第1話 一日目①

川岸に寝そべりながら、青空へ手を伸ばす。

絶賛学校サボり中の彼女の逃げる場所なんてここしかない。川に渡された橋から落とされた影が彼女の顔の左半分ほど黒く染める。

右半分を日光に晒された顔が眩しくて、少女は目を細めながら手を顔の前まで持ってきてかざす。

「なんで空って青いんだろ」

誰にも気づかれず、その言葉はあたりへ溶ける。風が心地良い。

「学校という足枷から開放された人生って楽しいー」

退屈と憂鬱、そして空虚感。それが、例の少女、神野千紀の、自分の人生に対する感想である。

「やべー、やることが欲しいー、人生つまんないー、死にたいけど死ねないー、誰か私の人生変えて」

中学校から突如始まったいじめと家庭崩壊。彼女の瞳のような、虹色だった生活は黒で塗りつぶされた。生きることに意味を感じられず、無駄だとわかって息を吸う。死にきれずに生きている。


なんて黄昏ながら、空へ手を伸ばした彼女は、突然目を輝かせて立ち上がった。袖を持て余されたブカブカのパーカーが風に運ばれはためく。

「自分で人生を変えればいいんじゃないの…!?」


こうして、神野千紀人生チェンジ企画が始まった。

ボロボロのスクールバッグから、ビショビショになったり、破かれていたりしたノートの中から、ちょっとマシな物理のノートを取り出した。

彼女は夢中で生きようとする。ノートの上でシャープペンが踊る。彼女の人生は、いつも紙とお気に入りのシャープペンから始まる。

落書きが施されたページを破き、残った数枚のページに、思ったことを乱雑に書き込んだ。

「7日後まで、私は自分自身に素直になる」

当分の目標はそれだ。

周りに流され、自分を見失い、誰からも愛されない。

そんな彼女の、黒色だった人生は、虹色に染まることになる。

「やりたいことを、本気でやる!いや、全部諦めないでやってみせる!!」



突然の意思表明は、彼女のこれからの人生の指針になり。

選択する隙を与えられなかった、黒き今までの人生は、これからの選択肢を選ぶ希望へと成り代わり。

次なる人生への期待に響く心音は、彼女の人生のBGMになり。

大きく虹色に輝く瞳は、前へ進む糧になり。


そうして、神野千紀は生まれ変わる。

産声を上げた新生・神野は歩みを進める。


「とりあえず今日から、やりたいことを全部やる!まずはたらふくご飯が食べたい!」


欲望に忠実な少女の青春冒険譚が今始まる。


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