第5話 一行怪談5
「子どもの頃に見た、陸に打ち上げられた魚が朽ちていく姿が目に焼き付いているのです」と、炎天下の下で体を縛り上げ、水も与えず一週間も放置して三十人余りを殺した男は語る。
彼の顔は会うたび別人のものに変わるため、声や仕草でどうにか彼だと判断しているのだが、最近になって彼の顔が死んだ叔父の顔に固定された。
母は未婚で私を産んだのだが、最近になって私の皮膚が魚のような鱗に変わっていき、母が私を愛さない理由を知った。
毎年、夏が始まるこの時期になると、鉄臭い真っ赤な雪だるまが供えられる、実家の玄関先。
窓の外から誰かの日記を読み上げる声が聞こえなくなるまでベランダには出られない点を除けば、相場より家賃も安く、日当たりも良いし、駅から近いこの物件を気に入っている。
歯の間に挟まっていたそれを取り出してみると、ぐちゃぐちゃになってしまったがかろうじて形を保った小さな手足と頭の一部が確認できた。
鏡の中の自分の方が私よりも動きが速いので、「もう少し合わせてくれてもいいじゃない」と文句を言うと、「お前が前世であんなことをしなければよかった話なのに」と睨まれた。
同種同士でも狭い水槽で共存はできなかったか、と水に浮かぶバラバラになった人魚の一部を眺めてため息をつく。
ベッドがやけに湿っているなと思って布団を剥いでみたところ、私より一回り小さい人型の青いシミが徐々に広がっていき、私と同じ大きさになるとフッと消えてしまったので、このベッドもそろそろ換え時かと思わぬ出費に頭を悩ませる。
「ごめんなさい、姉さんに余計なことをさせて」と弟に謝られた翌日、私の手首に掌のような痣ができているのを見て、弟はまた心霊スポットに行ったのだと、腹立たしい気持ちを抑えて行きつけになった近くの神社に電話をかけた。
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