交流

 気になるVtuberの子湾小春さんを調べようとしたら、何故かサジェストに僕の活動名が出てきた。疑問に思った僕は検索してみることにする。……すると、とある大百科サイトが引っかかったので、とりあえず開いてみる。そして、そこに描かれている紹介文を確認することにした。


《子湾小春ちゃん:アニマリ二期生の女の子。子犬のように可愛らしい見た目とは裏腹に、意外とお転婆な性格をしている。ゲームが好きで、特にアクションゲームが得意。家ではポチララという名前の犬を……》

「……」


 読み終えた後、僕はしばらく固まっていた。


「最後の、1文……」


 僕は最後に描かれていた文章に衝撃を受けた。


《小春ちゃんの好きなゲームである狐狸妖怪。どこかの個人Vtuberさんを連想させる。彼女曰く、『いつかはまきちゃんと関わってみたい』とのこと》


 ……なんとなく察しがついた。おそらく、僕と小春さんとが関連付けられた原因は、彼女が配信で言っていた『まきちゃん』という単語が原因だと思われる。つまり、小春さんは僕を認知しているのだ。なんだか、照れくさい。



 気分を落ち着かせるために、僕はパソコンの前に座りゲームを始めた。タイトルは『ボンゴレタウンの休日~唯我独尊のキワミ』。RPG要素を足したアクションゲームであり、数多くのやりこみ要素があるので奥深い。……やった、レアアイテムだ。


 のんびりとゲームをしていると、SNSの通知が来た。どうやら僕の元に一通のメッセージが届いたみたい。


「えっと……あれ? もしかしてこの人、小春さん?」


 名前の後ろに【アニマリ】と書かれている小春さんからのメッセージだった。フォロワーを確認してみたら1万を超えていたので、おそらく本物だろう。とりあえず、メッセージを読んでみることにする。


《あの、私は、子湾小春というものです。いきなりの接触、申し訳ありません。でも、私はどうしてもまきちゃんと話しをしたいんです。……狐狸妖怪に詳しい、まきちゃんと》


 ……狐狸妖怪。それは僕の大好きなゲームであり、マイナーなため世間にはあまり知られていないゲームでもある。まさか、本当に小春さんからその話題が出てくるとは思わなかった。


《私はそのゲームに目がありません。誰かと話し合いたい気持ちが強く存在しています》


 自分の気持ちを伝える小春さん。大百科サイトに描かれていた通り、彼女も僕と一緒で狐狸妖怪が好きなのだろう。


《狐狸妖怪について、語り合いませんか?》

《……はいっ、もちろんです!》


 小春さんの提案に即答する。僕には断る理由もない。


《ありがとうございます。……では、後程連絡いたします》

《こちらこそ、お誘いありがとうございます》


 僕はお礼を言ってから、彼女からのメッセージを閉じる。……やったぁっ! 狐狸妖怪について誰かと語り合える。しかも、小春さんとだなんて……。僕は興奮が収まらず、気分が高まる。


















 私、子湾小春はまきちゃんに連絡を取っていた。私の話を聞いてくれるのか少し不安な気持ちもあったけど、私にとってはとても大事な事なので、勇気を出して連絡を取ったんだ。……返事が来たみたい。


《……はいっ、もちろんです!》


  その返信を見た瞬間、私は安心して息をつく。相手は個人勢のVtuberでこちらは企業勢のVtuber。本来なら、こんな関係になれるはずがないのだが、今回ばかりは話が別であったみたい。同じゲームを愛するもの同士、仲良くなりたいという気持ちがお互いに強かったからかもしれないね。


《ありがとうございます。……では、後程連絡いたします》

《こちらこそ、お誘いありがとうございます》



 そうして、会話を終わらせる。大きく深呼吸をして、スマホを置く。今日もいつも通り配信をする。最近はリスナーも増えてきて嬉しい。


《みんなぁ、こんにち子ワンコ。アニマリ二期生の子湾小春だよっ》


 私が挨拶をすると、コメント欄が勢いよく流れ始める。



コメント

・いえーい!

