異世界に転生したら俺が二人になってた。[新生版]
@TOYA_notte
第一章 幼少〜少年編
第1話 始まりの日
やれと言われればやる。
小さな会社に就職し、社会人になってからは社長の従順な部下として、そこそこに成果を出して来た。だが、自ら何かを考え実行する様な事は一度もなかった。
社長命令には何も考えずに従い続け、気が付けば29歳で社長の右腕として評価される程までになっていた。
ある日、いつも通り社長に呼ばれた。そして、A4サイズの書類にサインを求められた為、内容も読まずにサインした。これは時々ある事だったので、その時は何も気にしていなかった。
だが……その日を境に社長は姿を消し、俺の人生は転落した。
社長は会社の資金を私利私欲の為に使用していた。その結果、会社の資金繰りが悪くなり、いわゆる闇金に手を出していた。
その連帯保証人の書類に、俺は言われるがままサインをしてしまったのだ。
これが、何も考えずに誰かに与えられた役割を演じていた結果だ……自業自得だ。
それからは社長がやっていた仕事、取り立てに追われ、全ての責任は側近だった俺に負わされた。
日を追うごとに辞めていく従業員たち、その負担は全て俺に乗っかってきた。
せめて俺が二人いれば……。
そんな事を常々、強く願っていた。
しかしそんな願いは叶うはずもなく、終わりの見えない借金、仕事に追われ続けた。
休みも寝る時間も無い。
そんな日がずっと続いたある日、久しぶりに家に帰り玄関を跨いだ瞬間、ふっと意識が遠のいた。
・・・
・・
・
あまり思考が出来ない。
ぼんやりと眺める先には、玄関で倒れる俺……そして、毎日の様に取り立てに来ていた闇金業者の姿が見えた。
闇金業者は怒っているような、焦っているような表情で電話を掛けていた。
その後、救急車のサイレンの音が鳴り響き、そのままゆっくりと視界は暗転していった。
それから本当に長い間、浮遊感に包まれながら真っ暗な場所に居た。
そして、いつからか目の前には青い光がふわふわと俺の近くを浮いていた。
ずっと暗い場所だったが、青い光が居てくれたおかげで、恐怖心は無かった。
すると、真っ暗だった景色が突然明るくなり、どこかの上空へと変わった。
見下ろすと、見慣れた街並みが見えた。
俺の部下だった人たちが誰かの墓の前で泣いている。
あの墓は一体誰の……。
そう思った瞬間また景色は暗転し、しばらく暗闇が続いた後明るくなった。
見慣れた街並みのはずだが、どこかいつもと違う雰囲気の景色が広がっていた。
そして、古いラジオのような音質で
「ダークマターと総称されるエネルギーの一部抽出に成功。科学技術に大きな発展に期待」
と聞こえ、また景色は暗転した。
それから何度も、上空から街並みを眺めるような景色になっては暗転する。
と言う現象が続き、その度に街並みはどんどん綺麗で未来的に変化していった。
「反転式重力制御装置の開発に成功」
「反重力装置を用いた建設の新工法が実現」
「ダークマターのエネルギーを用いた異次元に新しい小型デバイス発表」
まるで歴史の紙芝居でも見ているかのように、景色が見えると同時に声が聞こえていた。
そして次に景色が開けた時、
そこには高層ビルが立ち並び、空中に浮いた電光掲示板があちこちで光っていた。
空には見た事が無い形状の空飛ぶ乗り物が、光の線で出来た道を規則正しく列をなし飛んでいる。
俺はそんな景色を前回までと同じように上空からぼーっと眺めていた。
しばらくすると、空が真っ黒の霧に覆われ始めた。
大規模な台風や地震などは今までに何度か見ていたが、この現象が初めて見た。
そして、見える範囲の空全てがその霧で完全に包まれた後、
岩が粉砕されるような大きな音が霧から鳴り響き、
無数の真っ黒の隕石が降り注ぎ始めた。
その後すぐに暗転したが、その光景が目に焼き付き、俺は形容し難い恐怖感を長い間感じていた。
・・・
・・
・
次に意識が戻ってきた時、視界は霧がかかったように少しだけぼやけていた。
とは言え、完全に見えない訳では無く、夢の中での視界のようなおぼろげな見え方をしている。
姿勢は仰向けに寝ている状態のようで、最初目に映ったのは高い大理石の天井とシャンデリアの様な照明だった。
特にシャンデリアは王族などが住まう城などに飾ってそうと思えるほど、高級感が漂っていた。
俺はしばらく、キラキラと輝くシャンデリアを眺めていた。
長い間夢を見ていた気がする。
しかし、どんな夢だったか思い出す事が出来ない。
残っているのはとにかく怖かったという気持ちだけだった。
そうだ、今日は打ち合わせが3件入っていたな……
唐突にそう思い出し、さーっと血の気が引いた。
今何時だ!?
