第10話 一行怪談10

 弟のうなじに刻まれた、『栃木県産、遺伝子組み換え』という文字。


 夫の鼻の穴から時折見える小さな顔は、夫と付き合う前にいつの間にか消えていた私の元恋人に似ている気がする。


 妹はよく寝言で、「いつもベランダにいるけど寒くないの?」と誰かに問いかけている。


 スマホの着信音をどれだけ変えても、あの時の彼の断末魔に変わってしまう。


 耳鳴りがひどくて何も聞こえないのだが、血塗れの妻を前にした娘の泣き叫ぶ声だけがはっきりと聞き取れる。


 父が声をあげて笑った次の日は、近所で烏の死体が見つかる。


 母の墓前に菓子を供えた瞬間、袋の中の菓子が粉々に砕け散り、どうやら私はまだ許されていないらしい。


 駄々をこねる息子とは対照的に、息子の影はけたたましい声で笑っている。


 姉の婚約者の写真を見せてもらったが、真っ黒な背景に緑色の生首が浮かんでいるものだった。


 兄は自分が食べている肉を職場の人間の味によく例えるため、最近は肉を食べる気が失せた。

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