芽衣の推理

 テクニカルセンターのオフィスでCADの真っ黒い画面を睨む。マウスを動かして、線を引く。工事業者の導線だ。機材を搬入できるスペースを確保しないといけない。


 部長との面談後、ここ二週間ほど、撤去工事の検討を進めていた。


 正直不本意だ。頭ではわかっている。撤去するのは正しい。だが、自分の仕事を会社に否定された気がして腹立たしく思っていた。


 それに、もっと不快なことがある。沖宮のアリバイが崩れた。


 昨晩、高校の同級生の牧野を呼びつけて飲んだ。牧野は沖宮と同じバスケ部だった。居酒屋のテーブル越しに牧野に聞くと、たしかに沖宮は八月三日に合宿で軽井沢にいた。バスケの練習は町の体育館でしていたのだが、三日は午前中だけしか練習できなかった。町の不手際でダブルブッキングをしてしまい、午後は使用不可になったのだ。


 顧問は急いで他の施設を借りようとしたができず、午後に半日だけ自由時間ができた。部員がそれぞれ仲のいいメンバーと一緒にスマホをいじっているなか、沖宮は「ランニングしてくる」と言い、六時頃になり帰ってきた。


 牧野はじめバスケ部のメンバーは沖宮を信用していた。だが、沖宮の言葉が嘘だとしたら? ヌルヌルヌルハチの動画が撮影されたのは三時。昼に軽井沢から新幹線を使えば、三時までには充分小田原に帰ってくることができる。


 だが、高校生だった沖宮が新幹線を使ってまでも小田原に帰ってきた理由とは? 美羽の死との関係とは?


 沖宮が佐賀から帰ってきてから問い詰めようと考えている。佐賀に行く体力的余裕がない。ストレスでじんましんが出ている。ときどき、咲夜をホテルに毎晩呼びつけマッサージを受けていなかったら、もっとひどいことになっていただろう。


 突然、スマホが震えた。咲夜からだった。LINEのアカウントはとうの昔に交換している。スマホを開くと待ち受け画面は咲夜の写真。


 その目を塞ぐように、メッセージボックスが遮った。




 ――リサイクルセンターまで来てほしい

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る