そう思い起き上がろうとするも身体に全く力が入らなかった。
起きているのに身体が起きていないような状態……。
昔、一度かなしばりにあった事があるが、その時の感覚に近い。
しかしここまで動けないのは初めてだ。
辛うじて首を動かせた為、視線をやや右に向けると、黒髪ロングヘアーの美麗な女性が座っていた。
まだ、夢を見ているのか。早く覚めてくれ……!
そう思いながら必死に起き上がろうとすると、徐々に手足は動くようになってきた。
起き上がりさえすれば目が覚めるはずだ!
そう思いながら頑張ったが、結果は何も変わらなかった。
ふう……と一呼吸を置いて、一旦落ち着く事にした。
そして、隣にいる女性が誰なのか気になってきた為、改めて観察した。
本当に綺麗な女性だ。年齢は二十歳前後に見える。
真っ白な肌に黒髪のロングヘアー……お人形さんみたいに可愛いとはまさにこの方の事だろうと思った。
しばらく見ていると、その女性がこちらを振り向いた。
俺は目が合ってしまい、少し気まずい気持ちになった。
しかし、その女性は驚いた表情をしてから、じーっと俺を観察した後、喜びの表情で
「フィアンが目を覚ましたわ! ああ、ありがとう! 神様!」
と声を上げた。
なんだ、どういう事だ?
そんな事を思いつつ、泣きながら俺に頬を寄せてきた女性に対して、とりあえず俺は手で撫でてあげようとした。
その時、俺はとんでもない事に気がついてしまった。
(あれ……この小さい手、俺の意思と連動してる……!?)
なんと俺が動かしている手は、どうみても小さな赤子の手だったのだ。
自分が赤ちゃんで美人に擦り寄られる夢を見るなんてな……!
久しぶりの熟睡で鮮明な夢を見ているのだろう。起きる事も出来ないし、この際もう少しだけ楽しもう。
そんな事を考えながら、女性にもらったミルクを全て飲み干し眠りについた。
・・・
・・
・
「ネビアも目を覚ましたわ! ゼブ! こっちに来て!」
女性の歓喜に満ちた大声で俺の意識は戻ってきた。
まだ夢の中なのか……。
「ティタ! 本当かい! まって、すぐに行くよ!」
そう思っていると、次に男性の声が聞こえてきた。
その男性も黒髪だった。少しぼさぼさの無造作ヘアーで銀縁の眼鏡を掛けており、おっとりとした雰囲気だった。
とても優しそうな男性だ。
どうやら昨日から居た女性がティタで、この男性がゼブという名前の様だ。
「生まれてから二週間ずっと寝たきり……本当にどうなるかと思っていたけど……」
ゼブは少し涙を浮かべながらそう言った。
それをみたティタは、
「ゼブ! とにかくお腹が空いているに違いないわ! ネビアのミルクもとってきて!」
と起きた俺にミルクを与えながら言った。
「本当に、二日続けて二人とも目覚めるなんて……なんて素敵な二日間なんだ」
ゼブはミルクを持ってきながら言った。
「ええそうね、夢なら覚めないで欲しいわ!」
そんな会話をしながら、ティタは俺がミルクを飲み干した後、もう一人の赤子にミルクを与えていた。
どうやら俺、フィアンとは別にもう一人赤子のネビアがいるらしい。
二台のベビーベッドに分かれている為、ネビアがどんな姿かは確認できなかった。
その後、ゼブとティタの会話を聞いていた。
俺とネビアは双子で、生まれてから二週間もの間、一度も泣かず目を覚まさなかったらしい。
鼓動はあるが、意識が無い為、植物人間状態とも言われていたそうだ。
俺がフィアンで、もう一人の赤子がネビア……。
父がゼブで母がティタか。
俺はそう心で顔と名前を一致させる作業をしていた。
一度で相手と顔と名前は覚えろと社長はいつも言っていたな。
社長……ふと思い出すとまた心臓がきゅっと締め付けられる気分になる。
あいつのせいで俺は……。
・・・
・・
・
この夢を見始めてから体感で既に数カ月経っていた。
その間は赤ちゃんらしく、ずっと寝るのと食べるのを繰り返していた。
ベッドに横になってゆっくりと眠れる、ご飯もしっかり食べられる。まぁ食べるといってもまだミルクだが……愛情が半端なく詰まっている気がする。
久しく感じることの無かった安息と言うものをじっくりと堪能している。
本当に幸せな気分だった。
定期的に来ていた医者は俺たちの回復ぶりを見て、信じられない……と驚きを隠しきれない様子だった。
そして、身体にも変化が起こった。
何と寝返りが出来るようになったのだ。
身体を動かせる喜び……ここまで感じた事はないだろうな!
