真なる錬金術師の契約結婚

宮前葵

道楽息子と錬金術師

プロローグ 契約結婚

「これは契約結婚だ」


 アズバーグはそう言ってニンマリと笑った。そうですね。私も別にそこに異議はありませんよ。私ミルレームはむっつり頷いた。


 私は白のレースで飾られたウェディングドレス姿。アズバーグの格好は紺色のスーツに金糸で紋様が描かれた華麗な花婿衣装。


 つまり今日は私とアズバーグの結婚式なのだ。金髪青目の端正な顔をニヤニヤと崩しながら、アズバーグは続ける。


「君が私に望むのは我が家の保護と、予算だけだろう。これは君がそれを手に入れるための婚姻だ」


 そうですね。言ってしまえばそれ以外の理由はあんまりありませんね。もうちょっと事情は複雑ですけども。


「安心せよ。このアズバーグ・アイヒルークと結婚することで、君はそれら全てを手に入れる事が出来る」


 この軽薄そうな顔をしたアズバーグは、こう見えてやんごとなきお家の貴公子なのだ。まぁ、キラキラした金髪で麗しい青い瞳の容姿は、それは貴公子らしいと言えば貴公子っぽいんだけど。中身がねぇ。


 それとさっきから、アズバーグは何となく恩着せがましく言っているけど、この結婚は彼の方からの提案で実現したんだからね。確かに私の方に一方的な利益がある結婚なんだけど。


「だから安心して君は嫁いでくると良いぞ。レーム」


 ……疑ってはいないけど、安心はできないのよね。その理由は……。


 やおら、アズバーグは私の腰を抱いて、私の身体を引き寄せた。彼の顔が頬擦りするくらいに急接近する。近い近い。私は彼と自分の間に手を挟んでガードした。


「あ、アズバーグ様! 契約書には『これは白い結婚』であるとも明記されていたはずですよ!」


 わざわざ私が契約書にそう付け足させたのだ。理由は、私はこの男の女好きを心底軽蔑していたからである。この男の数多いガールフレンドの一人になんかなりたくない。


「そんな事はどうでも良いではないか」


「良くありません。契約を守らない気ならこの結婚はなしです!」


 私が断固拒絶すると、彼は少し悲しそうな顔で私から手を離した。すぐにおどけた表情に変えて両手を上げる。


「残念だ。こうして着飾ると君はとってもチャーミングなのに」


 よく言うわよ。前に「細くて胸もなくて目付きはキツくて顔色も悪い」と悪口を言われた事を忘れてなんかいないからね。


 睨む私をアズバーグは何だか非常に満足そうな笑顔で見ていたけど、やがて彼は両手を広げてこう言った。


「これは契約結婚だ。しかし私はお構いなく君を愛し、溺愛し、幸せにすると誓うよ。愛しいミルレーム!」


 その言葉に私は、全身に鳥肌を浮かべてしまったのだった。

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