第11話 ねこ物騙り(黒in白)


「わかったのそれだけやない。ルミ子さんなあ、今のもう一つの肩書は子会社タイ・イナバウアーの社長なんやで!」


 経済評論家のごろにゃんこゴーゴー組長から核心に迫る情報がもたらされた。


「……ということは……」


「「「「「「やっぱりタイだ!」」」」」


「きっとそうなんだな!」


「ごろにゃん組長、ありがとうございます。これで何とかなりそうです」


「ほんならよかったわ。タイ・イナバウアー・フードに行くんやったら、向こうにメールも送っといたるから、ワシの名前出してかまわへんで。なにしろ親会社の株、そこそこ持っとるさかい、無下むげには扱われへんやろ」


「なにからなにまで、ありがとうございます!」


「ごろにゃんのおじさん、ありがとさんなんだな」


「おお、ユーリか! 気ぃつけて行くんやで!」


「うん。気をつけるんだな」


「ほな、またな」


 ごろにゃんこ組長の電話が終わったタイミングでサブロウが皆を見まわした。


「と、いうことでだ。みんなでルミ子さんを探しにタイに行くぞ!」


「「「「おおーっ!」」」なんだな」


 カズマやチカやヨシノ、それに宇宙ネコのユーリが喚声を上げる


「ちょっと待ってください! 落ち着いてください!」


 ルミ子の孫のキョン子こと猫泉今日子が声を上げた。


「相手はロシアとかアメリカとか国家レベルの諜報組織なんですよ! バステト族でもないただの人間のみなさんが関わるには、あまりにも危険です!」


「キョン子さん。他に選択肢はないと思うぞ」


「どういうことです?」


「バステト族の仲間を頼る気なのかい?」


「もちろん、そのつもりです!」


「それはやめておいた方がいい」


「どうしてですか!」


「ルミ子さんをさらったのもバステト族だからさ」


「ええっ! ロシアかアメリカの諜報機関じゃないんですか?」


 サブロウの発言にキョン子が驚く。


「あの連中は諜報機関かもしれないが、おそらくルミ子さんとも顔見知りのバステト族だ」


「どうしてそんなことがわかるんですか?」


「一つはあのルミ子さんの余裕。全然おびえていなかった。二つ目はルミ子さんは強靭なバステト族なんだろう? 抵抗しようと思えば抵抗できるはずだが争った様子もない。おそらくその必要がないからさ。三つ目、ルミ子さんを連れ去ったらしい人物は『このばあさん』とためらうことなく言った。いくらキョン子さんが『おばあちゃん』と言おうが、ルミ子さんはあの若い容姿だ。20代、30代でもBBAババア呼ばわりする口の悪い日本人ならいざしらず。それはルミ子さんの実年齢が見かけ通りではなく本当にそれなりの年齢だと知っていることになる。以上を踏まえると、あの連中はルミ子さんをよーく知っている同じバステト族のはずだ」


「な、なるほど。だったらなおのことバステト族の仲間の手を借りたほうがいいとわたくしは思いますが?」


「あの場にはロシア側とアメリカ側の二つのグループが呉越同舟だった。ルミ子さん誘拐以降の展開は、仲間割れ? いや別行動だって言ってたよな。ややこしいことになっているなまったく。ここでバステト族の応援を呼んでも、裏でどっちかとつながっているかもわからない。誰が味方で敵なのかわからないぞ。こっちの情報が全部筒抜けになるどころか、下手したら妨害される。そうなったら、ルミ子さんの身の安全が保障できない」


「えええっ!」


「ロシアもアメリカもユーリの持つダミースーツには興味津々だろうさ。それだけじゃない。宇宙ネコのユーリの持つテクノロジーすべてを手に入れようとするだろう。もし、ルミ子さんという人質が使えるとなったら、ユーリもダミースーツどころかもっと色々なものをロシアなりアメリカなりに提供せざるを得なくなるかもしれない。それこそ世界の軍事バランスを絶対的に崩壊させるようなものを」


