第2話 漆黒の猫
引っ越しの荷物も運び終わり、一通り
「昨日の夕方には着くって言ってたから待ってたのに」
おじさんは
「すみません、思ったより道が悪くて。
「都会の人は時間にうるさいかと思ってたが、あんたらは違うみたいだな」
「いえ――その、申し訳ありません」
ダニエルはおじさんにしきりに
その
ヘンリーとマリーは顔を見合わせた。マリーは笑いながら、
「明日の朝はトースト焼けるわね」
と言った。
電気が使えて、ベッドで寝られる。当たり前のことだけれど、とても幸せな事のように感じられた。
ダニエルと大家のおじさんが帰ってきた。
「へぇ、そうかい、あんたも
「はい。といってもほぼ初心者ですし、最近は忙しくて行けてませんけど」
「ははっ、忙しいのはいいことさね。ま、
「そうなんですか。楽しみです。でも、釣り道具は全部置いてきちゃったから、また
いつの間にか楽しそうに話している。共通の話題があったことで
おじさんはにこやかに笑いながら帰っていった。リビングに戻ってきた父は「どんなもんだい」と言いたげな顔で片方の
「他になにかやることはある?」
と、ヘンリーは
「うーんと、そうだな、じゃぁおつかいを
そう言うと、ダニエルはお金を手渡す。
「ついでにおやつでも買ってくるといい」
ヘンリーはお金をポケットにしまうと、家の外に出た。昨夜は真っ暗だったから家の周りもほとんど分からなかったけれど、どうやらこのあたりは町のはずれのあたりらしい。ヘンリーの家の
ヘンリーは道を
しばらく歩くと、
サンドイッチが買える店を
その
「いらっしゃい」
ベーカリーの中に入ると、気の良さそうなおじさんが声を
「おつかいかね、えらいねぇ」
ヘンリーはここでようやくしまった、と思った。どうして一人で来ちゃったんだろう。何かを買うためには、自分から
「あの、サンドイッチはありますか?」
小さな声で、どうにか
「おう、あるともさ。どんなのがお
いくつも
「えっと、それじゃハムとサラミが入ってるのを」
「ハムとサラミな。レタスと玉ねぎは?」
「はい、大丈夫です」
「ほいきた、ちょっと待ってな」
パン屋のおじさんはそう言うと店の奥に入っていった。しばらくして三〇センチほどもある大きなサンドイッチを持ったおじさんが戻ってきた。
来た時には気づかなかったが、町の中心は大きな
広場に目を向けると、
少し急ぎながら歩き出したヘンリーは、しかし、小さな
まあ、方向さえ合っていれば家にはたどり着けるだろう。それに、もし行き止まりだったらUターンすればいい。ちょっとした事だけれど、そんな
ちょっと進んでいくと、
「戻ろうかな…」
さっきまでの冒険心はすっかり
レストランの
ヘンリーはどういうわけか、その真っ黒な猫から目が
黒猫もじっとこちらを見つめている。いつの間にか立ち上がっていた。
ヘンリーは
気のせいか、黒猫は横を通るときに
そこから先は思ったよりも
頭の中で
ずいぶん
まだ
「ただいま」
すぐにマリーがやってきた。
「ずいぶん
「大丈夫。ほら、
「お、うまそうな匂いだ。これは期待できそうだぞ」
いつの間にかダニエルも
「それじゃ、お昼にしましょう。すぐにお茶を
サンドイッチは、思っていた以上に美味しくて、あのベーカリーはヘンリーのお気に入りの一つになった。
口いっぱいに頬張りながら、ヘンリーは帰り道に見かけた黒猫の事を思い出していた。
あんな真っ黒な猫、見たことないや。今度見かけたら、このハムをひとかけらあげてもいいかな。
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