第9話 バステトはこうして地球を征服する
「助けて〜!」
両側からサブマシンガンを突きつけられている美少女、というには流石に語弊があるから大人の美女、いや美魔女か。ともかく孫がいるようには見えない美女がカメラに向かって助けを求めている。
状況から見てあれがバステト族の長、猫柳ルミ子らしい。
「おばあちゃん! どうしたの!」
「おばあちゃんじゃありません!」
画面の女性が叫ぶ!
「「「「「「え?」」」」」」
サブロウたち三人と、キョン子ことバステト一族の猫泉今日子、そして宇宙ネコのユーリ・タチネンコは混乱した。
[なら誰やねん、この人?]
カズマが小声でぼやく。
[ひとではないんだな。バステト一族は基本はねこ型生命体なんだな。でも、あの姿はぼくの記憶にあるひと型のときの猫柳ルミ子さんなんだな]
ユーリも小声で握り拳をこめかみに当てつつ首をひねる。ちょっと招き猫っぽい。
[そうなのですよねえ]
キョン子こと猫泉今日子も小声でぼやきつつ、ユーリにシンクロするかのように握り拳をこめかみに当てつつ同じ姿勢で首をひねる。
[じゃあ、結局のところ誰なのよ!]
チカもこそこそとユーリやキョン子に問いただす。
するとそのタイミングで先方の女性が呼びかける。
「キョン子ちゃん!『ルミ子お姉ちゃん』と呼びなさいっていつも言ってたでしょ! おばあちゃんなんて恥ずかしいじゃない!」
「なんば言いよっと! こっちが恥ずかしかばい! このバカチンが!」
キョン子は大声で怒鳴ると、ビデオ会議アプリを閉じてしまった。
「「「「「おいおい」」」」」
「はっ! ついちかっぱイラついて、うちなんてことばしてもうた……」
「ふむ。猫泉さんは九州出身だったか」
「猫泉さん、見かけによらず短気なんだな」
「ドンマイです。キョン子さん!」
「まあ、気持ちはわかるけどね」
「せやけどいきなり通信切ったらアカンやろ」
「ううう、本当にごめんなさい」
「ところで猫泉さん、あれ本当にキミのおばあちゃん? なんだか異常に若いんだけど」
「間違いないです。おばあちゃんは見栄張りで『お姉ちゃん』と呼ばせたがってました。それに、若さと美しさと魅力を維持するためのアンチエイジングに文字通り生命を賭けてましたから。ときには高野山に住む無免許医の
「わーっ! アカン! それはマジでいろいろアカン! 混ぜるな危険や!」
「生命が危ないのは困るんだな」
「いや別の意味でも危ないと思うぞ!」
「あたしはM.O.手術がどんな手術かが気になるけどまさか……」
「M.O.手術、それは
「ああよかった」
「多くの異性を惹きつけられるように、フェロモンを分泌する組織の細胞を取り出し培養してからそれを無理矢理身体に移植するかなり危険な手術です」
「生命の危険よりもモテる方が大事なんですねえ」
「ヨシノさん、そこは感心しちゃダメ! で、その手術は成功したの?」
「成功してフェロモンの効果で多くの男性を惹きつけられるようになったのですが……」
「「「「ですが?」」」」
「効果があり過ぎて、無茶苦茶たくさんのストーカーに狙われるようになったんですよ」
「アカンやん!」
「怖いです!」
「たしかに危険な手術ね」
「過ぎたるは及ばざるが如しだな。ルミ子さんの失踪もストーカーから逃げる目的だったんじゃないかな」
「あ、それはないです。ストーカーなら瞬殺KOして山奥にポイポイ捨てていたんで。怖くはないけどガソリン代がかかるし鬱陶しいとは言ってましたが」
「ストーカーしてる方が危ない目にあっていました!」
「なんだかんだ言ってルミ子おばあちゃんもバステト族ですから、ニンゲンの男性じゃあ相手になりませんよ。余裕、余裕」
「そういやあルミ子さん、さっきもえらい余裕ぶっこいてへんかった?」
「うむ、嘘くさいと言うかなんか不自然だったな」
「相手が人間なら楽勝なはずですよね」
「ピンチじゃないってことじゃない?」
「すごく元気そうなんだな」
「うーん、たしかに」
トゥルルルルルルル
呼び出し音がなり、ビデオ会議アプリが勝手に立ち上がる。キョン子が渋々と言った感じで応答する。
「もしもし」
「キョン子ちゃん、いきなり切るなんて酷いじゃない!」
画面内ドアップで猫柳ルミ子が映る。
「おばあちゃん、大丈夫? ねえ、おばあちゃん!」
「わざとね! わざとでしょう! 憎たらしい!」
「おばあさま、おっしゃりたいことはそれだけでございますか? 特に御用がおありでないのなら通信を切らせていただきます」
「わーっ! なんていけずなのよ。わかったから、キョン子ちゃん助けて!」
「どうしたの?」
「あなた、さっきポストで宇宙ネコ様のこと聞いたじゃない?」
「それが何か?」
「NASAとロシア科学アカデミーの特殊部隊に、宇宙ネコ様のことで聞きたいことがあるって今
[NASAとロシア科学アカデミーって特殊部隊まで持っとったんか!]
