第6話【二重ホール】

 研修生がライゼに向かって目を輝かせながら言った。


No.1ナンバーワンツーは不動ですね』


「最近の子はお世辞が上手いなー、って討伐に申請いるのか?」


「聞いてたスか?ナンバーはいらないんス」


「申請ってどこですんの?」


「ギルドっス!」

『ギルドです!』


 ガービィと研修生たちは常識だと言わんばかりに声を揃える。


「法治国家スからね。政府は民衆にわかりやすく周知しやすい、HEROヒーロー、ギルド、モンスターと、昔からアニメや漫画で出てくる馴染みやすい単語をつけただけで、実際は法律でガチガチなんスよ。ライゼさんが特例なだけス」


 教え子から逮捕者を出すわけにはいかん! とガービィはライゼに話しかけているようで、研修生たちにも聞こえるよう説明をした。


「そうか、結構優遇されてたんだな。ありがたいな」


「普通のHEROヒーローは大変なんス」

 

『ガンも正式な名前ってあるんです?』


「……」

「……」


『……?』


 昔聞いたような気もするが、さっぱりわからなかった二人は神妙な顔で無視する事にした。


「長いな」


「妙っスね」


 しばらく歩いたが通路が終わらない。

 普通ならとっくにホールへ着いているはず、と二人は警戒していた。


「伏せろ!!」


 後ろから気配を感じ、ガービィが皆へ叫ぶ。

 その直後、こん棒のようなものが凄い速さでこちらに飛んできた。


 明らかにこん棒の威力ではない。

 壁にぶつかって尚跳ね返り、打撃音を響かせながら後方から前方へ飛んで行く。


 研修生たちは伏せたまま、辺りを警戒する。


「チィッ、長さで気付くべきだった!二重ホールだったか!」


 稀に通路の途中で別のホールへと繋がる入り口がある。

 二重ホールと呼ばれるこれらも光学迷彩の為、ガンでスキャンしなければ発見は難しい。


 ガービィは周囲を見回す。


「皆んな無事か!?先へ走れ!」


 通路での挟み撃ちになるのは危険だ。

 奴らに作戦はない、ただ気配がするから追って来ただけだろう。


 後方は自分達がいる。パワー計測値が未確認な途中のホールより、わかっている方が研修生には安全だ。

 ならば研修生たちは先へ行き、自分は最初に発見したホールを片付けるのが得策だろう、とガービィは判断した。


「ギギ……ギ」


 言葉にならない歯軋りのような声を出しながら、モンスターの群れはすぐそこまで迫っていた。

 肌は緑色、耳は尖り、黒目がないので視線がわからない。


「ゴブリンっスね」


「俺がやろうか?」


「いえ、ライゼさんは研修生へ」


 ガービィは研修生を一番信頼できるライゼへと任せる。

 この世界で誰かを守るのに、ライゼ以上の適任はいない。


「任されたっ──」


 ライゼとガービィはすれ違い様お互いの手を出し、指の先でパンッと合わせた。

 ライゼは振り返らず研修生と先へ急ぐ。


「ここは通さん。ハァッ!」


 ライゼたちを背に、ゴブリンを遮るように四肢を大きく広げ、ガービィの体が薄い光で包まれる。巨体がさらに大きく見え、それでも怯まずゴブリンは向かって来る。


【パワーアップ】


 ガービィの能力だ。筋力などのアップではなく、パワー計測値そのものがアップする。


 水で火は消える。

 が、単純に火が大きすぎると消えないのだ。

 能力の優劣は確かにあれど、この世界において【パワー】は非常に重要な要素ファクターである。


「パワー……ショット!!」


 ガービィが左手で右手首を掴み、拳にパワーをためて、放つ。

 ただそれだけの行為だったが、凄まじい衝撃波が通路いっぱいに広がりゴブリン数十体を吹き飛ばした。


 ゴブリンを形作っていたものは粒子になり、霧のようにサラサラと上へ消えていく。

 十センチ程のヘビ本体が活動を停止し、数十体転がっていた。


「フウッ」と一つため息をつき、ひとまずヘビの回収を後回しにして来た道を戻る。

 ガービィはガンで入り口を探し、別のホールへと入って行く。手慣れたものだ。


 少し行くと、ただただ広く四角い真っ白な部屋へ到着。

 普通の体育館くらいの広さだろうか。


 紛れもなくホールだ。


 少し沈黙し、ガービィは違和感を覚える。


 敵がいない。


 奴らは待ち伏せなどしない。

 さっきの通路へ戻り、倒したヘビの中から赤い増殖可能な個体を探す。


 赤い増殖可能なヘビは、二体だけ赤い個体を作り出す。


 その二体はホールを出て新たなホールを築くのだ。

 大抵のホールは離れた場所にあるのだが、稀にこんな近場でホールを築く事もある。

 それが二重ホールだ。


 赤い個体はホールでヘビを作り続け、それらが変異し、先程のゴブリンのように襲ってくる。


 奴らなりにリスクを分散させているのか、別の理由かは定かではないが、ヘビが現れて数百年経った今なお、完全に殲滅できていない理由でもある。


「くっ!やはりか!」


 赤い増殖可能なヘビを見つけ、ガービィは焦る。

 このホールはこれで全てだ。

 パワー1500のホールはここだった。

 つまりライゼの向かった先は未計測、どんなモンスターがいるのかわからない。

 もしかしたら研修に向かない、とてつもなく強いモンスターがいるかもしれないのだ。


 研修生はライゼといれば安全だが、だからと言って任せきりとはいかない。

 幸いこちらのホールは深くなかった。

 すぐに追いつくだろうと、ガービィは急ぎ研修生たちのもとへ走った。




 しばらく歩いただろうか、ライゼ達は最深部のホールへとたどり着いていた。

 ガービィが見つけたホールなど話にならない。

 広すぎる、まるでコンサートホールのようだ。

 敵の数も多い、ガービィはいない。

 ライゼは研修を中止させようとした。


 明らかにパワー1500どころではない。

 無数のゴブリン、そしてその奥から得体の知れないモンスターの気配を感じたからだ。


「僕が行きますよ」


「待て、俺が──」


 ライゼは一人で行こうとするギースを制止。

 だがギースは聞く耳を持たず敵へと歩き出した。


「ライゼさん!」


「ガービィ、追いついたか。あれは先生としては止めなくていいのか?」


 ガービィは自信満々でライゼに説明する。


「ライゼさん、あいつは──」


 ギースが敵に向かって走り出し──


「──俺と同じ能力っス」


 ──敵の集団に向かって技を放った。





「パワー…ショット!!」




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