第38話【冷たい雨、君に傘が降る】
━━ 西海岸 ━━
波の音だけが辺りに虚しく響いている。
皆は呆然としたまま、浜辺でイリオスを囲んでいた。
「どういう事だよ……。イリオス、どういう事なんだこれは──」
ガイザビィズは消えかかりそうなくらい小さな声でイリオスに語りかけ──
アイリスはその場に倒れ──
「アイリス!大丈夫かアイリス!!」
「だ、大丈夫。私は大丈夫だから…」
サリーに言葉はなく──
ライゼは握った拳から血が滴っていた──。
ガイザビィズは自分がイリオスの未来を奪ってしまったんだと後悔している。
「何を間違った……?どうしたらイリオスに明日があったんだ。証人のとこに行かせなければ? もっと前……? アリーナなんて、俺にさえ出会ってなければ──」
アイリスは涙を流し、激昂する。
「いい加減にしなさい! イリオスはそんな事っ!!」
パァアアッ……と辺りが明るくなり、ガイザビィズはすぐにサリーの能力だと気づいて声をかけるが──
「サリー!?」
サリーは構わずイリオスをコピーする。
いつもよりコピーの時間が長い。
アイリスはサリーを優しく諭した。
「サリー? イリオスには能力がないのよ……?」
「記憶……。最後の記憶を、イリオスと約束してた」
自身が危なくなる事を見越して、イリオスはサリーに頼んでいた。
自分に何かあったら記憶をコピーして皆に手がかりを残してほしいと……。
能なしとして生まれ、覚悟をしながら生きてきた。
能力がないイリオスはバラックの為に命懸けで駆け回っていたのだ。
「そんな…ことが……」
(脳の記憶領域をコピーなんて……)
アイリスが驚いていると、サリーが目を閉じ、ゆっくりと口を開いた。
『ハァッ、ハァッ、厄介なとこ撃たれたな』
「声まで……!」
声帯までコピーしたサリーを、アイリスは信じられないといった表情で見ている。
完全にイリオスの声だった。
『クソッ!! ガボッ…ガハッ……』
「どうしたんだ!?」
声のみでは状況が把握できない。
ガイザビィズは戸惑うが、一言も聞き逃さないように目を閉じて注意深く聞いている。
『ざまぁみろ……。能なしの為に飛び込んでくる奴はいねぇだろ』
「自分から海に逃げたのか……?」
『ぁ……聞いてるかな、アニキは』
「ああ! ……ああっ!! 聞いてる!!」
ガイザビィズはまるでイリオスと会話をしているかのように返答する。
『姉さんも』
「……っ。うぅ…うん。聞いてる」
『サリーは上手くやったかな。まぁ…星は綺麗だし……夜の海で独り言だとしても……悪くない』
「聞いてるぞイリオス!!!ちゃんと…くっ……」
『──満足だ』
その言葉にガイザビィズは驚いている。
『アニキはグチグチ言うんだろうな……。あんな図体して気は小せえんだ』
「こ、この……」
『でも俺は満足だ……。何も不満はねぇ。イテテ、しかし、こんな痛いかねぇ』
『血が足りねえや……。あの約束守るかなアニキは。ツインテール』
ガイザビィズはその言葉に笑い、号泣する。
「ガッハ!……バカ野郎がっっ!!」
『アニキ……。アニキに会えた人生は俺の誇りだ……。ずっとカッコいいチャンピオンだ』
「あ…ああ!! 俺もお前に会えて…どんなに……」
『姉さんと結婚でもしてさ……』
『いつか…………』
『本当の弟に……………………』
ドサッ!!
とサリーがその場に倒れてしまった。
慌ててライゼが抱き上げ、注意する。
「サリー、もう能力以外のコピーはやめた方がいい」
「うん……」
ガイザビィズはサリーの無事がわかると、イリオスに駆け寄り、いつまでも抱きしめていた。
身内だけの葬儀だった。
突然の雨が降る。
──冷たく。
「な、なんて格好してんの!?キャッハハハハハッ!!」
アイリスはガイザビィズの格好を見て大笑いをしている。
ガイザビィズはツインテールに、アイリスのドレスを着ている。
「ガイザビィズ……ピチピチじゃない!?よく破れないわね!?キャッハハハッ!!」
「似合うじゃないかガービィ」
「フフッ、なんかゴツくてこわいよ!」
アイリス、ライゼ、サリーと立て続けに馬鹿にされ、ガイザビィズもたまらず叫ぶ。
「約束なんだよ!! イリオスとのな!」
(もしスよ!? もし俺が死んだら! まぁ死なないスけど!もし死んだ時はツインテールにして姉さんのドレスで葬儀に来てほしいス!!)
(なんだよそりゃ、何で俺様がそんな事を!?)
(だって明るい方がいいっスよ!俺らっぽくて!!)
(じゃ、逆に俺様がバトルで死んだら)
(逆はねぇんスよ。それだけは──)
葬儀は無事に終わり、ガイザビィズは土の下に眠るイリオスに語りかけた。
──いつものように。
「これで満足かよ!?いつもいつもお前は……。お前は──」
イリオスとの思い出が言葉を遮る。
「ぐ…ぅう……」
──いつもと違うのは、返答がないこと。
それを実感したガイザビィズは膝から崩れ、まるでイリオスの肩を持つように墓石へ両手をかけた。
「もう、一緒に遊んだ公園も……。海も……。あの時の思い出を一緒に語る事はできないんだな……」
ここ数日で一生分泣いたであろうガイザビィズの肩に、アイリスが優しく手を置き、気丈に振る舞う。
「もう泣かないで。私たちのチャンピオン……」
雨音だけが全員の悲しみを流すように響いていた──。
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