復讐

隠していた真実

 家族に責められる前に失踪しようと考えた。だが、まだやることがあった。


 翌朝、出勤。仮病を使って休み、急遽、羽田から佐賀に飛んだ。田んぼに囲まれた、佐賀のサティスファクションセンターについたのは昼過ぎだった。西日本最大のサティスファクションセンターだが、小田原よりは規模が小さい。


 勤怠管理システムにログが残らないよう、リサイクルセンターで沖宮に待ち合わせた。


「なんだよ、仮病使ってまでやってきて」


 やってきた沖宮は心底迷惑そうな顔をしていた。


「ねえ、わたし、本当のことを知りたいの。美羽が失踪した日、あんた、小田原にいたよね」


 YouTubeの動画を見せると、沖宮の顔がみるみるうちに青くなる。


「嘘つき。あの日、いったいなにをしたの? まさか、美羽を殺したのはあなたじゃないよね?」


 わたしが問い詰めると、沖宮は叫んだ。


「言えない! 美羽のことをキレイなままお前の記憶に残しておきたいんだ!」


「なに言っているの。正直に白状しないと警察に突き出すよ。あんたが、美羽に会った最後の人間だからね」


「やめろ!」


 沖宮は、その場にひれ伏し、体を震わせた。


「言うよ、お前、あいつはな、お前が思っているほど、キレイな人間じゃない。手当り次第男をひっかけて食い散らかす、ひでえビッチだ」


 何を言っているんだ、この男は。どういうこと? 怒りがこみあげる。


「わたしの美羽になんてこというの!」


「俺はな、あいつがいつも浮気するんじゃないかって怯えてたんだよ。美羽がおっさん、先生、同級生、先輩に抱かれているたび、心が割けそうだった。いっておくがな、牧野も美羽に食べられた。だけど、美羽はみんなのことを平等に扱いたいと思っていたらしい。ポリアモリーって知っているか?」


「昔、聞いたことがある。複数人愛せるってやつだっけ?」


「美羽はあくまで俺だけを彼氏と言ってた。けど、それは美羽が妙なところ潔癖だったからだよ。最初にセックスしたのが俺だったから、彼氏って名前をつけていた。ふざけんな。あいつが他の男を食うたび、俺の心は食いつくされた。けどな、あいつは悪気なくやっていた。だから余計タチがわるい」


 沖宮は拳を床に叩きつけた。


「ああ、正直に言うよ。俺はあの日、わざわざ軽井沢から小田原に来たんだ。美羽がツイッターで他の男とやりとりを送っていて、嫉妬したんだよ。美羽のもとへ駆けつけて、三人で小田原駅のなかで喧嘩したよ。もう耐えきれなかった。俺は美羽を見捨てた。美雨はその男とどっかへ消えていったよ。だけどな、俺があそこで引き止めていれば、あいつは、あいつは死ななかったんだ。だからな、俺はずっと後悔して毎年墓参りしているんだよ」


 沖宮は涙を流した。


 わたしは沖宮の肩を抱きかかえて言った。


「その男の特徴って、なにかわかる?」


「いまでもはっきり覚えているよ。登戸に住んでる中学生で、シャツから見えた脇腹は痣で黒ずんでいて、アカウント名は……」


 その名前を聞いて驚いた。わたしは、あの男を殺さなければならない。

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