「あわわわわ、大変です!」


「世界の危機ってこと?」


「めっちゃ、やばいやん」


「それはとっても困るんだな。でも、人質じゃあないんだな。ねこじちなんだな。以後気を付けて欲しいんだな」


「わかった、善処する」


「それでは、わたくしはいったいどうすればよいのでしょうか?」


「ルミ子おばあちゃんを無事に取り戻したいんだろう? だからこそ、俺たちでタイにルミ子さんを探しに行こうって」


「だからと言ってこんな無謀なこと、みなさんがやるメリットが全然ないではありませんか!」


「なにを水臭い。袖触れ合うも他生の縁と言うじゃない!」


「ともだちのともだちは、やっぱともだちやろ! ユーリのともだちのルミ子さん助けないでどないすんねん!」


「ルミ子さんの身の安全と、世界の平和もたぶんかかっているんですよね。じゃあ、わたしたちって正義の味方ですよね!」


「そんなことよりナニより、こんなにおいしいマンガのネタ放っておけるか!」


「「「「おいおい!」」」」


「みんな、ありがとさんなんだな。キョン子さん、宇宙ねこのぼくもいるんだな。ルミ子さんも、みんなも、きっと大丈夫で絶対なんとかなるんだな」


「ううう、わかりました。みなさん、よろしくおねがいしますっ!」


「ようし、じゃあ、あらためて、みんなでタイに行くぞ!」


「「「「「おおおお!」」」」なんだな!」


「うーん」


「どうしたカズマ?」


「ボクなあんか大事なコト忘れとるような気ぃすんのやけど。なんやったかいな?」


「大丈夫、そのうち思い出すよ」


「そうですよ」


「ならええんやけど……」





*********************************************************************




 タイ、バンコク郊外。スワナプーム空港。


 サブロウたちオフィス・モノクロの四人とキョン子こと猫泉今日子は無事入管手続きなどを終わらせて到着ゲートを出てきたところだ。


「まさかこんなに早くタイに戻ってくるなんてね」


「チカさん、今回はみんな一緒ですね!」


「すみません、わたくしも誘っていただいて」


「当然だ。ルミ子さんを探すのに、キョン子さんがいないと話にならない」


 しかし浮かない顔をしている人物が一人。


「……」


「カズマ、あんたどうしてさっきから黙ってるのよ」


「ボクもういやや。なんでボクだけ毎回、あんなおっきいぬいぐるみを抱いて飛行機にのらなアカンねん。おかげでまたトイレ行くんもぬいぐるみ手放せへんかわいそなあんちゃん思われてもうた。ホンマ悲しい」


 身長180cmのマッチョなカズマは今回のフライトでも、機内で宇宙黒ネコのユーリが隠れた白ネコのぬいぐるみを抱え続け思い切り悪目立ちしていた。そしてユーリが尿意をもよおしたり空腹や水分補給を訴えるごとにトイレにまで持ち込み世話をするため、他の乗客や客室乗務員からの生温かい視線にさらされていた。


「いいじゃない。旅の恥はかき捨てで」


「今日のフライトもなあ、前と同じキャビンアテンダントさんたちやったんや。連続で見られてもうた。ボク恥ずかしゅうてあの会社の飛行機もう乗られへんよぉ。うわーん」


 カズマは手で覆った顔を横に振ってイヤイヤをしながら泣く真似をした。


「カズマさん、繊細なんですね」


「わたくしには意外でした」


「まったく、大きい図体ずうたいのくせに小さいことにこだわるんだから」


「ほっとけ、ほっとけ。ねてるだけだ」


「ほんなら次はキミらで抱っこしたらええやん!」


「ヨシノはダメだ!」


「そうです。わたしにはムリです!」


「あたしもパス」


「みんなちょっと冷たいんだな」


 トイレでぬいぐるみから菅⬜︎将暉の外見のダミースーツに着替え終わったユーリも追いついてきた。


「元はと言えばユーリが全部悪い! このエロネコ! セクハラネコ!」


「ついみしてしまうウールサッキングはねこの本能なんだな。本能には逆らいがたいんだな」


「そうですよ。偉大なる宇宙ネコ様に向かってなんたる言い草!」


「ほならキョン子さんが抱っこしたらええやん!」


「ごめんなさい。わたくしも機内で胸をまれるのはちょっと……」


「みてみぃ! 全部ユーリのセクハラのせいやんけ!」


「ごめんなさいなんだな」


「とんだ災難さいなんだな」


「なにさぶいシャレ言うとんねん! センセも抱っこしてみりゃええねん」


「なにを言う! 急な旅行でオレは機内でもマンガの原稿描いてたんだぞ! ぬいぐるみ抱かえてマンガが描けるか! 絵を描けない男のお前がユーリ担当で丁度いいんだよ!」


「ぐぬぬぬ、悔しいけど言い返せへん」


「もうしわけないんだな」


「ユーリ様、ご安心を。今ならわたくし揉まれてもかまいません!」


「かまうわ! 絶対アカンて! そないなハレンチ行為、今やったら捕まってまうど!」


「捕まるのは困るから、やらないほうがいいんだな」


「チッ、残念」


「あのう、皆さま、ちょっとよろしいですか?」


 六人、もとい四人と二頭が到着ロビーでわちゃわちゃやっていると、日本語で声をかけられた。見れば天然パーマに銀縁メガネで紺色スーツにワイシャツ、ネクタイのいかにも日本人サラリーマンな姿の男が激辛カップラーメン片手にこちらを見ていた。


「一色サブロウ様・ユーリ様の御一行様でしょうか」


「そうだけど。失礼ですがどちら様で?」


 サブロウが尋ねる。


「犬飼柴太郎さまのご依頼で皆さまをお迎えに上がりました」


「「「「犬飼柴太郎って誰?」」」」


「誰なのかな?」







つづく

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