1-1: 雰囲気に飲み込まれる初合コン


     ○


 高校2年生になって数週間ほどが経ち、新しく同じクラスになったヤツらともまぁまぁ仲良くなりつつあったところで、その中でも随一ノリの良いときりょうへいと、その友人であり去年からの付き合いでもあるいまいずみしょうに誘われたのが、この集まり。


『クラス替えもあったし、さらに交友関係を広めるにはこの時期がいちばん大事だよな。なぁ、れんよ』


 そんなことを言われて、誘われるがままに参加した。まともな返事はしていなかったとも思うが、亮平としては充分だったらしい。


 それから数日後。やってきた週末。


 集合場所に早乗りしてみれば、続々と集まる同世代の男女がそれぞれ8人ずつ。向かう先はとりあえずのファミレス。ドリンクバーだけでしばらく居座った挙げ句、そこからのカラオケ。


 要するに、合コンである。


 一応は『高校デビュー』みたいなことはでき、最初の1年はそれなりに溶け込むことができたとは思うが、そういう集まりに顔を出すまでには至らなかった俺が、とうとう合コンデビューである。


 残念ながらこちらから紹介できるのは同性も異性も皆無なので亮平と翔太にただただ乗っかってくっついていくというプラン。訊けば彼らは中学の頃の友人に声を掛け、その友人がさらにいろんなところに声を掛けていったということなので、その辺は気兼ねしなくて良かった。


 レベルの高いカワイイ子も居る、ということも聞いていた。しかも違う学校の子が大半だという。何故そうしたかと言えば、いろいろシやすいからだという。


 ――が。


 残念なことに、当の合コン会場では気兼ねしなかった。


「ねえ。……えーっと、なにくんだっけ」


ふかざわ、え、っと、深沢蓮っす……」


「うんうん。深沢くんってどこ中? この辺じゃないよね」


「あ~、ぇえーっと……」


 ――明らかに『純正陽キャ』の感じがある女子相手には、これが限界だった。


 当然女子の方も俺がそちら系に無能であることを察して、その後はあまり話しかけてくることがなかった。明らかにローテンションな女子も混ざっていて、自然とその子が押し出されるように俺の近場に座ることになったが、こちらも当然のように会話へとに繋がる流れになるわけがなかった。


 こちらから名前も訊くことはなかったその娘はどうやら他の男子のどれかが意中の君らしく、そちらに目を向けているので話はそれっきり。幸いにしてその娘が好きっぽい男子もその娘が好きっぽい雰囲気を出していて、さらりと隣り合うように座ったのでその辺はヨシとしておこうと思う。色恋沙汰に無駄な手出しが出来るのは、もう少し経験値を積んだニンゲンだけだ。


 ただし、それ以外にも、とくに男子連中は声を掛けたい・話をしたい・くっつきたい、何ならヤりたい相手というのが居るらしかった。そりゃあどいつもこいつも小綺麗な恰好をしてきているわけだ。――俺も他人のことは言えないが、俺のような付け焼き刃感はないのでそこら辺でも格の違いを見せつけられてしまっていた。


 そもそも今までの人生16年間で女子との会話なんて必要に迫られない限りはしてきていないから、義務感を漂わせながら話しかけてきてくれた子にも微妙な反応しか返せない。合コンでそんなヤツを構っていられるほどの余裕なんて誰にも無いだろう。名前を答えるのにすら口篭もったのはマジで反省項目だった。


「この娘はねー、最近別れたばっかなんだよねー」


「……そういうの要らないから」


「えっ、そうなの? こんなにカワイイのに別れるとか、そのオトコ無能すぎじゃね?」


「ちなみに私もフリーだからねー」


 女子も女子で何となくではあるが、『カレシ持ち』という肩書きが欲しいだけのような娘が数名混ざっている印象はあった。ドラマか何かで見たような、絵に描いたようなしなだれかかり方をしているのを見てしまったときは、グラスのコーラが一気に半分くらい減ったほどだった。