・今日はちゃんと名前を言えてえらい

・こんにち子ワンコ

・こんにちわん

・こわんにちは!

・↑挨拶がバラバラなんだよなぁ……

・なんだか今日、子ワンコちゃん嬉しそうじゃないかな?

・ほんとだ。今日はなんだかテンションが高い




「本日の予定ですが、まずは雑談をすることにします。内容は、私が大好きなゲームについてですね。あとは、個人的な悩み相談なども受け付けます」


 私は今日の予定を話す。そして、ゲームの話へと移る。もちろん狐狸妖怪について。狐狸妖怪は仕事、恋愛、生活などの様々な要素を含んだゲームだけど、私が一番魅力的に感じているのは戦闘要素。マイナーなゲームにしては余りにも高すぎるグラフィック、そして何よりも魅力的な戦闘システム。この二つを兼ね備えたこのゲームはとっても魅力的。だけど、人気はそこまで高くはない。やっぱり一般受けはしないんだよねこのゲームは。ゲーム初心者にとってとっつきづらいし、逆にアクション上級者にとっては恋愛や村の発展作業をしないと一部の必須スキルが取れなくて不便だし…………でも、狐狸妖怪はそれらの欠点なんか関係ないくらい……


 私は狐狸妖怪の魅力について語っていると、ふと気がつく。あれ? ……ただのゲーム語りになっちゃってる。いけない、いけない。今は配信中。いくら好きなゲームだからと言って大事な配信中に話しすぎては視聴者に失礼だよ。そろそろ話しを変えなくちゃ……



コメント

・ワンっ!?

・おや、ワンちゃんの様子が?

・どこかの娘を連想させる早口だな……

・???「僕の事かな?」

・子ワンコちゃんがこんなに一つの話題をずっと話すなんて珍しい……

・そういえば、狐狸妖怪ってあの娘が好きなゲームだったような

・語ると早口になってしまう呪いのゲームかな?

・【悲報】狐狸妖怪、呪いのゲームだった

・名前からして呪いのゲームなんだよなぁ……



 どうやらリスナー様たちに突っ込まれてしまったみたい。ついうっかり……反省しなきゃ。私は落ち着いて雑談モードへと頭を変え配信を行う。すると、良い感じの配信になってきた。……よし、このまま最後までやりきろう。


 それから配信を続けていくと、配信開始から一時間ほど経った。丁度いい時間なので配信を終えることにする。


「……さて、そろそろ終わりの時間となってしまいました。本日はご視聴ありがとうございます。それでは、さよなら子ワンコ」



コメント

・乙!

・面白かったです!

・またね!

・お疲れさまでした!

・楽しかったです!


 配信を終了させる。ふう、無事に終わったみたい。私は軽く伸びをして、息をつく。そして、まきさんへ連絡してみたところ、明日が暇であることが分かった。私も明日は自由なのでちょうど良かった。通話用アプリを利用していろいろと語り合う事にしよう。私はそのまま、配信用の機材を片付け、就寝した。


 次の日。何のトラブルもなく、無事にまきさんと話すことが出来た。私は狐狸妖怪の戦闘面が特に好きなんだけど、まきさんがそうとは限らない。なので戦闘要素についてまきさんと語る事が出来るかどうか不安だったけれど、どうやらまきさんは狐狸妖怪のオールラウンダーのようで、戦闘面の話をしてもついてこられた。戦いに関する私も知らない小ネタを知っていたので、とても楽しかった。


 そして、あっという間に時間が過ぎていった。気がつけば午後五時。慌ててまきさんとの会話を切り上げようとしたが、私はそこで欲が出てしまった。まきさんをコラボに誘ってしまった。私は企業勢で、まきさんは個人勢なので最初は断られるかと思った。だが、まさかのOKが貰えた。


 私はとても嬉しくなって舞い上がり、その勢いのまま通話を切る。

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