3-2: 美少女2トップとともにランチへ
そして俺がデミグラスソース。
いろんな味が楽しめるのがココの良いところだ。
「ねえねえ。ふたりともさ、……ちょっと相談があるんだけどぉ」
「俺のはひとくちまで許そう」
「……ちょっと、レンレン。君、話の理解が早すぎるって言われない?」
最後まで悩みに悩んで悩み抜いた挙げ句、オーダーが確定してからも何かごにょごにょと悩んでいた姿を散々晒していた稲村だ。どうせそんなことだろうと思った。
「ただし、稲村が食べたサイズ分、俺にも味見させてくれ」
だったら等価交換と行こうじゃないか。正直言うと、俺もけっこう迷っていて、稲村が選んだチーズフォンデュ風は最終候補くらいのところにあった。
「……う~~ん」
「何で悩むんだよ、そこでも」
「…………許可!」
わざわざだいぶ溜めやがって。そこまで勿体振る必要なんか無いだろうに。
「だったらもうワンサイズ大きいの頼んでおくべきだったか」
「えー、太っ腹じゃぁん」
「稲村に食わすためじゃねえよ」
「えっ」
そして今度の意思疎通は何故か失敗してしまったらしい。
そりゃそうだろうよ。自分で食べたいと思って選んだモノをより多く食べるためだろう。
「ちなみに菜那は?」
「……どうせちょっと残すかもしれないの解ってるでしょ」
「へへへ」
「はぐらかさない」
そちらはいつもの光景らしい。
「小食なのか?」
「そうそう。さすがに、もうちょっと食べたらいいのにね、って思ってるんだけど」
ある意味想定通りでもあり、意外な感じでもある。
ともすれば華奢な印象があり、昼食も静かに細かくよく噛んで食べそうなイメージ。二階堂菜那とは要するに、お嬢様のお食事を地で行きそうだという勝手な想像を働かせやすそうな雰囲気だ。
もしかすると、本来ならスモールサイズでも良いところを、こういうことが有るかもしれないと思って標準サイズで注文したのかもしれないが……。これはさすがに考えすぎだろうな。
しかし、それで良くあのスタイルとあのサイズ感を共存させられるなぁ――。
「……何かレンレンが良からぬことを考えていそうな予感」
「し、失敬な!」
よもやの見抜かれ。しかも稲村に。
いや、しかしさっきの感じからすれば稲村の予想は外れる可能性も大いにある。真相や如何に――。
「『それに比べてお前は……』みたいなことを思われてそうなんだけどー」
「いや、そうは思ってねえよ」
斯くして稲村の予感は外れていた。ちょっとだけ助かった気分。
「そういえばさぁ」
そして予想が外れていたせいだろうか、稲村はそのまま流れるように話題を変えにかかった。またしてもちょっとだけ助かった。
以前の図書室勉強会以降も二階堂や稲村と帰路を共にすることがあったが、そのときも大抵次の話題を持って来てくれるのは稲村だった。
「ちょっと気になってたことあるんだけどさ。レンレンって、何かバイトしてたりするの? それか、夏休みのそういう予定とかってあんの?」
「あぁ……」
――さて。
方向転換をした先に存在していた別の話題が物凄く返答に困る内容になっていることは、さすがに全くもって想定していなかった。これは良くない。
ウチの高校は、もちろんバイトの内容に対してはある程度の制限をかけてはいるが、バイト自体は厳格に禁止されているわけではない。ただ、そちらに感けて学業を疎かにすることは許さないというスタンスになっている。バイトをやるからにはそれ相応の授業態度と試験成績を残さないとならず、条件を満たせなければ停止させられるというシステムだ。
――だからこそ、こうして試験勉強は早いウチから集中して始めているというわけだ。
「一応は、やってる」
「へえ」
「今は『テスト期間だろ』ってことで休ませてもらってる」
「あ、エラい」
「サンキュ」
声込みの相鎚は稲村。首と表情だけの相鎚は二階堂。コレも見慣れた光景だった。
「そういえば、部活入ってないんだっけ?」
「そうそう。だから平日も入れられるときには入れてる感じ」
なるほどねー、と適当に言いながら稲村はお冷やを口に含んだ。
今のところは大丈夫だ。まだ問題はない。
「お休みの日もなんだ」
「メインはそっちかな」
「ふぅん」
意外とまで言うと失礼かもしれないが、この話の流れで珍しく二階堂も参入してきた。少し嬉しい――ような気がした。稲村がいるときは基本的に稲村が話していることが多くなるので、ただでさえ少ない二階堂の口数がさらに減りがちだった。だからこそちょっと意外性を感じたわけだが。
「え、ちなみになんだけど、何系?」
