖香さんの姿が映った。巫女服を着ている姿はとても可愛い。しばらくすると彼女は話し始めた。
『アニマリ神社を守護させていただいている狐神『狐野妖香』と申します。供物共、今回もよろしくお願いしますわ』
コメント
・待ってましたー!
・相変わらずキャラ濃い
・神社の守護助かる
・こんばんは〜
・こんばんは
・きたああああああ!
・今日もかわいいよ
・声綺麗だよね
・今日は雑談枠?
・何話すのかな
・楽しみです
妖香さんが挨拶を終えると、画面には大量のコメントが流れ始めた。その数の多さに少し圧倒される。それだけ妖香さんは人気だってことだね。
『本日私はすてきな方たちとコラボをさせていただきましたわ。クロメ&シノキのクロメさんとシノキさん、そしてまきちゃんですわよ。彼女達との交流は私にとって一生忘れられない大切な思い出になりました」
コメント
・まさかあのクロメ&シノキとコラボするなんてな……
・完全に予想外だった
・何の前触れもなく大物とコラボする妖香さんは将来大物になるぞ
・羨ましい
・俺達には縁のない話だぜ……
・俺もコラボしたい
・まきちゃんって誰?
・↑調べてみることを進めるぜ。面白いから
・またコラボしないかな
妖香さんは昨日のコラボを振り返っているようで、笑顔で語り始める。本当に楽しかったんだろうなって伝わってくる表情をしている。僕もそんな彼女の姿を見ているだけで幸せになってくる。
『それでですね、今度彼女達とコラボするときは私の神社に招いておもてなしをして差し上げたいと思っておりまして。何かいいおもてなしの方法はないでしょうか? 皆さんから意見を貰いたいと思いますわ』
コメント
・おもてなしは自分で考えるものだよ
・コラボしてくれるならなんでもする
・俺達の出番か
・おもてなしって言われてもなぁ
・うーん、難しい
妖香さんはみんなにアイデアを求めるが、なかなか出てこない。確かにいきなり聞かれても困っちゃうかも。でも、妖香さんが相談したくなる気持ちもよく分かる。僕だって人をもてなすことになったら、きっと誰かに相談すると思うし。
『そうですわね……。なんかこう、インパクトのあるおもてなしをしたいんですけど、なかなか思いつかないものですわ。皆さんはどんな感じのおもてなしを想像されます?』
妖香さんは視聴者さん達に質問をする。すると、すぐにたくさんのコメントが書き込まれていく。
コメント
・高級旅館を貸し切るとかどうですか?
・温泉旅行に招待するのは?
・お風呂上りのバスローブ姿をプレゼント!
・裸踊り!
・パンツ一丁で出迎えるのはどうだろう
・全裸で接客すれば問題なし
『ちょっと、どういうことですか!? どうして私がそんなことをしなければいけませんの! というか、最後の方は絶対におかしいでしょう! 誰がそんなサービス求めてますの! 問題大ありですわよ、消されてしまいますわよっ!』
妖香さんは顔を真っ赤にして叫ぶ。そんな彼女を見ていると、思わず笑ってしまいそうになる。やっぱり妖香さんは反応が面白くて可愛い人だなぁ。
『とにかく! そういったことは却下ですわよ! もっと普通のことでお願いしますわ!』
コメント
・残念……
・せっかく考えたのに(・へ・)
・でも、イラストを用意するのはいいアイディアかもしれない
・コラボ記念イラストか
・確かに、コラボ相手からイラストを貰ったら嬉しいかも
・絵師さんを呼ぶのもありだな
・いや、妖香ちゃん自身で書いてこそ意味がある
・妖香ちゃんに画力なんてあるのだろうか?
・↑下手くそでも一生懸命描いた絵なら歓迎されるだろ
・↑おえかきですね……
『ふむふむ……なるほど。コラボ記念のイラストを贈るというのはいいかもしれませんわね。では、次のコラボの時に私自身の手で描いた絵をお客さんに送ってみるみることにしますわ』
妖香さんは笑顔で宣言する。それを見た僕は、自分の胸が熱くなるのを感じた。妖香さんの直筆の絵をもらえるってすごく貴重な体験だよね。……もしかしたら、僕も絵を描いてもらえるのかも?
コメント
・楽しみすぎるw
・コラボの度に妖香ちゃんのイラストを見られるなら最高です
・俺達もコラボしたら妖香ちゃんに描いてもらえるかな?
・↑調子に乗りすぎw
・↑お前らがコラボできるわけないだろwww
・そもそもお前らVtuberじゃねえじゃん
・ごめんなさい……調子に乗ってました……
・ああ、でも妖香ちゃんとコラボしたいな
『皆さん、私と一緒にコラボしたいようですね。……もちろんいいですわよ。是非コラボしてみたいですもの。その時には、私なりのおもてなしをして差し上げたいと思います』
妖香さんは優しい声でそう言うと、手を合わせて微笑んだ。……妖香さんが、視聴者さんとコラボ? ……なんだか想像できないなぁ。視聴者さんとコラボする動画投稿者さんなんて、聞いたこともないよ。
コメント
・やったぜ!
