第50話 パーティの相談
――翌日 冒険者ギルドにて
「という訳なんですけど……二人のパーティ加入ダメでしょうか?」
俺達早速、リッタとオリアを連れてアルネの所へと来ていた。
そして、事の顛末を話し、パーティ加入について相談している。
「二人とも大変じゃったな……詐欺パーティは少なからず存在するんじゃ。ギルドも解散させたり対策をしてはおるんじゃが……」
詐欺パーティ……そんな奴らが居るなんて想像もしていなかった。
よくある手口としては、新人を入れて難易度の高い依頼をこなし分け前を渡さないというものだ。
大体3人から4人がグルとなり、1~2人の新人を誘い犯行に及ぶ。
ギルドは最初から均等に分けて報酬を手渡すが、依頼報告前に解雇されてしまうとギルドとしてはどうする事も出来ない。
そう言った事が明るみになるとパーティ強制解散が下されるのだが、その場合はリーダーを入れ替えて新たなパーティを作成したりする。
そうやって狡賢くギルドを騙し、活動する奴らもいるそうだ。
「やっぱり知らないパーティに入るのは怖いですにゃ……」
「ある程度の自衛は出来るぞ。そいつらの個人貢献度とパーティ貢献度の差をみるんじゃ」
詐欺パーティに加入しない為の自衛としてアルネは二つ教えてくれた。
一つ目は相手の貢献度を見る。
個人貢献度がそこそこ高いにもかかわらず、パーティの貢献度が低い場合……
何かがあってその人達は以前のパーティを抜けているという事になる。
4人中1人だけそういった事になっているとかならいいが、全員がそう言う状態なら非常に怪しい。
不自然な状態だとアルネは言った。
そして二つ目は加入後に誘われた依頼内容だ。
いきなり人数制限がある依頼を、相談も無く受注されたら要注意。
人数を指定する分、報酬も上乗せされている場合が多い。
受注時に人数が揃っていれば、依頼を受ける事が出来る。
だが報告時には人数は問わないらしい。死んでいる場合などがある為であるが……。
そういったシステムを悪用し、5人で受けて新人を除名し3人で報酬を受け取る詐欺だそうだ。
「そう言えば……貢献度に対してパーティの貢献度低いなって思いましたにゃ……!」
「しかも入っていきなり5人以上制限の依頼を受けられたにゃ!!」
二人は思い当たる節があるようで、悔しそうな表情を浮かべていた。
「とにかく、うちに加入して貰えるならこちらとしても有難い。大歓迎じゃ! 加入しても、基本フリーだから個々で好きにやると良い」
アルネは笑顔で彼女たちを歓迎してくれた。
「ありがとにゃ!!」
「精一杯頑張りますにゃ!」
リッタとオリアは抱き合って喜んでいる。依頼を受けられるようになれば、しっかりと稼ぐ事が出来るだろう。
「フィアンさん、ネビアさん! 本当に有難う御座いました! これからも宜しくお願いしますにゃ!」
「よろしくにゃ!」
「さて……ではこのまま登録するぞ!」
早速二人の新たな冒険者カードを作成し、そのまま正式加入の手続きをした。
「これで手続きは完了です。そして、アルネ隊のメンバーが5名以上になった為、パーティ権限が上昇します。冒険者ギルドのメッセージ機能を使用する事ができるようになりました」
「お、そういえばそうじゃったな。便利じゃのう」
「なんですかそれは?」
ネビアがそう聞くと受付の人は説明し始めた。
「パーティメンバーが増えてくると、バラバラで活動する事は多いかと思います。遠くのもの同士で連絡を取る際に、冒険者ギルドにてメッセージをお預かりいたします」
「おおー便利そうだ!」
「とても便利ですよ。顔を出していただいた際に、メッセージが届いておりましたら、全国どこの冒険者ギルドでもお伝えする事ができます。こちらはメッセージを送って翌日には到着するので、迅速に連絡を行う事ができるという機能です」
元々はSNSやメッセージでリアルタイムに情報交換は出来たが……この世界でそう言った情報交換の昨日に出会えるとは感動だ。
「あ、そういえばフィアンと、ネビア! これを渡すのを忘れていたんじゃ!」
そういうとアルネさんは2枚紙を取り出し、それぞれに手渡した。
「推薦状じゃ。これが無いと試験がうけれん! うっかりしとったわい!」
アルネは笑いながらそう言っていたが、笑い事じゃない気がする……。
「リッタは推薦状とかは無いの?」
「リッタ達も推薦状で受けるにゃ。一族から毎年2通特別推薦状を出してもらえるんだけど、今年はリッタとオリアで2枚貰ったにゃ」
バッグから丸めた推薦状を取り出し、開いて見せてくれた。俺らの奴と少し体裁が違う、特別感のある推薦状だった。
試験を受ける方法は色々あるみたいだな。
「ところで皆はこれから暇だったりせんか?」
アルネは俺達にそう言った。
どうやら上級で人数が5人以上のパーティしか受ける事が出来ない依頼があるそうだ。
俺達4人は満場一致で同意し、さっそくその場で依頼を受ける事にした。
「これが依頼内容じゃ!」
そういってアルネは机に依頼書を広げた。
~依頼内容~
中央都市南部にある岩山の陰にできたシャドウホール型ダンジョンの捜索し、消滅させて欲しい。
できなくとも内部情報をマッピングし、少しでも情報を持ち帰って欲しい。
この依頼は5人以上、上級パーティーでの受注に限る。
「に、人数制限があるにゃ……!」
リッタは先程の話で早速人数制限の部分をまじまじと見ていた。
「ふぉっふぉ! うちも詐欺パーティかもしれんな……?」
「そ……そんにゃ……!」
リッタは絶望的な表情をしている。
感情が豊かで面白い子だ……。
「安心せい! 私以外でも、上級パーティでそんな事をする奴はいない」