さぁ、とうとうこの質問が来てしまった。この話を始めたところで絶対に辿り着く内容だと思っていたので、一応はそれに適した解答もその後にやってくるだろう反応もシミュレーションした上で返すことにする。
「……飲食」
「へえ!」
ああ、ほら。案の定だ。稲村の目がキラッキラしてる。
さすがにここでウソをついてもあまり意味は無いかと思って本当のことを言ったが、実際に本当のことを言うとなればその反応はこうなってしまうだろうという予想も付けていた。
一応はすべて想定通りではあるが、想定通りだから良いのかと言えばそんなこともない。本当に困る質問だった。
「……意外って思っただろ」
「うん!」
「だろうなぁ」
陰キャ代表みたいなザマをあの合コンで晒している真っ最中に、俺はこのふたりと初めて話をしたわけだ。稲村や二階堂にとっての俺の第一印象がアレなのだから、そりゃあそのリアクションにもなるだろう。
よく見れば二階堂も少し驚いたような顔をしていた。
俺だってそう思う。ガラじゃねえよな、と。シンプルに。
「ちなみに何系想像してた?」
「えー、何だろ。スーパーの品出しとかぁ、んー……」
「書店とか、ありそう」
「あぁ、ね」
イイね、その辺りとか。書店員は俺もちょっとやってみたい。
俺だって選べるのならもう少し選びたかったが、いろいろな事情が噛みあってしまった結果、そういうところにお世話になるしかなかったのだ。これでも結構頑張ってる方だと思う。
しかし、隣に二階堂を置きながら自称『我が校ツートップの美貌』と言い放つだけはある。稲村にそこまで瞳を輝かせて来られるとさすがにドキっとする。
「どこでやってんの?」
「それは言わない」
ここだけは譲れない。シゴトの内容までは言えても具体的なところは教えられない。
「えー!? 何で何で?」
「咲妃、声大きい」
「あっ。……すみませぇん」
周りのテーブルでもそこそこ大きな声で話をしている。とくに反対側サイドにいる主婦っぽい層の集まりと、その近くで日本語ではない言語を話している集まり。そのおかげで稲村の謝罪もすんなりとかき消されていった。
稲村が再び水に口を付けたところで、俺も一息つくことにする。
「で? 何で教えてくれないの?」
「だってその感じだとバ先に来る気満々だろ」
「あったりまえぢゃん」
そうだろうね。容易に想像がついてたね。
稲村のことだから、きっとそういうことを言ってくると思っていたよ。
「じゃあ言わない。だから言わない」
「なるほどね。ってことは、何かバレたらヤバイ系ってことだ」
まぁ、ある意味『バレたらイヤだ』とは思っているけれど。
少なくとも稲村が想像しているタイプの『ヤバイ系』ではないとは思う。
さて、さらなる問題が発生したという感じだ。コレはさすがに否定しておくべきなのだろうが、ここで否定すると当然のように更なる尋問が展開されるわけで……。
「バレたらヤバいというか、バレたらイヤというか」
「はいはいはい、皆まで言うな、皆まで言うな」
ああ、面倒くさいその感じ。
案の定だが、二階堂も『ああ、捕まったわね』みたいな顔をしている。助け船までは出してくれないあたり自分は安全圏にいたいという表明だろう。
二階堂が日頃からこんな感じの口撃を受けていることは簡単に想像が付く。今度試験勉強が終わったあたりで、稲村のこういう反応に対する対策方法を勉強させてもらおうか。
「私解っちゃった。咲妃さんってば解っちゃいました」
迷宮入りさせそうな探偵が、何か自信ありげに胸を張る。
「菜那。きっとレンレン、ママ活してるんだよ」
「するかよ」
それをどうやったら『飲食』って表現出来るんだよ。
そういうのは『サービス業』って言い方があるんだよ。
「でも、その感じだから怪しいんだよな~」
「何とでも言いなさい」
俺はもう、これ以上の情報を稲村に提供する気は無い。
――二階堂になら言うか、と訊かれれば、別にそういうわけでもないけれど。
わざわざ自分からすべてを曝け出す必要もない。ただそれだけのことだ。
「お待たせいたしました、フォンデュ風の方は……」
「あっ、はいっ!」
元気が良いことで。
まさしく丁度のタイミングで、注文の品が届き始める。
いい加減腹の虫が大暴れする直前だったし、何よりも話の矛先も変えられる絶好の機会にもなった。お店の人たちにはグッジョブだったと伝えたい。
「ほら、早速だけど」
「あ、サンキュー。……じゃあ私も」
さらりとトレードを成立させたところで勉強会の締めが始まった。
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