[まあ、あの二大国はヤバい裏の組織をいくつ持っててもおかしくないわね]
[プロ相手だといくらバステト族でもルミ子さん、ピンチじゃないですか!]
「おばあちゃん、族長の仕事を勝手に放り出したからそんな目に合うんでしょ! 自業自得です!」
「こっちにも高度な政治的判断と大人の事情ってものがあるのよ。でも、キョン子ちゃんが宇宙ネコ様のことを言い出したってことは、向こうからコンタクトがあったんじゃない?」
「ええと、それは……」
「そこにいるのね! だったら早く宇宙ネコさまと代わりなさいよ!」
「なに勝手なこと言ってるのよ!」
祖母と孫娘がギャーギャー言い合っていると、宇宙ネコのユーリがそこへ割り込んだ。
「ぼくは呼ばれたんだな」
「え? 誰? このイケメン?」
今のユーリの外見は菅⬜︎将暉である。
「おばあちゃん、宇宙ネコのユーリ様です。わたくし、ネコのユーリ様に命を助けていただいたんです」
「お久しぶりなんだな、ルミ子さん。ぼくは宇宙ねこのユーリ・タチネンコなんだな」
「その喋りかたはたしかにユーリ様! これは失礼いたしました。孫娘もすっかりお世話になってしまって。しかし、随分とステキなお姿に♡」
「これは外側だけ地球のひと型生命体に似せたダミースーツなんだな。中身はいつものぼくなんだな」
「なるほど、そうでしたか。ではまず、ユーリ様が今回地球を直接訪ねてくださった御用はなにかお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「うん。ぼくは銀河連邦からのメッセージを伝えるんだな。ひと型生命体の宇宙進出をまだまだ抑えて遅らせて欲しいんだな。もっと早く伝えたかったんだけどルミ子さん側の通信設備が壊れてるせいで直接やってきて伝えることになったんだな」
「……たしかにそれはこちらのミスです。失礼いたしました。でも、ご安心ください。実はバステト族も地球自体が平和でかつ我々ネコ型生命体もより過ごしやすくなるようにすることで、ヒト型生命体の目を宇宙ではなく地球環境に向けさせるような長期計画を進めておりました」
「それはすごいんだな。どんな計画なのかな?」
「ありがとうございます。名付けて『人類ネコスキー化計画』。ネコのキャラクターをメディアミックスでアピールすることで、ネコはかわいい、ネコはかしこい、ネコはステキだ、ネコはともだちだと徹底的にヒト型生命体の意識に刷り込みます。そして、ヒト型生命体にネコと暮らしたい、さらに多様性を進めてネコをパートナーにしたい、それどころかいっそのこと自分自身がネコになりたいと思わせるのです。もうすでに8割方成功しつつあります。一例を挙げますとカクヨムという日本の小説投稿サイトでもネコ好きを公言する作者やネコを名乗る作者が非常に増えております」
「なるほどなんだな。するとどうなるのかな?」
「今まで地球の歴史の裏に潜んできたヒトに変身できるネコ型生命体、我々バステト族が、表の世界で正体を隠さず堂々と実権を握ることができます。そしてより直接的にヒト型生命体に対して我々のネコ的価値観をアピールしたり指導したりできるようになります」
「それは素晴らしいことなんだな」
「それで、宇宙ネコ様方におかれましてはこの件で是非わたしたちの後ろ盾になって頂きたく」
「ぼくらになにかいいことはあるのかな?」
「もちろんでございます! 後ろ盾になっていただく見返りとなる素晴らしい物を用意してございます。その準備もこの計画の重要な部分でございましたから」
「ならばぼくはOKなんだな」
彼らの話を聞いている純粋なヒト型生命体の四人組、チカ、カズマ、ヨシノ、サブロウは小声で話し合う。
[目の前でエイリアンたちが堂々と地球支配計画を進めているんだけど、いいの、コレ?]
[ユーリを助けたせいで、こんなことになるなんて思わへんかった。やってもうた]
[地球はどうなっちゃうんでしょうか]
[まあまあ、落ち着け。別にどうにもならないさ。それよりこんな面白い機会は二度とないぞ! もうちょっと黙って聞いていよう!]
[[[なんて呑気な!]]]
「ところでルミ子さんも、ぼくら宇宙ねこのことでアメリカやロシアからなにか質問されているんじゃないのかな?」
ルミ子の両側からサブマシンガンを突きつけている者たちがうんうんと頷いている。
「そうでした。今現在、ユーリ様以外に宇宙ネコの方や他の銀河連邦の方が地球にいらっしゃっていますか?」
「うん? 他には誰も来ていないはずなんだな」
「やはり。とすると正体不明の異星の方が十年位前から地球で違法活動をしている可能性が高いんです!」
「違法活動ってなんなのかな?」
「やっていることは平和を愛する我々ネコ型生命体とは真逆。地球での軍事行為……つまり戦争です」
つづく
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