そう言われリッタは安心していた。
上級は相当な努力の果てになれるパーティだ。
そんな馬鹿な真似をして解散させるなんてもっての外なのだろう。
そもそも上級パーティのリーダーの時点で相当な実力者である。
上級以上ならまっとうなパーティしかいないのだろうな。
「ところで、シャドウホール型ダンジョンって……?」
「そうじゃ。その場所にダンジョンがあるのではなく、触れると別の空間に飛ばされてしまうダンジョンじゃ」
それを聞いて俺はシャドウディメンションが頭によぎった。
原理的には同じような物なのだろうか……。
アルネはシャドウホール型ダンジョンの絵を見せてくれた。見る限りはブラックホールのような形をしている。
触れると別空間のダンジョンへと飛ばされる。ダンジョン内の構造を一切予測できないから危険度もその分増している。
前触れもなく突然発生し、人々を困らす厄介な現象だ。
発生場所にも規則性は無く、ある時にはとある貴族の寝室に発生し、大変な事になった事もあるそうだ。
放置していると、シャドウがそこから発生する事もあり、早急に対応する必要がある。
「最深部まで行ってボスを倒すのが目標じゃ。倒せばシャドウホールが消滅するからのう」
「にゃ! じゃあ帰れないのかにゃ?」
リッタは心配そうに言うがアルネは笑いながら、
「大丈夫じゃ! ボスを倒せばしばらく待つと元の場所へと飛ばされる」
「それなら安心にゃ!」
「まぁ今まで大丈夫だからと言って、次が大丈夫とは限らんがのう」
「にゃぁ……」
リッタは感情を本当にストレートに表に出す。
アルネはそれが楽しいのか、ちょいちょい意地悪な事を言っているな……。
「アルネさん、快諾してしまった後ですが……試験までに終わるでしょうか? 南部ってどこらへんですか?」
ネビアは心配そうな顔をしている。
その心配はごもっともで、俺も思い出したかのように不安になっている。
「それも安心せい! 上級以上の依頼の場合、ギルドの地下にある超高速移動装置が使えるんじゃ。それに乗るぞ!」
「な、なんですかそれ! 馬車以外にも移動手段が……!」
「こいつに乗れば街の端まで30分も掛からん! が……吐くんじゃないぞ……?」
ゼファーフォースで半日はかかるのにその装置だと30分……?
考えられない程の速さだ。
ジェットコースターのようなイメージだろうか……。
そうして俺達は受付に案内され、ギルドの奥へと移動した。
「おおお……何だこれ、凄いな……」
案内された螺旋階段を降りていき、大きな鉄の扉を開けた先には広い空間があった。
その場所は綺麗な円型の空間になっており、東西南北にそれぞれ円柱のような機械が置かれている。その円柱機械の先には、その形に合わせて掘られたトンネルが続いている。
「こ、これに乗るのか……?」
円柱の機械をよく見ると、均等に三箇所、ボブスレーで使う様な鉄板が付いており、それがピッタリとトンネルのレール上にはまっている。
レールに鉄板がセットされ、移動するんだろうなと想像は出来たが、肝心の動力源は何になるのかまったく想像がつかない。
ただ、フォルムだけは何となく近未来的な感じだ……。とりあえず言われるがままに皆でその筒に乗り込んだ。
座る場所にはシートベルトの様な紐が付いておりそれを装着し待機した。どうやって動くのか非常に楽しみだ。
・・・
――ドーン! ゴゴゴゴ……
フォルムからは想像できない移動方法だった。
「気合い入れていくぞ!!」
「おお!!」
――ドン! ドーン!
俺達が乗り込んだ後に、3人のマッチョな男達が乗ってきた。
何事かと思ったがその人たちは優秀な魔法使い達だそうで、乗ってきたと同時に後ろの方で構えて、火の魔法を先端の部分から外に撃ちまくっている。
この乗り物は爆発を原動力とし、驚くべき速度で進んでいっている。但し、魔法を撃つごとに速度に緩急が付いて、今にも吐きそうだ。
「[ファイヤエクスプロージョン]に似てますけど、見た事にない魔法ですね……」
「おう! これは[エクスプロージョンピラー]という上級魔法だ! その場で爆発するファイヤエクスプロージョンより、真っ直ぐ柱の様な形で爆発するこの魔法の方が、より早く遠く移動できるんだよ!」
「へー! 宜しければあとで魔法陣を見せていただけませんか!」
「おう、興味があるのか! 嬉しいね! なんぼでも見せてやろう!」
「有難う御座います!」
ネビアは後部の席でマッチョの一人と楽しそうに話しており、
一番前の席ではリッタが、
「もうだめにゃ……でちゃうにゃ……」
と青ざめた顔で言っていた。
「我慢してくれ……一番前のリッタが吐いたら大惨事になる!」
「お客様! 間もなく到着します。衝撃に備えてください!」
「これどうやって止まるんですかにゃ!」
とにかく皆で椅子にしがみ付き衝撃に備えた。
そして、その後マッチョの一人がレバーを強く引くと、キィィィ! っと金属の擦れる音が鳴り響き、大地震のような衝撃も来ていた。
「しぬにゃああああ!」
――キィィィ……ガシャン
「お客様、到着です。お疲れ様でした!」
そうして俺達はふらふらになりながら超高速移動装置から降りた。
「ジェットコースターより凄かったな……」
「そうですね……」
「さぁ早速現地へ向かうぞい!」
アルネだけは元気そうにしていた。
あの乗り物に乗った後なのに……凄いな。
「ヴッ……ニ"ャアアア……」
……俺達はリッタが木陰で吐き終わるのを待ってから、指定の場所へと向かった。
・・・
・・
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