第20話 卒業試練

 ゼブはテニスコートくらいの面積の線を地面に引き、角4カ所に触媒紙を置いた。

 発動すると光の柱が上がって、それを基点に光の壁のようなもので四方が囲まれた。


「これは結界コートと呼ぶんだ。この中で大けがをしても瞬時に回復するんだ。たとえ首が飛ぼうともね」


 ゼブはそう説明してくれたが、俺達はどうにも信用できなかった。

 首が飛んでも大丈夫って……そんな事があるのか?


 表情で信じていないのをゼブは感じ取ったようで、ティタと共に結界コートの中へと入った。


「結界コートに入ったら30秒待機する事。その後活性化するからね」


 そして、30秒後、ゼブが


「よしティタ! 僕の首を刎ねてくれ!」


 と言い、ティタは分かったわ! とためらいなくゼブの首を刎ねた。


「うわ……容赦ないな……」


 そう思った瞬間、コート内が真っ白に光始め、ゼブとティタは最初に30秒待機していた場所へと戻っていた。


「本当に首が戻ってますね」

「ああ、どうなってるんだ……?」


 俺とネビアはその現象に驚くばかりであった。


「この中で致命的なダメージを受けると、結界が反応して、時間を約20秒だけ戻してくれるんだ。そして、戻した後に範囲内にヒーリング効果が発生するようになっている。公式な決闘などで使われる、特別な結界だよ」


 ゼブはそう言って説明しながら再度触媒紙を設置していた。

 どうやら一度使うと効果がなくなるらしい。


「元々はこの結界コートも、魔法士4人が基点となり設置しなければならなかったんだけど、触媒紙でそれも必要なくなったんだ」


 ゼブは少し寂しそうな表情をしながら言った。


「さぁゼブ! 話は終わりよ。フィアンは母さんと、ネビアは父さんと対決よ」

「ああ、そうだね! ネビア、父さんと勝負だ。結界コートへ」


 ゼブはいつもおっとりとしているが、結界コートで待つ姿は迫力を感じる。

 正直、負ける気がしない。それよりも結界コートを完全に信用できてないせいもあって、万が一殺してしまったら……

 という不安の方が大きい。

 ネビアの表情を見るに俺と同じ事を考えているようだ。


「ネビア、この中なら絶対に大丈夫だ。安心して全力で来なさい」


 ゼブはそう言うと力を溜め込むような構えをし、全身がうっすらと光り始めた。

 そして、気合の入った大きな声を出した瞬間、薄い光の膜を纏った姿になり、背中には光り輝く天使の翼が出ていた。

 だが、それは片翼だった。堕天使だからなのだろうか。


「何ですかこれは……!」


 光を纏ったゼブの姿には神々しさがあり、すごく気圧された。

 シャドウナイトと対峙した時並の迫力である。


「堕天衣・兵翼……だ。さぁネビア、試験を開始しよう!」


 俺はその状況に魅入っていると、ティタが横で説明をしてくれた。


 [天衣]とは、天族のみが使用できる上級を越えた天級の技である。

 この状態になると、魔力と闘気を常に消費してしまうが、身体能力が大幅に上昇する。魔装魂の超強化版のような技である。

 また、体内に天力を生成する事が出来るようになり、それを自身の闘気や魔力と混ぜて使用する事で威力が格段に上がる。


 本来は[天衣~]という名称だが、ゼブは堕天使になっている為、堕天衣と呼んでいる。

 片翼になる分、能力は減少してしまっている。


「来ないならこちらから行くよ」


 ゼブはそう言って4枚の触媒紙を取り出した。


「メテオ・ストライク!」


 魔法陣が触媒紙から飛び出し、上空移動、そのまま発動した。

 4つの隕石のような大きな火球がネビアに向かって落下していく。


「まずいですね……!」


(ネビア)――ドレインマジック


 闇中級魔法[ドレインマジック]

 魔法陣を描きそれ自体に効力が発生する。

 放たれた魔法等の魔力を吸い取ることができる。

 闘気は全く防ぐことができない。


 ゼブはその瞬間、もう1枚の触媒紙を発動していた。


(ゼブ)――ウォータースピア


「前方に撃っても[ドレインマジック]があれば!」


 俺は思わず声に出たが、ネビアの考えも同じで、前方に[ドレインマジック]を展開した。

 だが、ウォータースピアはその直前で上方向に軌道を変え、[メテオ]を貫いた。


――ドン!!


 その瞬間、[メテオ]は頭上で爆発し、大きな衝撃と煙、水蒸気を巻き上げた。


「く……ッ!」


(ゼブ)――ウインド


見習い級魔法[ウインド]

魔法陣から風を発生させる。


 ゼブはすでに触媒紙を発動し、[ウインド]を発動させていた。

 その風で水蒸気と煙は一気にネビアの周囲を取り囲んだ。


「くっ……!」


(ネビア)――ウインドツイスター


風中級魔法[ウインドツイスター]

ウインドを形状変化させる。

風の竜巻を発生させる。


 視界がゼロになったネビアはすぐさま[ウインドツイスター]で煙と水蒸気を吹き飛ばしたが、

 前方には既にゼブの姿は無かった。


「遅いよネビア」


(ゼブ)――ファイヤ・エクスプロージョン


 ゼブはネビアに対して至近距離で[ファイヤエクスプロージョン]を発動し、爆発する直前で後退した。

 その衝撃でネビアは前方に吹き飛ばされてしまった。

 

「ネビア!!」


 正直、このような展開は全く想像していなかった。

 ゼブ……思ってた以上に強い。


「間一髪ですね……!」

「ネビア、いいぞ!!」


 ネビアは身体に分厚い岩の壁を纏っていた。


「流石だよネビア……恐ろしい速さで[ロックウォール]を発動させたね」


土上級魔法[ロックウォール]

サンドボールと地面の土に対して形状と状態を変化させる

岩の壁を発生させる。


「正直ギリギリでした」

「本気で来ないと勝てない……理解できたかな?」


 ゼブは触媒紙を手に取りながら言った。


「理解出来ました。全力で行きます!」

「その調子だネビア。休ませないよ!」


 ゼブに対して、ネビアは風初級魔法[ウインドスピア]や水中級魔法[アイススピア]で抵抗している。

 しかし、その攻撃はゼブに回避され一切当たっていない。

 天衣の状態のゼブは本当に速い速度で動いている。


「フィアン、ちなみに母さんはゼブより早いわよ? 覚悟しときなさいよ!」


 まじかよ……あれより早いっていったいどんな速度だよ……。


「わかりました……!」


 ネビアの心配をしている場合じゃないかもしれないな……・。


「魔法職は近づかれると脆い。それなのにネビア……君の魔法発動速度はとてつもなく早い……その弱点を多少はカバーできているがまだまだ甘いよ」


 ゼブは戦いながらレクチャーしている。

 そして、触媒紙での即時魔法を駆使し、ネビアとの距離を縮めている。

 ネビアはそれに対し、後退しながら魔法を発動し、間合いを守ろうとしている。


 激しく動きながらの魔法の攻防である。


 正直、魔法同士での戦いはその場で魔法を撃ち合うような戦いを想像していた。

 それがこんなスタイリッシュな戦闘を見れるなんてな……。


「ネビア! 何処を狙っているんだい。それじゃ父さんには一生当たらないよ!」


 ゼブは何と言うか……夜の営み中の時くらい元気だ。

 ……と今はそんな事を考えている場合ではないか。


(ゼブ)――サンドストーム

サンドボールを形状変化し移動術式追加

小規模な砂の嵐を発生させる。


 ゼブはまたネビアの視界を遮断し消えた。


「終わりだよネビア!!」


 ゼブはそう言って2枚の触媒紙、[ファイヤエクスプロージョン]を発動させた。


――ドン!!


 そして、大きな音と衝撃が発生した。


「ネビア!?」


 その後、すぐに爆発が収まり、二人の姿が見えた。


「これは……どうなったの?」


 ティタがそう呟くのも無理はない。

 ゼブの後方には崩れかけた岩壁、そして、ゼブとネビアの間にも岩壁が発生している。

 ネビアは立っているが、ゼブは丸焦げになって倒れている。


 誰がどう見ても完全に死んでいる……。


「これはやりすぎだろ……」


 俺がそう呟いた瞬間、結界の中が真っ白に光り輝き見えなくなった。

 そして、それが収束した後には棒立ちした無傷の二人の姿があった。


「完敗だネビア。よくやったね!」

「有難うございます」


 二人は握手をして結界コートから出てきた。


「なぁ最後どうなったんだ!?」


 俺がネビアに駆け寄り聞いた。


「実は最後立ってた場所には魔法陣を先に描いていました」


 ネビアはそう言って状況を説明してくれた。


 ゼブの攻撃方法は視界を遮断し、死角から攻撃してくるのが基本だった。

 その為、先に魔法陣を地面に設置した場所まで誘導し、わざと隙と死角を作った。


 そうとは知らずゼブは同じように死角から2枚のファイアエクスプロージョンを生成した。

 ネビアは詠唱を終えた瞬間、爆発に巻き込まれないよう後方に移動するゼブをアースウォールで阻止し、

 一瞬脱出に遅れた所をそのままアースウォールで四方八方を囲んだ。


 そしてそのまま岩壁内で大爆発しゼブが丸焦げになってしまった。

 という事らしい。


「最後の隙がわざと作った隙だったとはね……とにかくネビアは試練合格だ!」

「有難うございます!」


「やったなネビア!」


 俺はネビアとハイタッチをした。


「フィアン! 喜ぶのは早いわ。母さんに勝たなきゃだめよ?」

「へへ、そうだったね……!」

「フィアン、頑張ってくださいね!」

「まかせろ!」


 そういって次に俺が前に出た。

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