第34話 ワンド領地へ

――馬村を出発してから数日後……


「見えた、関所じゃ!」


 森を抜けると、目の前には岩の砦があり、門があった。そこから左右に4m程の高さの岩壁が果てしなく伸びている。

 門前に軽装鎧の兵士が2名程立っているのがすぐに見えた。


「凄い……こんな大きな岩壁、どうやって作ったんだろうな」

「案外土魔法かも知れませんね!」


 馬村から関所までは整備された道だった為、移動にはあまり苦労しなかった。

 馬もあまり疲れた様子では無さそうだ。


 そして、アルネと共に馬を降りて、兵士の元へと向かった。


「兵士さんお疲れ様じゃ。ここを通り抜けたいんじゃが」


 アルネがそう言うと兵士が俺達の事をまじまじと見ながら、


「君達だけで森を抜けてきたのかい? 大変だったね。ここを通るには通行証もしくは冒険者カードを提示して下さい」


 と言った。

 アルネは頷きカードを出した。そして、俺達も同じように提示した。


「おや、上級パーティなんだね。それであれば瘴気の森を抜けるのは容易いか。どうぞ、お通り下さい」


 兵士がそう言うと、門が開いて通る事が出来た。

 思ってたよりもすんなり行けたので少し拍子抜けだ。


「簡単に通してくれるんですね……」


 ネビアがそう言うと、アルネはその理由を教えてくれた。


 国と兵士にもよるが、ある程度の査定項目があるそうだ。

 よく見られるのはパーティのランク、そして身に着けている装備等だ。


「ネビアが丸腰だと少し苦労したかもしれんの。そう言う意味でも[溶岩の盾]を買っていて正解かも知れん」

「よかったなネビア!」

「そうですね!」


 そんな会話をしながら俺達は門を抜けた。


・・・

・・


「ここからはワンド領地じゃ」


 門を抜けた先は簡単に整備された幅広の道が続いており、その周囲は草原が広がっている。

 草木は腰ほどまでの高さしかない為、非常に景色が広がって見える。

 何よりも、瘴気が全然漂っていない。空気が新鮮だ。


「すごい……ここまで広がった景色は初めて見たかも……」

「風が気持ち良いですね」

「さて、ここからペースを上げるぞ! 馬にとっても走りやすいからのう」


 俺達はアルネの言葉にうなずくと、そのままペースを上げていった。

 しばらく進むと、道が二手に分かれており、左はそのまま草原で、右手側には森が広がっている。

 