そう思いながら何度も寝返りをした。
「見てゼブ! フィアンが寝返りしたわ!」
「おお、もう寝返りができるんだね。優秀な子だ……しかし、やりすぎじゃないか? 目が回るんじゃないか?」
「何言ってるの! 元気な証拠よ。優秀な剣士になるに違いないわっ」
ゼブとティタは微笑ましい表情で会話していた。
剣士か……俺はすごいファンタジーな夢を見ているみたいだな。
剣を振ったり出来るのは、4歳くらいになってからかな?
流石にそこまで長い間、夢を見れないだろうけど……。
にしても……長い夢だな。
いや、実際にはあまり時間は経ってないのかもしれないな。
数カ月も寝ているのならば、流石に誰かが起こしに来るだろうし……。
そして、俺が初めて寝返りしてから一週間後に、ネビアも寝返りが出来るようになっていた。
・・・
・・
・
それから何週間が過ぎた後、
俺はいつも通りミルクを飲んでは寝て、腹ごなしに寝返りをしていた。
すると、ドン! と爆発音と共に家が揺れた。
「なんでだ! お医者様! 信じていたのに……ッ!」
ゼブが誰かに叫んでるような声が聞こえる。何が起こっている……?
ティタが先に俺とネビアの元へ駆けつけ、ミルクなどを急いでカバンに詰め込んでいた。
その後、すぐにゼブがやってきて、
「ティタ、あいつらは本気だ。部屋の奥にある転移魔法陣を使って逃げよう。下で足止めはしているがすぐに解かれる」
いつもおっとりしているゼブが見た事が無い真剣な表情で話している。
そして、ベルトポケットからA6サイズ程の紙を1枚取り出した。
「ここにもアイスウォールの足止めを作っておく」
ゼブはそう言って、紙を構えた。
すると、紙から魔法陣が現れ、次の瞬間、扉側の壁一帯に分厚い氷の壁が発生した。
「さぁ行くよ。転移魔法陣の方へ!」
そういって俺はティタに、ネビアはゼブに抱き上げられた。
「転移魔法陣ってまだ未完成なんでしょ? どこへ飛ぶか分からないってこの前……!」
ティタはゼブについて行くも、不安そうな表情をしている。
「もうこれしか方法が無いんだ。さぁ急いで」
そうして、全員で箪笥の後ろにあった隠し扉の奥へと向かった。
その瞬間、後方で爆発音が鳴り響き、氷の壁に穴があけられた。
「呪いの子が目を覚ました! 殺せ!」
「やはり目を覚まさない内に処分しとけばよかったのだ……」
「探せ! 家の中からは出ていないはずだ!」
呪いの子……?
そう思いながら、鏡面の扉に目をやった。
その時、初めて自分の姿とネビアの姿を見た。
ネビアは青い髪で左眼が青く、俺は赤い髪で右眼が真っ赤だった。
呪いの子の意味は分からない。
ただ、俺達の事を言っている事は確かだった。
「こんな状況で一切泣かずに……本当に強い子達だね。でもこれ以上の惨状を見せる訳には行かない」
ゼブはそう言いながらまた紙を一枚取り出した。
それは目の前で小さな光を出しながら消滅し、魔法陣だけを残した。
「次に目覚めた時には、全てが終わっているよ……」
ゼブの優しい声が聞こえ、魔法陣がゆっくりと回転し始めた時、俺の意識はふっと遠のいていた。
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