第33話 馬で出発
――精霊界 (所在地不明)
ルーネとテーネは木の長テーブルに本を置き、顔がある大木の前に座って居た。
「精霊大木様! ルーネ達はいつ見習いを卒業できるのですか?」
ルーネは大木に質問した。
「何度も言っておるが、精霊界の知識をすべて身につけ試験に合格したら……じゃ!」
「それって……この本全部? まだ半分も行ってないのに……」
普段無表情なテーネがかなり嫌そうな顔をしている。
「ふぉっふぉ。勉強し始めてまだ4年程しか経っておらんのにもうそこまで来ておる。普通は大体10年はかかるんじゃよ」
「テーネ! 一緒に頑張りましょう! 早くずっとフィアンさん達の所に居たいですし!」
ルーネは張り切っていた。
精霊として覚醒したルーネとテーネはまずは見習い精霊となる。そして、まずは精霊界をある程度見まわった後、精霊大木様の元で勉学に励まなければならない。
それが全て終われば、晴れて見習い卒業となり精霊界の出入りが自由となる。
精霊界を見回っている時は契約者に飛ぶ練習も兼ねて、毎日フィアン達と会えていたが……勉学が始まった今、現在は原則三日に一度まで。
契約者が危険に陥っている場合は、すぐに行っていいルールとなっている。
「その調子じゃ。では昨日の続きから……精霊界には大きく分けて精霊虫、精霊獣、精霊、大精霊がいる。現存する精霊虫の名前と特性から話していくぞ」
精霊大木様がそう言うと二人は返事をして、本と向き合っていた。
・・・
・・
・
――フィアンとネビア 武具店
「いらっしゃい。おや、小さなお客さんだね。ゆっくり見て行ってね」
店員さんはそう言って受付で本を読んでいる。
「とりあえず値段を調べるか」
俺とネビアは武具や物品の相場をいまいち理解していない。なので出来るだけ物の価値、相場を理解して行こうと思う。
店の値段を把握し、他の店でも比べてみよう。3店舗位回ればざっくりと把握が出来るだろう。
店内の値札には、木の剣[無5 薄黄1 黄3]とか、鎖張り木の盾[黄8 青1]とかで書かれている。
とりあえず全てデバシーに記入して行こう。
・・・
魂片は通貨としての役割はもちろん、それ自体も燃料だったり、武具に混ぜたりして使用する。
触媒紙にも魂片が材料として使われているようだ。
まるで小粒銀などで取引する、江戸時代の様な通貨制度だな。
「君達は何処から来たんだい?」
「アルネさんと森の奥からきました!」
「アルネさんの連れか。奥の村に住んでるんだねえ」
店員さんがこちらを気にし始めた。
デバシーという謎の道具で何かしているから気にもなるだろう。
「店員さん! 盾で自慢の一品みたいな商品は無いですか? 良ければ見せて欲しいです!」
ネビアがそう言うと、店員は他に客が居なくて暇だから、いいよとカウンターの奥にある棚を開けた。
「これだよ!」
そういって取り出してきたのは赤い小型バックラーだった。
表面はまるで縄状溶岩のような模様になっており、光沢感はあまりない。
「これはシャドウマグマゴーレムのコアで作った[溶岩の盾]だよ。軽量なのに硬度は高いし、火耐性が高いよ」
「凄そうな盾ですね……! 少し触っても良いですか?」
「いいぞ。なんならつけてみるか?」
そう言ったのでネビアは大きく頷き、試着させてもらった。
「サイズも丁度いいですし、本当に軽い……! こんなに硬いのに!」
ネビアがそう言って褒めると店員さんも少し上機嫌になっていた。
「先代の渾身の品なんだ! 凄いだろう?」
「凄いです……これも売っているのですか?」
「ああ、紫4で販売しているよ。もしこれが売れでもしたら一月半は店を占めても問題ないな!」
って事は紫3程毎月稼げたら生活が出来るって事なのか。
大体月30万円って感じか。
これが一般市民なのか富裕層なのか分からないが……。
その辺りも追々理解して行こう。
「じゃぁ店員さん! これ売ってくれ!」
俺はそう言って紫4つをカウンターに並べた。
「へっ……!? え! ま、まいど有難うございます!」
店員さんの態度が一変し、手を揉んでいる。
「いや、フィアンいきなりこんな使って大丈夫ですか?」
「命を守るための出費だ。生きて稼げばいいだろ! 死んだら全部終わり、出来る準備は全部しておこうぜ」
何度も死にかけて、こういった価値観が少し変わった気がする。
ゲームをする時、以前ならエリクサーを最後まで使わなかったが今なら出し惜しみなく使いそうだ。
「そうですね。フィアン! これ大事に使います!」
「おう! じゃぁそろそろ宿に戻ろうぜ」
「また来てくださいねー!」
店員さんの気持ちの良い挨拶で俺達は店を後にした。
~フィアンのデバシーmemo~
溶岩の盾を購入!
