第14話・その頃の黒猫

 それはいつもの光景であった。


「ご苦労様です」


「ご協力ありがとうございます!」


 衛兵に連れていかれるのは、ルールを守らないおバカさん達。金を払うのだからスキルを覚えさせろという者達だ。正直、まともなプレイヤーの邪魔でしかなかった。


 世界語、現在分かる範囲で図書館の一般フロアにある本でレシピ、知識、考察に使えそうな世界設定。これらの情報が手に入ると分かり、プレイヤーは教会に行って孤児の子供達と共に勉強する。


 世界語が欲しかったら勉強イベントをゲーム内一週間して覚えるのが通常クリア条件だ。


 だがアホウは金さえ払えばスキルを覚えられると思って、教会の人にすぐに世界語を寄越せという。これは無理な話だ。


 スキルスクロールという貴重品を使って覚えるわけではないスキル習得イベント。それを金の力だけで捻じ曲げるのは、実に迷惑な話。


「お疲れ様」


 黒猫、トップガチ勢の中でソロ部門の彼女も、子供達に教えてもらい、少しでも早く習得しようとしている者がそう告げる。


「はあ、ルールくらい守って欲しい」


 彼女は『宝石箱』のクランリーダーの『ガーネット』という女性プレイヤー。


 もとから火属性を使う魔法使いか魔法剣士志望であり、火属性を極めんとスキル構成に敏感になっている。世界語はこの世界を楽しむのに必要と知り、古代語と共に学ぶつもりだ。


 彼女や他のクランメンバーもこの世界語習得イベントは無駄とは思っていない。ゲームの醍醐味であるイベントの一つとして受け取り、司祭であるNPCの指示を受けて学んでいる。


 それと共に、教会関係で神学、神様に関する情報など別のイベント発生の可能性もあるため、人気のクエストであった。


 まあ、アホウには理解できないようだ。彼らはトップ勢が別のことに時間を取られているうちに、自分らこと攻略組と言えることをする。それしか頭にないようだ。


「次は自分達『動物愛護会』が担当しますね」


 テイマー達の集まりである『動物愛護会』。クランリーダーの『クレア』がそう言っている。彼女は動物大好きであり、進化先を調べたりしている。最近発見されたのは、ユニークから進化する魔狼を育てていた。


 もう一人のクランである『傭兵部隊』のクランリーダー『アッシュ』はその前にバカを縛り上げて衛兵に突き出していた。


 彼はノートに文字を書き、意味を知るを繰り返して熟練度を上げていた。


「おっ、スキル獲得できた!」


「おめおめ」


「やりましたね」


「ああ、後はメンバーが覚えるのを持つだけか」


 ここまでくると後は楽だ。古代語は魔法ギルドの試験を受けることになるが、かなり値段が高いらしい。まあガチ勢にとっては時間以外問題ない。


「そういえば『宝石箱』のお抱え革職人は店を出さないのかな? 質の良い装備品が欲しいんだけど」


「いいわよ。ただストーンリザードの皮は石化効果があるらしくて扱えないのよね」


「そうなの? テイマーはストーンリザードは人気よ?」


「味方になるとタンクとして役に立つからな」


「それじゃ黒猫は?」


「私ソロ」


「いや、知り合いにいるだろ?紹介して欲しいんだけどそれ」


 そう言ってアッシュは黒猫の足元、アサルトレッグを指さす。


「それがフリマでできたとき大変だったんだぞ。性能差はまちまちあるけど高性能だし、大量に仕入れて作りまくったとしか思えないものばかりだった」


「お金は後で受け取るね」


「紹介してくれよ」


 まあまあとガーネットは止める。実は裏でガーネットには話が通っている。ノートという鍛冶師ではなく、エンジョイ勢の話。


 エンジョイ勢がたまたまそれがしたいと思ったから、数多くのスキルで性能を調整して作ったのがあれだという。


 黒猫も意地悪ではないため、装備品作った人は教えないが、あれはガチ勢ではない人が作ったことを説明する。


「本人曰く、最大強化は15から20くらいの数値。うまくいけば合計80くらい性能を上げられるらしい」


「耐久性は」


「10か15くらい」


「んーそれだけでも欲しいな」


「っていう誤差レベルの強化までしてくれるのはガチ勢では?」


「ううん、私が手貸したからしてただけだよ」


「なるほど」


「正直ガチ勢鍛冶師ならロックゴーレムを初め、エリアボス装備厳選してる」


「あーそれはしたいな。平原エリアのソードリザードマンも皮が良さそうだし」


 発見はされていて、とりあえず彼らは放置している。まだ自分達以外は倒せないと思っているから。それを倒せば別の町への道が開かれるボスモンスター。


 黒猫は色々考えて、ノートのことはガーネットにしか教えないつもり。まずガーネットこと『宝石箱』はすでに皮細工職人を抱えている。それ繋がりでノートを守ってくれるからだ。


 彼女もまたエンジョイ勢であるノートに無理に言い、装備品や研究品を作ってもらう気はない。いまのところ材料を投げて興味あるものを作り、もらう気はあるが。


 ノートもノートで色々しているため、研究しているお抱えの生産職と話が合うだろうと思う。


 とりあえず黒猫はそろそろ自分も世界語を覚えるから、それと共にこれをノートに持って行ってやろうと思っている。役に立つはずだ。


 こうして教会は青空教室でお金が入り、プレイヤーは世界語を習得して、足りなかった知識を得られる。


 もうすぐより生産職業界が様変わりするが、その中でノートはどうなるか、まだだれにも分からなかった。

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