第22話 謎の場所

 帰宅後の夕食は肉料理が中心だった。

 この世界でもいっぱい動いた後の肉はかなり美味しい。

 夕食は基本的に家族4人に加えルーネとテーネも一緒だ。

 基本的に精霊界に居る二人だが、夕食はみんなで食べると言うルールがこの6年で出来上がっていた。


 だが……今日の二人は不貞腐れた様子だった。


「ルーネ……光纏を使わなかった事怒ってる……?」

「よくわかってますねフィアンさん! 何故私達を使わなかったのですか!」

「ごめんよ……!」

「いつでも行けるように精霊界からずっと覗いていたのに一切呼んでくれないとは驚きですよ!」

「不服……」


「すいません二人とも! もちろんあれで負けそうになったら使ってました。たまたま使えなかっただけです!」

「その通りだ。でもあれは超奥の手だ。基本的には使わずに何とかしたいんだよ」


 俺とネビアは必死に精霊二人の機嫌を取った。


「二人とも……全力って言ったのに奥の手を残してたんだね」


 ゼブは驚いた表情を浮かべていた。

 ルーネ達の手前そう言ったが、正直使う気は一切なかった。

 何故なら、両親程のレベルで奥の手まで使っていたらこの先絶対に大変だと思っていたからだ。

 ネビアも同じ考えだっただろう。


 また、あの技は消耗が激しい。

 極力消耗を抑える為に、俺は闘気でネビアは魔力のみを消費する形が理想形だ。


「そういう事ならまぁいいでしょう!」

「やむなし」


 俺はルーネを撫でた。

 機嫌がなおってくれてよかった。


「ネビア、アルネさんが来るまではあのダンジョンで路銀を少しでも稼いでおこう。明日早速行こうぜ!」

「そうですね」


「ダンジョン!? 危ないから……」


 ティタがそう言おうとすると、ゼブが抑止した。


「ティタ、二人は父さん達に勝ったんだ。もう好きにさせてあげようじゃないか」

「う……そうね……」

「気を付けて行ってくるんだよ」


 そう言うゼブに俺達は元気よく返事をした。


・・・

・・


 ダンジョンの中の瘴気は格段に薄くなっていた。

 俺達は足元を照らしながら、シャドウを倒した場所を見渡した。


「魂片、落ちてないですね……」

「そうだなぁ。この辺で確かに戦ったのに」


 拾わなかった魂片がまだ落ちているだろうと思い、俺達は入念に探した。

 だが……結果的にどこにも落ちていなかった。


「地面にずっと落ちてたら消滅するとかですかね?」

「そうだな……とりあえず一番奥のシャドウナイトが居た場所行こうぜ」


 そう言う俺にネビアは頷き、そのまま最深部まで走り抜けた。


・・・


 その部屋でも注意深く地面を探った。

 

「お、ポツポツ落ちてるぞ!」

「落ちてますけど、無色や薄い黄色しかないですね」


 ネビアの言う通り価値の低い魂片しか散らばっていない。

 シャドウナイトほどの強い敵を倒したのにこんなものなのか?

