第五話 ピンク髪の少女とポニーテール

俺は、リリモさんに新しくもらった服とケースを見ながら、ニヤニヤしながらアルデンさんの店に向かっていた。


工房でこのケースをチラチラ見てたこともだが、音楽のことになると途端にバカになって精神年齢が下がるのは俺のよくないところだ。まあ、そう言ったところで多分一生治らない病なのだろうということは


薄々感じている。


そんなことを考えながら歩いていると、


ん……? なんだあれ……?! ピンク色の何かがすごい勢いでこちらに迫ってくる……?!


やばいやばい……! ぶつかる!!


そう思い、慌てて顔を塞ぎ防御態勢をとる。


……


あれ?なんともないな……


そう思い恐る恐る指の隙間から前を見てみると、


「あんたなんか私に比べればたいしたことないんだからね!!」


目の前には、ピンク髪で腰ほどまであるポニーテールを下げた高校生くらいの女の子がいた。


って、この子なんて言った…?


「なにボケっとしてるのよ! そんな様子で演奏なんてできるのかしら?!」


情報の整理が追い付かないが、もしかして俺、怒られてる……?


「ご、ごめん。俺が何をしたのかわからないが、何か癪に触ったことがあれば謝るよ。」


「なにもしてないわよ! なに言ってるの?!」


何を言ってるの?! はこっちのセリフなんだが……俺はどうしたらいいんだ?


俺がただ困惑していると、彼女がピンクのバイオリンケースを背中に背負っているのが見えた。


「あ、もしかしてそのバイオリンケース……!」


「え、このケースを知ってるの……?」


「ああ、さっきリリモさんにそのケースの試作品を見せてもらっていた。ということは、君もバイオリン奏者なの……?」


まさかのこんな早く出会えるとは思ってなかったので、笑顔が思わずこぼれてしまう。


「何ニヤニヤしてるのよ! 気持ち悪いわね…!、まあ、あなたの言う通り私はバイオリン奏者よ、この村唯一にして一番のね。」


「そうだったのか、それはすごいね!」


「……! うるさいわね、私は用事があってあなたに会いに来たんだから、黙ってついてきなさい。」


俺は黙ってうなずき、彼女についていく。


それにしても、なんで俺はこんなに嫌われているんだろう…?森で演奏をした時もピンク髪の人はいなかったし、彼女とは初対面のはずなんだけどな……。35にもなるともうおじさんだし、若い子には嫌われる運命なのかな……


会話もなく、目も合わせてくれない中歩いていくと、中央広場が見えてきた。


「あれ、やけに賑わってるな……」


たくさんの人が笑顔で会話をしていて、テーブルの上には豪勢な食べ物や飲み物が置いてあり、様々な装飾が施されていて綺麗だ。そして平場の中央にはステージ?のようなものがあった。


「なんだこれは……」


俺が広場の賑わい様に困惑していると、彼女がはぁ……とため息をついて説明してくれた。


「これはあなたのために用意されたコンサート会場よ。」


「俺のための……コンサート会場……?」


「そうよ、アルデンから村にいさせてもらう代わりに、演奏をしてもらうって言われたでしょ?


そしたらアルデンが張り切って『コンサート会場作って宴会でもしようぜ!』って言いだして。


それでいろんな人に頼んで、あなたが工房にいる間に会場の設営をしてたのよ。


まったく、ここまでしなくてもいいじゃない……。」


「すごい…俺のためにこんな豪華な会場を用意してくれるなんて……。」


アルデンさんと村の人たちには感謝しかないな。


「おっやっと来たか今日の主役!」


「あ、アルデンさん! 俺のためにこんな豪華な会場を…ありがとうございます!」


「ははっ、たいしたことねぇよ。俺も酒を飲む口実がほしかったしな! がっはっは!


それにネーシャも、トオルを連れてきてくれてありがとな!」


「べ、別にいいけど…」


さっきは名前を易々聞けるような雰囲気じゃなかったけど、『ネーシャ』って名前だったんだな…


アルデンが時計を確認すると、


「おっともうこんな時間だ! さっさとステージに上がれ!」



バンッと背中を叩かれステージのほうに押し出される。


体制を崩しながらも後ろを振り返ってみると、アルデンさんがグッドポーズをしてこちらに笑顔を向けていて、ネーシャはフンッとしてこちらから目線を外している。悲しすぎる……



さて、一旦そんな疑念は置いておいて、演奏を始めよう……。

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