その四:お供
「食料とポーション、後は……」
イオタは道具屋で買い出しをしていた。
私はエルフの村を出る時に、既に必要な物は準備が出来ているので、あとは食料を少し買い足すくらいでよかった。
「癒しの精霊魔法は使えるから、回復ポーションとかそんなに買わなくても大丈夫よ?」
「しかし、そうなると君の負担も増える。万が一の時の為に必要最低限には押さえるけど、買っておいて損はないよ」
イオタはそう言って、色々と買い込む。
まぁ、魔法とか使えない戦士となればそうだけど、私のように精霊魔法が使えるとそこまで買い込む必要はない。
とは言え、携帯の食料は私も買い込んでいよいよここ精霊都市ユグリアを出発する。
「さてと、そうするとまずは『迷いの森』を迂回しないとな。そうだ、サーナはエルフだろ? 何かいい方法はないかい??」
「いや、『迷いの森』の結界は『世界樹』の力を使ったものだから、一介のエルフである私にはどうしようもないわよ。それに無理して結界に捕らわれてしばらく出られなかったエルフも結構いるし、無理ね」
最古の長老たちが張った「迷いの森」の結界。
森の外から入ると、いつの間にか森の外へ吐き出されているというモノ。
なので、森の周辺はまだしもその奥へとはまずは入れない。
もし無理矢理に結界をこじ開けて中に入ろうとすると、精霊界に繋がっていて永久の黄金の森の中で迷う事となる。
運よく出られても何百年かかる事か。
それに、村の結界は出入り口が基本一つだけ。
反対側とかに行って、森を抜ける事は出来ない。
村の出入り口の門は時間によって勝手に閉まったりするの、でそうそう簡単には出入りも出来ない。
私がそんな事を思っていると、イオタはため息を吐いて言う。
「じゃあ、仕方ない。森を迂回する道を行こう」
「うーん、好いけど森の中に入った直ぐの所を枝伝いに飛び乗って行けば森はすぐに抜けられるわよ?」
もともと私はそのルートで南方の港町を目指そうと思っていた。
そして森の枝伝いに移動すれば余計なトラブルに遭う確率はぐっと減る。
「いやいやいや、俺にはできないよ。それは君らエルフじゃないと」
イオタはそう言って苦笑する。
そう言えば、人族はそこまで身軽な人物はほとんどいないのだっけ。
人族はエルフの私たちに比べ、肉体的に強靭でいろいろな特性を持つ。
そしてその特性は各分野で秀でたりもしている。
中にはエルフより貧弱じゃないかと思うような体つきでも、その保有する魔力は私たちをはるかに凌駕する人もいる。
大抵、そう言ったのは魔術師が多いけど、エルフ族は平均的に魔力量が多いのにそれを軽く凌駕するのって、なにすればそうなれるのか教えてほしいほどだ。
私はため息を吐いて言う。
「分かった分かった。イオタはそう言うの苦手なんだよね?」
「ああ、でも剣には多少自信がある。これでも迷宮でミノタウロスを倒したことがあるんだぜ?」
ん?
ミノタウロス。
あの牛頭の凶暴な人食い化け物?
と、なるとイオタのレベルって……
「もしかしてイオタって銀等級?」
「お、よくわかるね。やっと銀になったところだよ!」
そう言ってイオタは嬉しそうに胸元からペンダントを引っ張り出す。
それは銀色のプレート。
まだ星はないけど、冒険者としては中級くらいになる。
この世界では冒険者は冒険者ギルドに登録すると等級が与えられる。
銅から始まり、銀、金となるけど、各等級で星が与えられる。
最初は銅プレートで星が無い。
でも星が三つ溜まると銅の星三になり、次に銀プレートに昇格する。
後は同じで、最高は金の星三。
「なるほどね、今もその形態は変わってないんだ。じゃぁ」
私はそう言って胸元からペンダントを引きづり出す。
その時胸元がちょっと開いて、イオタは慌ててそっぽを向く。
エルフの胸見たって面白くないだろうにと思う。
でもまぁ、こう言う所の気遣いは女性としては嬉しい。
「私はこれよ」
そう言ってプレートを見せると、イオタは大いに驚く。
「げっ! 金の星一つ!? 上級冒険者だったのかよ、サーナって!!」
「うふふふふ、驚いた? だから私一人でも旅しても大丈夫って言ったの」
私は金等級。
しかも星が一つ。
たぶん、この精霊都市ユグリアでもそうそういないレベルだろう。
二百年前なら。
「いや、金等級って初めて見たよ。金等級って言えば、ドラゴンスレイヤーとかの伝説級だよ?」
「そうなんだ、まぁ二百年前は金等級ってちらほらいたんだけどなぁ」
そう、彼も私と同じ金等級だった。
そんな昔の事をちょっと思い出していたら、イオタはやたらと喜んでいる。
「なら、サーナと一緒ならどこまでも行けそうだな! いや、君と組めて本当に嬉しいよ!!」
パチン!
そう言ってまた指を鳴らす。
思わずその動作にドキリとさせられる。
けど、今度は顔が赤くなるまでにはならなかった。
「それじゃぁ行きましょうか。ジマの国に向かって出発ね!」
「ああ、ジマの国までしっかりお供させてもらいますよ、姫様」
イオタはそう言って胸に手を当て軽くお辞儀する。
それは正しく騎士が麗しの姫様に軽い誓いを立てるかのように。
「ふふふふ、私が姫様ならあなたは私の騎士様かしら?」
「はははは、騎士様、いいね! さあ、行こうか!!」
こうして私とイオタの旅は始まるのだった。
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