 そう思っていると目の前に落ちていた黄色い魂片から瘴気が溢れ出した。


「あれ、無色に代わった!」


 俺がそう言うとネビアが近寄ってきてその魂片をまじまじと見た。


「地面に置いたままにしていると、劣化して価値が下がり、最終的に消滅するんじゃないでしょうか」


 俺はその考えで間違いないと思い同意した。

 実際目の前で劣化していたしな。


「とりあえず、部屋中を調査して全部回収しましょう! 小銭も大事ですから」

「そうだな! 俺は手前側を探すから、ネビアは玉座らへんを頼む!」


 ネビアは了解と言い玉座の方へと向かった。


 そしてその後も地道に探し続け、思ってた以上には回収できた。


「フィアン! ちょ、ちょっとこっちに来てください!」


 ネビアは慌てた様子で玉座の背の後ろから手を振って俺を呼んだ。


「どうした? 価値の高い魂片が落ちていたか!?」

「違います。これを見てください」


 ネビアが指さした先には、1から9まで数字が書かれた電子パネルような機械、そして横の石板には6桁の数字が刻印されていた。


「なんだこれ……! セキュリティドアを開ける電子パネルみたいだな」


 そしてそのまま横の数字を見つめ、


「"414199"って書いているな。これがパスワードだったりしてな!」


 俺はそう言ってネビアに笑いかけたが、ネビアは慌てた表情のまま、


「フィアン、気がつかないですか! この数字……パネルは英数字だし、こっちに書いている数字は漢数字、ローマ数字、あとはひらがな……全部この世界の数字ではない。僕らが居た世界の数字ですよ……」


 そう言われ俺もハッとした。

 さっと読んでしまった6桁の数字だったが石板には”四・いち・Ⅳ・一・九・きゅう”と書いてあるのだ。


「何だこれ……。この世界の人達がこの文字を知っている訳ないよな……?」

「考えられるのは、僕たち以外にも転生者のような存在が居るって事でしょうか。しかし、何故このような回りくどい書き方を……」


 俺達が転生者として存在している以上、他に転生者は居るかもしれないとは思っていたが、

 こんな痕跡を見つけるとは思わなかったな。

 こうやってわざわざ書いていると言う事は、この世界の住人はこれを解読できないと分かっているから。

 もしくは俺達の様な転生者を招き入れる為に……?


「考えていても仕方ない。電子パネルに数字を入力してみよう」

「そうですね……」


 期待と不安を胸に、電子パネルに数字を入力した。

 そして全て打ち込んだ瞬間、後ろの壁が、扉1枚分ほどのサイズで光始めた。


「これは一体……」


 光ってはいるが、こちら側に光が漏れ出していないような不思議な状態だった。

 何と言うか、まるで光が吸い込まれているように見える。


「入ってみるか」

「ちょっと怖いですが……!」


 俺達は恐る恐る光に手を入れた。

 すると、一瞬で光に吸い込まれ視界は真っ白になり、そのまま別場所へと移動していた。


「なんだここは……」


 後ろには光の扉がある。多分もう一度入れば戻れるのだろうと安堵しつつ周囲を見渡した。

 四方の壁は機械的なパイプが張り巡らされており、前方には頑丈そうな大きな電子扉が構えていた。


 そしてその電子扉の前に"OPEN?"と言う真っ赤に光る文字が浮かび上がっていた。


「触れてみるか……!」


 俺はその文字にそっと触れた。

 すると、"OPEN?"から"OPEN"の文字に変換され青く光りはじめた。

 そして、空気が抜けるような音と機械の擦れる音が鳴り響き、扉はスライドするように開いた。


「何ですかここは……」


 扉がスライドして開くと同時に、扉の先のフロア照明が一斉に点灯した。

 そこには60坪シングルテニスコートより少し狭い程度の広さのフロアが広がっていた。


 真っ先に目についたのは、中央部に鎮座している長方形の真っ黒な箱だった。

 下部は機械のパイプや配線で埋め尽くされており、箱自体は電気信号の様な光が行き来している。

 そして壁沿いには作業台が並んでおり、冷蔵庫の様な箱やケースなども設置されている。

 モニターの様な設備はないが、空中に文字が浮かび上がり、よくわからない数値が常に動いている。

 一瞬ライトペイントかと思ったが、それとは違いもっと機械的な感じがする。


「人の気配がないのに、埃一つない。かなり綺麗な空間だ」

「そうですね……それに見た事の無い機械類が沢山ですね。まるでSF映画の世界の様です」

「だよな! おかしいだろこれ」


 ネビアは突然大声を出した俺にどうしたんですか。と聞いた。

 そして俺はそのまま疑問に思っている事を口にした。


「俺達と同じ転生者だとして、何故見た事も無いような機械や装置に溢れているんだ?」


 ネビアにもその問いの答えは見つからなかった。


「とりあえず……調査してみましょうか」


 俺はその意見に同意し、早速この部屋の調査を入念に行う事にした。

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