残金:赤1個・紫1個・青5個・濃い黄色20個
残金もつけているけど、いつか面倒になってやめそうだな……。
・・・
・・
・
宿に戻ると、アルネはくつろいで待っていた。
「おやネビア、良い盾を購入したな」
「紫4で購入しました!」
「ほう。ちょっと見せるんじゃ」
アルネはそう言ってネビアから盾を受け取り、軽く叩いたりじっと眺めたり色々調べている様子だ。
「この仕上がりで紫4は非常に安いぞ……量産品では無く一点物じゃな。中央都市なら紫6以上で販売されているじゃろ」
「店の人が先代が作った渾身の盾と言っていました。そんなに価値のある物をお得に買えたんですね!」
俺達はハイタッチで喜んだ。
「さて、そろそろ夕食の準備が出来ているはずじゃ。食べに行こう」
そう言って部屋から出て、食堂へと移動した。
宿屋の食事はシャドウラビットの肉をパンにはさんだサンドウィッチとスープだ。
夕食っていうよりはランチっぽいが……肉が溢れる程挟まれていた為、なかなか満腹になった。
そして、食後にはホットミルクを持ってきてくれた。
俺達はそれを飲みながら3人で、明日以降の相談をしていた。
「そうじゃ、言い忘れておったが、二人は私のパーティに所属となっているが、個人貢献度が0のままじゃ」
個人貢献度とは、俺達がどれだけ依頼をこなしたかを表す数値だ。
パーティ貢献度はアルネの頑張りで稼げているが、個人貢献度は0……つまり何も依頼をこなしていないのがすぐにわかる。
学園での試練を受ける際に、冒険者カードを提示しなければならない可能性がある。
その時貢献度0はさすがに良くないだろうとの事だ。
「だから依頼を二つ受けておる。それを達成して中央都市で報告するぞ」
依頼内容は、シャドウゴーレムのコアを3つ納品とシャドウウォーカーの棍棒を1本納品だそうだ。
「シャドウウォーカーの棍棒って、あのウォーカーは持っている棒の事ですか? あれってウォーカーが死んだら消滅しますよね……?」
「基本はそうなんじゃが、極稀に棍棒が姿を残してドロップすることがあってな。すぐに手に取りさえすれば形をそのまま残すんじゃよ」
「不思議な現象ですね……!」
「とはいえ、本当に稀じゃ。本格的に狙う時間はないからあまり気にせんでええ。さて、明日に備えて寝るとしよう!」
俺達はアルネに返事をして、そのまま皆で部屋に戻り眠りについた。
・・・
・・
・
「アルネさんが居ないな……」
起きたら朝食が準備されていたので、とりあえずそれを口にした。アルネさんの姿が見当たらない。馬を先に見に行ったのだろうか……。
そんな事を考えながら朝食を終え、出発の準備を行った。
「お、おはよう二人とも。馬の準備は出来ているぞ」
そう言ってアルネは馬を見せてくれた。
「おお、綺麗な茶色の馬だね!」
「そうじゃろ。早速乗ってみるんじゃ」
そう言われたので、二人で騎乗した。
乗り方は俺が前でネビアが後ろだ。
そして、軽く馬を操作し、移動をして見せた。
「凄いのう。完璧に操作できとる! これなら問題なさそうじゃな」
「いつでも行けるぞアルネさん!」
そういうとアルネは早速行こう! と慣れた手つきで馬に飛び乗り、そのまま出発となった。
「アルネさん、馬はいくらだったんですか? 払います」
「何を言うとる! そんなもんは不要じゃ」
そういうアルネにネビアは申し訳ない表情をしている。
「いや、本当に大丈夫じゃ。むしろ馬を中央都市で売ればプラスになる可能性があるしの!」
先程の馬村で育てられた馬は瘴気に強く、強靭で速いと有名だそうだ。
瘴気が漂っている環境だからか、馬にもある程度瘴気耐性がついており、瘴気が満ちた場所などに行く冒険者にとっては非常に有用な馬だそうだ。
「お主らの馬は赤1と紫5で購入したんじゃが、中央都市で赤4以上で売れるはずじゃ」
「すごい! かなり儲けが出るな! 5頭くらい引き連れて行けばよかったな!」
俺がそう言うとアルネは笑っていた。
どちらにしてもその値段だったら払えなかったな……。
馬の値段は150万円程か。
競馬の馬を買うとすれば何千万かかる事を考えると、少し安く感じるな。
「さあここは平坦な道じゃ。少しスピードを上げるぞ」
そう言ってアルネは馬の速度を上げた。
そして、俺達の茶馬はアルネの馬を追うように勝手に速度を上げてくれた。
・・・
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