・おいおい、まじかよ……
・【悲報】妖香ちゃん、一般人とコラボしてしまう模様
・これは炎上案件ですね
・さすがの一期生ですら視聴者とコラボしようなんて思わないんだよなぁ……
・↑そりゃそうだろ。コラボはビジネスだからな
・妖香ちゃんのおもてなし受けてえなぁ
『あれ、何か私変なことを言いましたかしら?』
妖香さんは不思議そうな顔を浮かべている。そんな彼女に向かって、コメント欄の住人達は温かい言葉をかけ始めた。
コメント
・気にしなくていいよ
・俺達が勝手に盛り上がってただけだから
・↑誰か妖香ちゃんに突っ込んであげて
・嫉妬の元だからな。一部のファンを優遇するのは危険だよ
・コラボできなかった奴らが妬み嫉みの嵐を引き起こすかも
・↑でもさ、上手くやれたら面白くなるかも
・↑視聴者参加型企画か。確かに楽しそう
・おー、なんか面白そう!
『あらあら、何やら盛り上がり始めましたね。……でも、コラボって難しいものですわ。私はただ楽しく配信できればそれで満足なので、あまり深く考えていませんでしたけど。これから私は、コラボはよく考えて行うようにしますね』
妖香さんは真剣な表情でそう言った。……そういえば僕も今まで、コラボするときに深く考えてなかったな。
『まあ、それはともかくとして、コラボについての考え方は一旦置いておきましょう。今はおもてなしの記念イラストのことについてですわ。……絵師の方に頼んで書いてもらうのもよろしいと思いますが、やはりここは自分で描くべきです。自分で描けば、気持ちもこもるというものです』
妖香さんは自信満々な様子で言う。生き生きとしていてとても可愛らしい。
『そこで、皆さんにお聞きしたいのです。皆さんは、イラストを書くときにどういうことを意識していますか? どんな気持ちを込めているのでしょうか?』
妖香さんはみんなに向けて質問を投げかける。すると、すぐにたくさんの意見が書き込まれていった。
・気持ちって言われてもねぇ……
・うーん、普通に楽しい気分で書くことが多いかも
・萌えを意識して書きます
・というか、そもそも妖香ちゃん絵描けるの?
・↑失礼すぎるw
・絵が下手でも一生懸命書けば大丈夫だって
『ふむふむ、なるほどなるほど。皆さんは私の絵が下手だとお思いで。……ですが、問題はありません。私には絵が上手なお姉さまがいますから。お姉さまに鍛えてもらえば、きっと私でも絵を書けるようになりますわ』
妖香さんは嬉しそうな笑顔で話す。その言葉を聞いた僕は、思わずほおを緩めてしまった。お姉ちゃん好きな様子の妖香さんがなんだか微笑ましい。
コメント
・絵が下手でも一生懸命描こうとしていて応援しがいがあって助かる
・お姉ちゃんがいるのか。羨ましすぎる
・俺にも絵を教えてくれる人がいたらなぁ……
・絵が上手なお姉さま(ま〇ちゃん)
・妖香ちゃんのお姉さま=絵がうまい、まきちゃん=絵がうまい。
まきちゃん=家族の寝坊で配信中断、妖香ちゃん=同日に寝坊で配信遅刻
・↑これは免れない
・まきちゃん妖香ちゃんてぇてぇ
『みなさん、私のお姉さまはまきちゃんではありませんわよ。確かにお姉さまは僕っ子ですけれど、声が全然違いますもの。まきちゃんはおっとり落ち着くほんわかボイスですけれど、お姉さまの声は男の子のようでありつつも、可愛らしい響きがあるのです。それに、性格も全然違うんですよ? まきちゃんは丁寧敬語なおっとり系ですけれど、お姉さまは可愛いタメ口の使い手ですから』
妖香さんは得意げな笑顔で語る。どうやら妖香さんのお姉ちゃん好きは本物みたいだ。……それにしても、僕っ子のお姉さまか。まさか、僕の妹の雪菜が妖香ちゃんだったりして。……でも、そんなわけないか。雪菜はVtuberとかそこまで興味なさそうだったし、そもそも雪菜はクラスメイトと遊んでばかりであまり家にいない。Vtuberをしている時間なんてないだろう。
……となると、僕の他にも一人称僕の女の子がいて、それが妖香さんのお姉ちゃんってことになるのか。ちょっと気になるな。
『まあ、お姉さまの話題はここまでにしておきましょう。今はコラボ記念のイラストについて考えなければいけませんから。……さて、ではまずはイラストを……』
「雪菜、風菜っ、今何時だと思ってるのっ! 早く起きてきなさい、遅刻するわよっ!」
妖香さんが話を続けようとしたとき、家の下の方から大きな怒鳴り声が聞こえてきた。この声は、お母さんだ。……やばい、妖香さんの配信に夢中ですっかり忘れてた。もうそろそろ家を出る時間じゃん。
僕は風のように階段を降り食卓へ向かい、急いで食事を済ませる。……ちなみに、風菜は僕の名前である。お父さんがつけてくれた名前で、由来は僕が生まれた日がとても涼しかったからだそうだ。正直よく分からないけど、まあ気にしないことにする。
「ごちそうさま」
食器を流し台へ置き部屋に戻る。色々と準備をしてから玄関へ向かう。靴を履いている最中、2階から雪菜の声が聞こえてきた。
「ああっ、時間がない! でも、もう少しベッドでゆっくりしたい……あと5分でいいから、ゆっくりしたいよぉ!」
雪菜はまだベッドの中のようだ。最近、彼女は朝に弱い。僕が起こしに行かないとなかなか布団から出てこようとしなかったりするのだ。時間はないけど、見に行かないと。
僕は雪菜の様子を見に行き、彼女がまだ布団の中にいることを確認する。……うん、気持ち良さそうな顔でベッドを堪能してるね。でも、もう家を出る時間を少し過ぎてしまっている。早くベッドから出てもらわないと。
……僕は雪菜が支度をするのを確認してから、学校へ向かうことになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます