間話1 温泉村へ

――約4年後…… フィアンとネビア 10歳


「フィアンさん! 光属性を乗せる時は意識を剣先に集中しなきゃですよ!」

「くう、何度聞いてもよく分からない……!」


 決意を新たにしてから俺達は10歳となった。

 まずは[精霊魔法:光纏(こうてん)]の修行をした。これは全身にルーネの魔力を纏っている状態になる魔法だ。

 全身に精霊の魔力を纏う事で、精霊側が契約者の状況をすぐに判断でき行動できるようになるそうだ。

 例えば俺が攻撃によって怪我をしてしまった時、すぐさま察知しヒーリングを行うなどだ。


 また、その状態をにならなければ、精霊の魔力を借りて技を放つ事が出来ない。

 精霊と共に戦いには必須の魔法という訳だ。


 ただ、それは7歳の時に習得したが、次に行っている放つ剣術に光属性を乗せる修行に苦労していた。


「……ネビア、光の球だと威力が半減するから闇に変換……はやくして……」

「いや、もう少しアドバイス的なのは無いですかね……」


 ネビアも同じく7歳の時にテーネの魔力を纏う[精霊魔法:闇纏(あんてん)]は出来るようになったが、

 その後のライトペイントを闇属性に変換するという、俺には想像もできない修行に苦戦している。


「ふう、今日はこの位にするか……」

「そうですね……」

「二人ともお疲れ様です! ではルーネとテーネはまた精霊界に戻ります……!」

「お疲れ様! 精霊界での仕事、頑張ってね」


 そうしてルーネとテーネはまた精霊界へ戻っていった。


 この纏の状態は魔力と闘気をずっと消費し続ける。

 俺は闘気は無限に近いが、魔力は有限だ。そっちでどうしても疲れが出てしまう。

 ネビアはその逆だろう。


 俺達は荷物をまとめ、いつもの修行場である、家の裏手の森から帰宅した。


「フィアン、ネビア! 10歳の誕生日おめでとう!」


 家に帰ると、テーブルには肉を中心とした豪華な食事が並んでいた。


「え、凄いご飯!」

「二人とも10歳になった、特別な日だからお祝いさ」


 ゼブは微笑みながらそう言った。

 この世界では誕生日を祝う習慣は無いと思っていたが10歳だけは祝うらしい。

 10歳は、魔法の基盤である[ライトペイント]を本格的に教える時期だそうだ。ちゃんと魔法を覚えられるようにと願いを込めて豪華な食事が出てくると言う。


「まぁ二人はライトぺイントどころか、既にいろんな魔法を使えるからもう教える事はほとんどないけどね……」

「本当に自慢の息子たちよ!」


 本来なら10歳から[ライトペイント]を学ぶのか……少し遅すぎる気がするな。

 とはいえ、子供は遊ぶのが仕事だし、普通に生活する為の勉強で精一杯か。


「父さん母さん、ありがとう」


 俺達は声を揃えて感謝を述べた。既に精神的にはいい歳だが、こんな風に祝ってもらえるのは純粋に嬉しい。

 とても幸せな気持ちだ。


「二人ともプレゼントよ!」


 そういってティタはネックレスを俺達に掛けてくれた。俺のネックレスには2cm程の赤い球体の石、ネビアには青い球体の石がついている。

 模様と光沢感はまるでタイガーアイのようだが、石の中をよく見ると、小さな光る粒子の群小がゆっくりと動いている。


「何これ……すごく綺麗だ」

「これは何ていう石ですか?」


 ネビアはそう質問すると、ティタは少し困り顔になり、


「ゼブ! 説明してあげて!」


 とゼブの後ろへ後退した。


「フィアンの赤いのが[紅の瞳]、ネビアの青いのが[空の瞳]と呼ばれている宝石だよ。とても希少な物だから、肌身離さずつけておいてね」


 ゼブがそう言ったので、俺達はずっとつけておく! と元気よく返事をした。


「あとこれも渡しておかないとね!」


 ティタはそう言って、俺達に小さな布袋を手渡した。

 中を見ると、シャドウを倒した時にドロップする綺麗なガラスの欠片が入っていた。


 濃い黄色が1個、薄い黄色が5個、無色が10個……ネビアも同じ量だ。


「これって……シャドウがたまに落とす奴だよね?」

「よく知ってるね! ってシャドウを討伐してるし当然か……」

「いやでも、これ何に使うの?」

「これは、通貨だよ」


 そしてゼブはそのまま説明してくれた。

 どうやらこのガラス片と思っていた物は魂片という名称で通貨の役割を持つらしい。

 無色10個で薄い黄色1個、薄い黄色10個で濃い黄色1個分の価値があるそうだ。

 まさかこれが通貨だったとは驚きだ……。

 持ち切れない分そのまま捨ててきた事を、今になってとても悔やんでいる。


「でもこれが通貨って……持ち切れなくなったら大変ですね」


 ネビアがそう言うと、ゼブは1枚の魔法陣が描かれた触媒紙を取り出し、


「それはこれで解決できるよ!」


 と言って、触媒紙の上に無色の魂片を12個置いた。


「コンバージョン!」


 ゼブはそう言いながら触媒紙に魔力を込めた。

 すると、魔法が発動し、無色の魂片が光り出し薄い黄色の魂片へと変化した。


「こうやって多くなったら両替が出来るんだよ」

「おお、凄いですね! でも今10個の価値なのに12個使ってましたよね?」

「ネビア、いい質問だね。これは術者の魔法精度によって必要数が前後するんだ」


 10個の魂片からきっちり必要分を抽出し、まとめる事が出来ればそれが一番良いが、

 それで失敗してしまうと全て消失してしまうそうだ。

 なので保険として余分に混ぜているらしい。


「両替士の達人なら、9個で上の段階に出来るらしいよ。まさに錬金術だ」


 ゼブは微笑みながら言った。

 しかし、その表情はネビアの、両替士って? の質問で少し曇ってしまった。


「両替士は昔、冒険者パーティに必須の職業だった。だけど父さんが作った触媒紙がでてからは余分に混ぜれば誰でも変換が可能になってから両替士は……」


 ゼブがそう言うと、ネビアは


「いや! 便利になる事はすごくいい事です! 難しかったことが誰でも出来るようになれば巣くわれる人の方が多いです」


 とフォローした。

 ゼブはネビアを撫でながら、有難うと返した。


 昔あった職業が機械化などで便利になって無くなる事は以前の世界でもよくあった。

 それは異世界でも同じなのだろう。


「んで、明日はお出かけしよう! お小遣いはその時好きに使うといいよ!」

「はーい!」


 その後も楽しい時間は続き、気がつけば寝る時間になっていた。

 にしてもお出かけか……家族で出かけるってのも何気に初めてかも知れないな。


・・・

・・


――翌朝


 ゼブは出掛ける準備をしていた。

 カバンにタオルや着替え、食料などを詰め込んでいる。


「父さん、今日は何処に出かけるの?」

「隣の村だよ。大きな温泉があるんだ」

「それって父さん達がこの前行った大きめの村ってとこ?」

「いや、そことは別の村だよ」


 この瘴気の森には3つの村があるみたいだ。

 俺達が居る村、父さんが物資補給に行った大きめの村、そして今回行く温泉のある村だ。


 温泉の村はここから馬で2週間程掛かるそうだ。


 ちょっとしたお出かけってレベルじゃねーぞ!

 と思わずにはいられなかったが、小旅行気分で楽しもうと思う。


「ゼブ! 馬の用意が出来たわ!」


 ティタはそう言って大きめの2頭の馬を引き連れてきた。

 ゼブは早速馬に荷物を括りつけ、すぐに出かける準備が整った。


「さぁ出発だ!」

「馬から落ちないように気を付けるのよ!」


 両親は楽しそうにしている。

 ゼブはいつもより張り切っているようにも見える。


 家族で旅行という行事……学生の頃以来だな。


・・・


 馬は軽快に大きな木と木の間を進んでいく。

 温泉村への行くルートは確立されているらしい。

 とはいえ、人の手入れは一切行き届いておらず、少しだけ他より道幅が広い程度である。


 俺はティタの前に座って馬に乗っているが、正直狭くて居心地が悪い。

 せめて俺とネビアの二人で座るとかならな……。

 そんな事を考えていると、前方を進むゼブが止まれと右手を上げた。


 皆はそのまま静かに馬を降りてゼブの視線の先を見た。


「ティタ、あの黒い馬……馬主が逃げたって言ってた馬じゃないか?」

「確かに……!」

「何よりも蔵がついているのに繋がれていないし、人の気配もない」

「よし、捕まえましょう。この馬も安く貸してもらえたし」


 両親はそう言った相談をした後、俺達にここで馬と待機するように命じた。


 馬なんか捕まえられるものなのだろうか……。

 だが、その不安は不要だった。

 ゼブが手際よく触媒しで氷の壁を生成し誘導、待ち構えたティタが飛び乗ってそのまま馬を落ち着かせた。


「すごいよ二人とも……!」


 そう言うと、ティタはドヤ顔をしていた。


「さて、捕らえたのはいいけどどうやって一緒に連れて行こうか」


 ゼブは黒い馬をじっと見ながら悩んでいた。


「それなら俺とネビアで乗るよ!」

「危険じゃないかしら……?」

「大丈夫だと思うよティタ。この馬は本来とても大人しいんだ」


 ゼブはそう言って黒い馬を撫でている。その馬の表情はとても穏やかに見える。


「じゃぁ馬の乗り方をレクチャーしておこう」


 そうしてこの日は馬の乗り方勉強に費やした。


――その夜……


「二人とも上達が早いな……」

「やっぱり天才なのよあの子達は!」


 両親は黒い馬を二人で乗りこなす俺達を見ながら言った。


「なぁネビア、思ったんだけどさ……走った方が早くない?」

「それはフィアンの体力あっての話ですよ……」

「でも二人なら俺がネビアを背負って走った方が早いな!」


 俺が笑いながらそう言うと、確かにそうですねとネビアも笑った。


「とはいえ、多くの荷物を運んでくれるから、馬も便利ですよ」

「そうだな……」


 そんな会話をしていると、


「ご飯できたよー!」


 とゼブの声が聞こえた。

 俺達は馬のまま近くへ行き、リードを木に括りつけた。


「おお、美味しそう……」


 火にくべられた土鍋の中には、カフェオレのような色でクリーミーなスープがたっぷりと入っていた。


「これは何のスープですか?」


 ネビアはそう質問すると、ゼブは茶色とこげ茶色のマーブル模様の低木を指差し、


「あの木……リッチバターウッドの枝を乾燥させたものだよ」


 と言った。

 俺達はその低木に近づき観察してみた。

 葉っぱはついておらず枯木にしか見えないが、

 枝が黒っぽいのから薄い茶色まで色々な濃度の茶色で構成されていてそのグラデーションが結構綺麗にも見える。


「この枝が食えるって事……?」

「不思議ですね……」


 俺の中の常識では枝を食べるって事はあまりしない。

 シナモンがそれに近いかもしれないが……。


「この木は栄養価も高いんだ。ミルクに匹敵すると言われているよ」


 ゼブはそう言ってといって薄い茶色の枝を折って取った。

 なるべく茶色くない枝が美味しいそうだ。


「このままでは食べられないから、日当たりのいい場所で最低3日は乾燥させないとダメだね」

「なるほど……」


 知識が無ければ見つけても絶対スルーしていたような枯木だ。

 良い事を聞いたな。


 そしてその日はそのスープとパンを堪能し、そのまま眠りについた。


・・・

・・


――2週間後……


「村が見えてきたよ!」


 前方に居るゼブは大きな声で言った。

 この2週間は大体同じ感じの1日だった。


 日中は馬で移動し、夜は寝言を設置し、夕食を食べて寝る。

 最初は面白かったが途中からは飽きていたのが正直なところだ。


 ただ、移動中にネビアと魔法や剣術の話をしているのは面白かった。


「おや、ゼブさん! お久しぶりです。元気でしたか?」


 村の入り口で座って居た老人がゼブに声をかけた。


「お久しぶりです。この通り元気ですよ! ちょっと温泉に遊びに来ました。村長さんはいますか?」


 ゼブがそう言うと、村長はいつも通り家にいると答えていた。


「ティタ、ちょっと村長さんの家に挨拶に行くよ。先に宿に行っててくれ」

「わかったわ。よし、じゃぁ荷物をまとめてー!」


 ティタに言われた通り、馬から荷物を下ろし村に入る準備をした。

 この時点で少し硫黄のような匂いが漂っている事に気がついた。

 温泉のいい香りに違いない。


・・・・・・

・・・


――村長宅


 ゼブは一人で村長の家にお邪魔していた。


「村長、お元気そうで良かった」

「ゼブさんも元気そうで何よりじゃ」


 すると部屋の奥から一人の女性がお茶を持ってきてくれた。


「ゼブさん、いらっしゃい」

「エアルさん! お久しぶりです」


 ゼブは微笑みながらそう言った。


「ふふ、何十年かしか経ってないですし、お久しぶりって程でも無いですよ?」

「あはは、確かにそうですね。天族的にはこの前ぶりって感じですね」

「でも前にあった時とは変化がありますよ。ギル、ミリュ! いらっしゃい」


 エアルはそう言って階段の上に向かって声を出した。

 すると、二人の小さな男の子と女の子が降りてきた。


「こんにちは!」


 二人はゼブに向かって元気よく挨拶をした。

 その姿を見てゼブは驚きの表情だった。


「え……!」

「驚いた? ゼブさん。私の子供達よ」

「とても驚いたよ……! まさか天族でティタ以外に子供が出来る人に会うとは……」

「え!?」


 ゼブのその台詞に、エアルもかなり驚いていた。

 その後は自分の子供の話で盛り上がった。

 村長はその間、話を聞きつつギルとミリュの相手をしていた。


「お邪魔します! あ、ゼブまだいたのね。村長様に迷惑よ!」


 待ちくたびれたティタがゼブの元へとやってきた。


「あ、そうだね。すいません! 僕たちは宿の方へ戻ります。あ、これお土産です!」


 ゼブはそう言ってアルネさんの場所で採れた果実を3つテーブルに置き、荷物をまとめた。


「温泉、ゆっくりと堪能して行ってくれ!」

「有難うございます村長」


 そういってゼブ達は村長の家を後にした。


(エアルさん……前をそうでも無かったのに……ティタ以外に初めて少し……魅力を感じてしまった。ティタには絶対に言えないな……)


 ゼブはそんな事をこっそりと思いながら、宿へと向かった。


・・・

・・


「はぁー生き返るうー……」

「ですねー! 最初に入るこの、全身が震える感じたまらないです」

「あはは。二人とも、おじさんみたいな台詞だね」


 俺とネビア、ゼブの3人で名物である温泉に来ていた。


 温泉は村の奥にある丘の上にある。

 大人20人は入れるであろう広さで露天風呂になっており、満天の星空を眺める事が出来る。

 風呂は男女で仕切られいるため、ティタはこの広さを独り占めしているのだろう。


 この村には3日間程滞在する予定らしい。

 ゆっくりとした時間を過ごせそうだな。


――翌日


 朝起きて朝食をとった後、俺達は村長の家に向かった。

 と言うのも、村長の家に住んでいるエアルという方の子供が、俺達と同じ歳程の兄妹らしく、是非会ってほしいそうだ。


「お邪魔します」

「おお待っておったぞ!」


 村長がそう言って扉を開けてくれた。

 中に入るとすぐに、二人の子供が待っている事に気がついた。


「あ、初めまして! フィアンです!」

「僕はネビアです」


 早速二人でその子達に挨拶をした。

 だが、二人はエアルにくっついてこちらの様子を見ているだけだった。


「ほら、二人とも、挨拶なさい!」


 見かねたエアルはそう言って二人を前に出した。


「おらはギル」

「……ミリュです」


 そんな感じで照れくさそうに返事をしていた。

 兄のギルは8歳で妹のミリュは7歳らしい。

 いわゆる普通の子供達だ。


「折角だし、4人でなんかして遊ぼうぜ!」

「そうですね! いつもどんな風に遊んでるの?」


 俺とネビアがそう提案すると、ギルがボールを持ってきた為、それで一緒に外で遊ぶことにした。


「フィアン兄ちゃん、背中につけてるのは剣?」

「ああ、そうだよ!」


 俺はそう言って剣を手に取り見せてあげた。


「おお、かっこいいぞ!」

「危ないから触ったらだめだよ!」

「ちょっとだけ!」


 俺は中々引かないギルに折れてしまい、指先を柄部分に少しだけ触れさせた。


「わ……」


 ギルはすぐに触れるのをやめた。闘気を吸われた感覚があったのだろう。


「な? やばいだろこの剣……」

「うん……!」

「でもおら、剣士になりたいんだ」

「そうなのか? なら木の剣でちょっと練習してみるか?」

「いいの! やりたい!」


「フィアン、ミリュちゃんが魔法を練習したいらしく……」


 ギルと会話していると、ネビアがそう言ってきた。

 なので、それからは俺とギルは剣術、ネビアとミリュは魔法の練習に付き合ってあげた。


・・・

・・


「お疲れギル! 中々筋が良かったぞ」

「ありがとうフィアン兄ちゃん!」


 ギルの太刀筋は最初はふらふらしていたが段々と上達していた。

 どうやら才能はあるみたいだ。

 今後が楽しみだな。


「そう言えばギル、この村に雑貨屋とか無いか?」

「あるぞ! こっちだ!」


 ギルはそう言ってこの村の雑貨屋に連れて行ってくれた。


「ここか! 温泉に行く時に素通りしていたな……」


 雑貨屋は温泉がある丘に向かう道の筋にあった。

 店外のテーブルには木の彫り物やネックレスなどが飾られていた。


「店、狭いからおらは外で待ってるよ!」

「ああ、分かった有難う!」


 そういってギルは店外に設置されていた木の長いすに座った。

 入り口の扉は開いており、緑色ののれんがかかっていた。


「いらっしゃーい」


 中に入ると、確かにギルの言った通り狭い店だった。

 店自体は広いのだが、商品が乱雑に置かれている為、歩く場所が少ないという感じである。


「武器や防具もおいてるのか……」


 店内の奥には防具や武器、本が置かれている。

 かと思えば店員さんの居るカウンターテーブルにはパンや飲み物が展示されているし、

 何と言うか……ド〇キのような場所だな。


 並んでいる商品を見ている内に、魂片の価値が分かってきた。

 大体無色が10円、薄い黄色が100円、濃い黄色が1000円程のようだ。

 ここでの物価しか見てないから何とも言えないが、いったんこの目安で覚えておく事にする。


「特に欲しいものはないな…・・・そうだ。両親に何か買うか」

「いいですねフィアン!」

「ネビア、いつの間に!」


 どうやらネビアもミリュに案内されこの雑貨へと来たらしい。

 そして、お金は両親へのプレゼントに使うと言う事で意見がすぐに一致した。


「両親にプレゼントかい! 良い子達だねえ。それならこれなんかどうだい!」


 店員さんに俺達の会話が聞こえていたらしく、頼んでも居ないのに商品を探してくれた。

 そして、どんと出してきたのは木製で鳥の模様が彫られた可愛らしいコップ二つだった。

 鳥の模様は微妙に違う姿をしており、夫婦茶碗ならぬ夫婦コップか。


「フィアン! これいいじゃないですか! いつも同じコップを使ってますし、あっても全然困らないですよ!」

「そうだな! おばちゃんこれください!」

「あいよ! 薄い黄色6個だよ!」


 早々に会計を済まし、コップは袋に入れてリボンをつけて貰った。


「あとこれはサービスだよ」


 店員さんはそう言って、赤と青のコップを俺達に手渡してくれた。


「え、いいんですか?」

「いいよ持って行きな! 君達、10歳のお祝い買い物だろ? 自分に何もなしじゃ味気ないだろう!」


 そう言われ、俺とネビアは悪いです、お金払いますと言っていると、


「これは私からのお祝いさ。大人しく受け取っときな!」


 と言われ、俺達は素直に頂く事にした。


「ありがとう! 大事に使うね!」


 そう言って俺達は店を後にした。

 このお店……この村に行ったら必ず寄らせて頂こう……。


 その後、店外で待っていたギルとミリュに合流し、少し遊んだ後解散した。


・・・


「ただいまー」

「おかえり! 楽しかったかい?」

「楽しかったよ! ところで二人にプレゼントがあるよ!」


 そう言って俺とネビアはリボンの袋を手渡した。


「いつも俺たちのために色々してくれてたから感謝の気持ちだよ!」

「どうぞ、開けてみてください」


 そういうと、ゼブは袋を開けて、二つのコップを取り出した。


「まぁ可愛いコップね!」

「二人とも……」


 両親は凄く嬉しそうにコップを見ていた。


「二人ともありがとう! 大好きよ!」


 母さんがばっと俺たちに駆け寄ってきて、俺達を抱きしめた。


「ありがとうね。大事にするよ」


 ゼブもとても嬉しそうに微笑んでいた。


 そして、コップはさっそく今晩の夕食で使ってくれていた。

 もちろん、俺達も貰ったコップを使った。


・・・

・・


「村長さんお世話になりました。また遊びに来ます。

「ああ、いつでも来ておくれ!」


 ゼブは村長さんに挨拶をしていた。


「ギル! ちゃんと素振りしとくんだよ!」

「わかったよフィアン兄ちゃん!」


「ミリュも魔法の勉強、頑張ってね」

「がんばるっ」


 今日はいよいよ帰る日だ。

 本当に楽しい時間だった。

 またいつか、絶対に来よう。


 そう思いながら、俺達は温泉村を後にした……。

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