大好きな先輩を作ったので、色んな事をやってもいいですか。

水都suito5656

  魔法で作られた先輩

やった!ついに完成だ。


私は魔法で先輩を作ったんだ。


夏休み返上してまで生徒会室に来ていた私は、念願の先輩を作成することに成功した。


こんなにうまくいくなんて思ってなかった。


その外見は先輩そのものだ。

サラサラの髪は腰までの銀色に輝く。

その瞳は優しいダークブラウン。

少し意地悪そうに微笑む口元も、先輩そのものだ。


ん、微笑む?


私はそんな高等なものは作れない。

それなのに眼の前の先輩は、静かに微笑んでいた。



ことの発端は先輩の帰省にある。

いくら実家の用事とは言え、夏休みの初日から帰省するなんてひどい。

私は後輩として一緒に遊びたかったのに。


今まで毎日のように顔を合わせていた。

それが休みに入った途端いなくなった。


もう先輩、私淋しくて死にそうだよ

うう、先輩に会いたい

そんな私に悪魔が囁いた。


いないなら、作ればいい

こうして私は魔法で先輩を作る決意をした。

でも私の実力では外見を真似るのが精一杯。

それでもいい

先輩に会えるなら私は禁断の道を歩もう



「なんか生き生きしてるよこの子。 ホントに私が魔法で生み出したゴーレムだよね?」

目の前には、出来立てほやほやの先輩が、キョロキョロあたりを見わたしている。


「おまけに、好奇心旺盛みたい」


そんな能力を持たせるなんて。私には絶対不可能なはず。

あくまで外見だけが先輩という、フィギュアのような存在だった。


そんな私の困惑とは別に、先輩は大きく欠伸をした。 

可愛い

理由なんてわからない。

たしかに先輩はそこにいたのだ。



色々考察したけど原因は不明だった。

やっぱりモデルが先輩だから。

それしか考えられなかった。




だから私は悪くない。

悪いのは後輩のことを放っておいた先輩だ。


そしてこの先輩を思いっきり好きにできるんだ。

・・・していいよね。私が作ったんだし。


私はソファーに座りぼんやりしている先輩を、後ろから思いっきり抱きしめた。

「先輩大好き!」

「ひゃー!」先輩は驚いて飛び上がる。


「わああ!」 

先輩を背中から抱きしめた途端、大声を上げて飛び跳ねた。

そしてソファーの上で丸まって、こちらを威嚇する。

「あの、驚かせてごめんなさい」


「はぁはぁ、だ、大丈夫よ。でも急に触られてびっくりした」


「はい、すみませんでした!」 うう、怒られた。


でも・・・喋るなんて想定外だ。

てっきり魔法で作った先輩に、意思はないと思ってのに。


真っ赤になって、こちらを軽く睨む先輩

少し涙ぐんでる。

もう!どんな事をしても許される筈だったのに!

私の目論見は崩れた。完膚なきまでに。


最初から邪な自分が悪いんだ。

先輩はどんな物であろうと、やっぱり先輩なんだから。


「先輩お茶にしましょう」


「ああ、頼むよ」


「はい!」まあいいか これでも。


そして穏やかに日常が戻ってきた。

先輩のいる日常が。



なんだろう、この生き物は

私の側に座り、テレビを夢中になってみている。

時々眠そうにあくびをしてた。


「もう、大好き!」



それからこのかわいらしい日々先輩は、良く知っている先輩へと進化した。

「なるほど校内でユーレイが出るのか。よし、私が払ってやろう!」

先輩はオカルトの専門家だった


「彼氏が冷たい? まあお互い若いんだ、色々あるさ。少し距離を置いてみたらうまくいくはずだ」

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「勉強がわからない? 何だ赤点ではないか。よし私が勉強を見てやろう」

学年トップは伊達じゃなかった。教えるのも上手い



困った時、助けに来てくれる先輩


辛い時、慰めてくれる先輩


難事件に巻き込まれた時、さっそうと解決へと導く、名探偵な先輩



夏休みにも関わらず、その存在に校内は歓喜した。

もちろん私も。


「大丈夫、私が全部解決してやろう」


その姿は先輩そのものだった。


ただ、私が作ったのが原因なのか、たまにポンコツになるけど。

それもふくめて、それは私が求めていた先輩そのものだった。





「ただいまー」


生徒会室のドアを身体で押すようにして、先輩が帰ってきた。

ものの見事に日焼けしたお陰で、先輩との区別がつきやすい。


「おかえりなさい」


「おかえりー」


「・・おや、誰だいこの子は?」


「何言ってるんですか先輩ですよ」


「はて、わたしだと?」


先輩は首を傾げて先輩を見る。

そんな先輩に、私は7代目先輩を手に取って見せた。


「もう少し丁寧に扱わぬか」


折り紙で作った簡易型先輩7号はブツブツ文句を言いながらも、夏休みの宿題を解いていた。

その能力のほぼすべてを学力に特化にしたせいで、この先輩はただの折り紙の容姿だ。



「でもな、やっぱり宿題は自分でやるべきだと思うぞ」


自分の身体より大きな鉛筆を振り回して、折り紙先輩は偉そうに説教する。


「ほう、この可愛いのが私か。うん、中々興味深い」


微笑みながら、テーブルの上で宿題を解く先輩を見つめていた。

その隣では初代先輩か8代目先輩を折っていた。

今回はピンク色の折り紙で折るらしい。


生徒会室は先輩で溢れている。

まさに私の欲望そのものだった。


「さあ、先輩も一緒に折りましょう」

「ふふ、そうだな」


先輩はどこか楽しげに微笑んでる。

その笑顔を見て、


「やっぱり本物にはかなわないな」としみじみ思った。




おしまい

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