 俺とネビアはあの森は何だろうと気になったが、馬の速度が出ていた為、アルネに質問するのは断念した。


 そして、しばらく無言で走っている内に、辺りは暗くなってきていた。

 馬を走らすのをやめ、少しペースを落とした。


「良いペースで進んでいるのう。この調子で行けば2カ月もかからんかも知れぬ」

「ずっと整地された道があるのも大きいな。だれがやってくれたんだ?」

「途中で二つに分かれる道があったじゃろ? 森に続くんじゃが、そこにワンド城と城下町がある」


 このワンド領地はワンド城の王が統治しており、主にエルフが多く住んでいるそうだ。

 そのエルフ達が先程の関所から関所までの道を作ったらしい。


「瘴気の森も統治してくれればいいのに。村まで道を作って欲しいよな」

「ですよね!」

「まぁ厳しいじゃろう! 普通にハイシャドウが現れる森なんて危険すぎるからの」


 俺達はそんな村に住んでいたんだな。

 そのおかげである意味、俺達の居た場所は山賊などにも襲われないのだろうか。

 瘴気の森は……森自体が村を守ってくれているのかもしれないな。


「そろそろ野営地に着くぞ。今日はそこで一泊しよう」


 そう言って目の前を指差した。

 そこには大きめのパイプテントが4つ程設営されており、その前には石で組まれたしっかりとした造りの焚火がある。

 その焚火の前には10数名程の冒険者と思われる人が居て、それぞれ談笑をしているようだ。

 多分パーティー毎に分かれているのだろう。


「ここは野営ポイントじゃ。この道沿いは今後もこういった場所や茶屋が設置されておるぞ」


 この辺りはワンドとトゥーカを結ぶ道、メインストリートのような場所で、頻繁に旅行者や冒険者が行き来する。

 その為、茶屋やこういった場所が道沿いに用意されており、そこで商人が商売したりしている。

 日が暮れていた為、人通りが少なく馬を飛ばせたが、昼のこの道はこうも行かないらしい。


「いらっしゃい。夜更けまでお疲れ様。3名かな?」

「そうじゃ。3名頼む」


 そういってアルネは魂片を払い、場所を確保した。


「二人ともお疲れ様じゃ」

「アルネさんもお疲れ!」


 そう言って俺達は夕食を取る事にした。

 今日のメニューは宿屋の横で販売していた、シャドウチキンの目玉焼きと肉を挟んだサンドウィッチだ。

 ここの世界に来てからサンドウィッチを食べる機会が本当に増えた気がする。

 パンに肉や野菜を挟むだけだから手軽なのが大きな要因かも知れないな。


「フィアン、目玉焼きの白身……灰色ですね。黄身もちょっと黒いです」

「な! でも味は美味いぞ! シャドウが黒いからしょうがないよな……」


 今に始まった事ではないが、この世界の食べ物は基本的に少し黒ずんでいる事が多い。

 黒いシャドウと名のつく魔物を食しているから仕方がない事ではあるが……。


「そう言えば以前、魔物になる前の動物を食おうとしたことがあるんじゃが……」


 アルネは思い出したように話し始めた。


 アルネは若い頃、憑依されていない純粋なラビットを捕獲する事が出来たそうだ。

 そして、普段ならそのまま逃がすのだが、こいつをそのまま焼いたら食えるのではないかと疑問に思った。

 そうなれば後は実行するのみ、ラビットを生きたまま火にかけた。


 その結果、ラビットが少し焼け絶命した瞬間、魂片になり消滅した。


「生きたまま焼くとか結構ぐろいよアルネさん……」

「若気の至りじゃ……とにかく一切食べる事は出来なかったんじゃ」


 アルネがそう言うと、ネビアが真剣な表情をしていた。


「生きたまま丸かじりすれば行けそうですね!」

「いや、食えるとしてもそれは美味くないだろ……」


 俺がそう言うとネビアはたしかに! と笑った。


・・・

 

 一通り食事を済ませた後、ネビアはワンド城がどのような所なのかとアルネに質問していた。


「城下町には可愛いエルフ族の子達のダンスを見ながら酒を飲むような、大人向けの施設が結構あるぞい」

「それは何歳から入れるの?!」


 俺は思わず食いついてしまった。


「ふぉっふぉ。食いつきが良いの! 年齢制限はないぞ。いつか行ってみるといい」


 そう言われ、いつか必ず行ってやると心に誓い俺達は眠りについた。


・・・

・・


――村を出てから約2ヵ月後……


 ワンドから離れ、トゥーカ領地に近づくにつれ、草原で囲まれていた道のりは、岩と土ばかりの道に変わっていた。


「関所が見えたぞい」


 アルネが指さす方向を見ると、険しい岩山の間に作られた関所が見えた。

 

「兵士さんご苦労様です。トゥーカ方面に行きたいので通してもらえんか」


 そう言ってアルネはワンドに入る時と同じように冒険者カードを提示した。


「上級パーティか。アルネ殿、貴方は問題ないが後ろの少年の個人貢献度が0だ。実力が不透明な為、すまないが通す事は出来ない」


 ここにきて、関所を通る許可が下りない事態が発生してしまった。

 やはり、個人貢献度は重要になってくるのか。


「今この依頼を受けておってな。通してもらえんと達成できないんじゃ」


 そう言いながらアルネは依頼書を兵士に見せた。

 シャドウゴーレムのコア収集の依頼である。


「これはワンドで正式に受注したんじゃ。つまり、このパーティに国境を越えて依頼を受けていいと判断されておる。仮に私達が死んでしまっても、依頼したギルドの範疇での事になるのう」


 アルネがそう言うと、兵士の表情は少し喜んだ変わり、


「なら通って良いぞ。ただ、シャドウゴーレムは非常に危険だ。武運を祈る」


 と門を開けてくれた。


 俺とネビアは多少戸惑いつつも、アルネの後ろをついて行った。


「依頼書を見せたらすんなり通れたな」

「そうじゃな。この前少しだけ査定の話をしたじゃろ?」


 アルネはそう言って関所について話をしてくれた。

 

 関所では常に誰が来たか。どの兵士が誰を通したか。または通さなかったか。

 など全てきっちりと記録されている。


 そして、通した人物がその先で死んだりした場合、通した兵士にも責任が乗っかってくるそうだ。


「なら全員通さなければいいんじゃないの?」


 俺がそう言うとアルネは首を横に振り、


「兵士は人を通すと歩合を貰えるんじゃ。だから通したいってのもあるし、何よりも拒否が多いと兵士長などが出て来て整合性を調査される。わりとしっかり管理されておるんじゃよ」

「へー!」


 そしてアルネは依頼書を見せ、


「そして、兵士にとって私達は、歩合が貰えて尚且つ死んでも責任を問われないという、最高物件なんじゃ!」


 とドヤ顔で語った。

 冒険者ギルドで依頼を受けていて尚且つ、関所を通らなければならない人達が死んだ場合、それはギルドの責任となる。


「ギルドの責任と言っても、自分で依頼を受けた以上冒険者ギルドになにも罰は無いがのう!」


 アルネは笑いながら言った。

 それぞれ、色々な事情があるんだな。

 

「昼頃にはシャドウゴーレムの場所に着くぞ! とにかく死なない様に頑張るぞい!」

「おー!」


 そうして俺達は引き続き進んでいった。

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