「ねえねえ」


「……え?」


 そんなとき声を掛けてきたのが、明らかにローテンションな最近フリーになったらしい娘の友人と思しき女子だった。


「もしかして君さぁ、ウチらと同じ学校?」


 訊かれてよく見てみる――あ、たしかに。何組かまではハッキリ把握していないが、たしかに廊下で何度か見たことはある。


「え、ちょうりょう?」


「そうそう」


「あ、じゃあ同じだ」


「いや、テンションよ。もっとさぁ、こう……無いの? ガッと来る感じとか。ウチらアレよ? ウチの中でも指折りの美少女たちよ? そんな美少女たちの記憶がビミョーにしか残ってないとは、いただけませんナァ」


 そう言って彼女は友人の肩を寄せる。そちらは確実に迷惑そうな顔をしているが、まぁ何も言うまい。


 それに、俺が同じ学校ということは、そちらも確信を持っていたわけではないだろうに。もちろん、これもわざわざ言う必要はあるまい。


 実際確かにレベルは高いとは思う。この8人で言えばツートップを張ってるかもしれない。ただ、片方はテンション高すぎ問題、もう片方はテンション低すぎ問題を抱えていて、総得点はそこまで伸びなさそうな気配はしていた。


「あー、いやまぁ、その。廊下とかで何となくすれ違った記憶はある、かなー的な」


「何だよー。深沢くんってば、やる気無し夫くんじゃ~ん」


 何だソレ。こっちだって、一応のヤる気はあるんだよ。たぶん。いや、まぁ、あそこの一角に居るヤツらとは比べものにならないと思うけど。


「そっちは随分やる気ありそうな」


「そっちじゃないですー。いなむらって名前がありますー」


 稲村は片手でグラスを呷って、もう片方の腕で再度友人の肩を抱き寄せた。何となく男前な所作でちょっとだけ面白い。


 しかしコイツ、まさかお茶に見せかけてビールとか飲んでないだろうな。


「ちなみにこっちはかいどうね」


「勝手に他者紹介しないで」


「もー。こっちもやる気なし子ちゃんだから困るよねー。ねー、深沢くん」


「んー……」


 明るいというか、煩いというか。良く言えば元気、悪く言っても元気。どうやら稲村はそんなヤツらしい。何でこのローテンションな二階堂と連んでいるのか、パッと見ではよくわからなかった。


 ――というか、思い出した。二階堂菜那の方。『告った』とか『フラれた』とかいう類いのウワサでそれなりに登場する名前じゃないか。


 そんな娘が、何故こんなところにいるんだ?


 思わず自分のグラスに手をかけるが、残念なことに空っぽだった。


 ドリンクバー形式のため、飲み物は当然自己責任。


 仕方ない、取ってくるか――。


「あ、蓮! 飲み物行くならついでに俺のも! コーラで!」


「同じく!」


「おい、自分で行けよ……!」


 コイツら、完全にタイミング見計らってたな。


 まぁ仕方ない。今日は完全にあのふたり――亮平と翔太におんぶに抱っこだからな。それくらいは甘んじて受け入れてやろう。今回だけは。


「ねー、菜那。あたしのウーロン茶持って来てー」


「何で」


「……イイじゃーん、別にぃ」


 二階堂のグラスはひとくち程度しか付けられていなさそう。反面、稲村の方はさっきの流れで飲み終わっている。


 つまりこれは、――純粋なパシリ。


「いや、だったら俺が……」


「さすがにグラスそんなに何個も持てないでしょ」


 たしかに、そうだけれども。やればできるのだけれど、さすがにこういうところのグラスを割ったりするような危険が伴うことはしたくなかった。そういう意味では誰かが付いてきてくれるとありがたいのだけれども。


「ほらほら、行ってらっしゃーい」


 何とも言えない空気を背負わされながら、俺は席を立つことになった。

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