プロの機材で掃除がはかどる

きゅうひろ

ある夏の話

「掃除ですか……」

「そうなのよ〜、プロ用の機材がレンタルできるって言うから借りてみたのに、どう使えば良いかの説明が一切無くてねぇ」


 レンタル業者側も、完全な素人が借りる事を想定していなかったのだろう。機材が本格的すぎて、普通に清掃を頼むよりも高くなっているという矛盾も生じている。


「じゃあ三日間は旅行に行ってくるからよろしくね」

「頑張ってみます」


 叔母さんは大きな荷物を抱えて旅行に出てしまった。早速プロ用の機材とやらを見てみようか。



 粒子検出器、臭いやハウスダストなんかを数値化して空気中の汚れを教えてくれる。


 特殊投光器、壁や床のホコリや染みが浮かび上がって見えるようになるライト。


 業務用掃除機、液体まで吸い込める。


 オゾン脱臭機、強力な酸化作用のあるオゾンによって消臭・除菌するが、人体に有害なので取り扱い注意。


 業務用洗剤、皮膚に触れさせてはいけないほど強い。


 高圧洗浄機、重くてうるさい分強力。


 スチームクリーナー、熱で汚れを落とす分、高圧洗浄機より優しい。


 謎の機械、スイッチを入れると何かを計測してるようだが、単位が分からないのでお手上げ。




「計測器2個持って家の中回ってみるかな」


 両手に計測器を持って玄関に入る。


「うわ、玄関から臭いって結構あるんだ」


 『他人の家の臭い』という表現があるけど、臭いは臭いなので、玄関でも脱臭機を動かす必要がありそうだ。

 あとは、台所、寝室、仏間が数値が全体的に高く出た。特に寝室は謎の機械が音を立てて反応してたから、特に空気が汚れてるんだと思う。

 台所は物が多く有って、ゴムやプラスチックが劣化しちゃうオゾンが使えないので、寝室、仏間、玄関で1日づつオゾン脱臭機を動かそう。

 寝室にオゾン脱臭機を運んで、コンセントに繋いでスイッチオン。扉を閉めて明日まで放って置くだけで臭いが取れるというわけだ。


「今日の残りは高圧洗浄機で外壁や玄関先、ベランダなんかを綺麗にするか」


 ホースリールと電源コードリールをセットし、本体を背負ってノズルを壁に向け、トリガーを引く。モーターの音と共に水が噴射されるが、水圧が強すぎてバチバチと音を立てて水滴が跳ね返ってくる。


「壁はあっと言う間に綺麗になるけど、ビショ濡れだ」


 夏場なので気にせず続行。ある程度綺麗になったと思った所で、今日の掃除は終了だ。機材を片付け、戸締まりチェックをして自宅に帰る。



 二日目。


「今日はライトと掃除機を使うか」


 普段から掃除はしてるようで、角に少しホコリが見えるくらいで綺麗なものだ。玄関から順番に掃除機をかけていく。


「風呂にライト当てると、全体に飛び散ったように光るけど、もしかしてカビか?」


 大変そうなので、3日目は風呂を重点的に掃除することにしよう。

 最後に寝室だ。扉を開けると、仕事を終えたオゾン脱臭機と、床に散らばった人形たちが見える。


「あれ、地震とかは無かったと思うけど」


 まあ、積み方が不安定で、オゾン脱臭機の振動で崩れたとかだろう。一旦オゾン脱臭機を仏間に運んでスイッチオン。再び寝室に戻って来る。


「意外と人形汚れてるな。風呂桶で浸け置き洗いしよう」


 風呂に業務用洗剤を入れて半分ほど水を張り、そこに持ってきた人形たちを沈める。

 ガボガボガボ!と大きな音を立てて泡が出るが、界面活性剤の作用で人形に一気に水が浸透したんだろう。

 風呂場の戸を閉めて寝室に戻り、掃除機をかける。


「今日はこんな所か」


 戸締まりチェックをして、帰宅した。



 3日目。

 風呂に行くと、一晩置いてたのに泡が立っていて風呂桶がいっぱいだ。ゴム手袋をして栓を抜く。


「ちょっとは綺麗になったかな」


 このまま風呂と人形を同時に洗おう。高圧洗浄機を使って天井から下に汚れを落としていく。最後に風呂桶と人形を念入りに洗浄する。

 高圧洗浄機のモーターが、ガガガガガと大きな音を立てているが、それに負けないくらいゴボゴボと音がする。


「かなり綺麗になったし、仕上げといくか」


 スチームクリーナーの出番だ。シュゴオオオ

オ!!と、危険そうな音を立てて蒸気が吹き出す。


「換気扇じゃ全然足りないじゃないか」


 急激に湿度と温度が上昇して、サウナみたいだ。天井、壁、床は手早く終わらせ、浴槽と人形に集中する。

 ギャァァァ!という音が聞こえるような気もするが、暑いしスチーム音が煩いしでそれどころではない。


「ふう、一旦休憩するか」


 念の為、着替えを持って来ておいて良かった。脱衣所でそのまま着替えて、リビングに行きエアコンで涼む。

 小一時間ほどして風呂に戻ると、綺麗になっているのが実感できて気持ち良い。

 人形たちは乾燥機に入れて脱水させる。



 ライトで照らしながら、ひとつひとつ部屋を確認していく。チリ1つ残さないというつもりでも無いけど、掃除し忘れが無いかの確認は大事だ。


「よし、いい感じ!」


 最後に仏間に置いてたオゾン脱臭機を玄関に設置し、スイッチを入れて外に出る。

 タッタッタッタッ。

 扉の鍵が閉まっているのを確認して帰宅だ。

 何か聞こえたような気もするが、オゾン脱臭機の音もしてたし、気のせいだろう。



 4日目。

 今日の昼には叔母さんが帰ってくる。レンタル機材をまとめておこう。

 玄関を開けると、オゾン脱臭機の奥側に人形が散らばっていた。そういえば乾燥機から出してなかった。忘れなくてラッキーだ。

 玄関に手を伸ばしながら力尽きたような人形たちを拾い集め、寝室に並べ直す。


「洗浄と脱臭で、新品のようにピカピカじゃないか。プロ仕様は一味違うな」


 それぞれの機材を1部屋にまとめて、全ての仕事は終了だ。達成感に包まれる。


「ただいま~」


 ちょうど叔母さんが帰ってきた。お駄賃とお土産をたかりに行くとしますか。



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