第42話 王命

 あの後。


 王国へと戻った私は不貞腐れる2人を諫めて仲直りさせて、国王への報告の為、王城へと赴いていた。


 そして、謁見の間にて。


 私は国王である父が鎮座する豪華絢爛な椅子の隣に立ち白銀の騎士団団長であるコンラッド様、副団長のガイアス様が深淵の森で体験した出来事を報告していた。


「――以上が、深淵の森で我々が目にしてきた内容となります」


「うむ、報告ご苦労。コンラッド卿よ、下がってよいぞ」


 国王の威厳漂う声が響く。


「労いのお言葉ありがとうございます」


 コンラッド様は、真剣な表情でそう告げる。

 そして、クルリと振り返り、二、三歩先で控えているガイアス様の隣へと歩いていった。


 国王は少し考える素振りを見せると口を開いた。

 

「コンラッド卿、ガイアス卿よ。そなたらに真理の山へ行くことを命ずる」


 その命令を耳にした瞬間。


 私は反射的に言葉を発していた。


 王女としてではなく、娘として。

 

「お父様! それはあんまりにも――」


 私が慌てるのは当然である。


 深淵の森の序盤で騎士団の半数にあたる以上の脱落者を生み出してしまったのだ。


 それが真理の山となってくると、国の為に死んでくれと言っているようなものと変わらない。


 その上、それを2人でなどを口にするなど、常軌を逸している。

 

 そもそも貴族のたちのやっかみや批判を無くす為に、コンラッド様率いる白銀の騎士団を危険と分かっている深淵の森へと向かわせたというのに。


「ふふっ、大丈夫だ。シャルルよ! そう慌てるでない。余にも考えがある」


 私の心配していることを見透かしているようで、国王は柔らかい笑みを浮かべると、どういう条件下で探索するのか提示してきた。



 その条件は3つ。

 

 1つ、命を第一優先とすること。


 2つ、森の中で何が起きているのか把握すること。


 3つ、私、シャルル・ロア・ラングドシャを一緒に連れて行くこと。


「えっ!? 私がご一緒しても宜しいのですか?」


「シャル、そなたは稀有なスキル【転移】を持っておる。それに聖獣も引き連れておる。その上、この猛者2人と引けを取らぬ実力の持ち主だ。王女であること以外には、そなた以外に適任者はおらぬだろう」


「そうですか……」


「うむ、それにだ!」


「なんでしょう?」


「今回のようにだな、勝手に抜け出されては、余も肝が冷える……王宮内どころか、国民からも意見書が届いたくらいだ」


「す、すみません。お父様」


「よい! 余は誇らしいくらいだ。ここまで実の娘が好かれているのはな」


「は、はい、ありがとうございます」


「ただし、数名の騎士団は連れていくことだ。これは王女であるそなたの護衛だ」


「お父様……それは先程発言されていたこととは、矛盾されるのでは……」


「ふふっ、矛盾か……そうではあるな……これは娘を心配する父としてのお節介……国王である余ができる最大級の気遣いだ。まぁ、それにだ。そなたを慕う国民からすると、これくらいはせんと納得してくれんだろう。とはいえ、意見書はまた届くだろうがな……」


「そこまで、考えてのことでしたのでしたか……。声を荒げてしまい申し訳ありません。その色々とお気遣いありがとうございます」


「気にするでない! ま、コンラッド卿に任せておけば、特に問題はなかろうしな!」


「はい、この命に代えても、お守り致します」


「はははっ! あの優しさに溢れた子がそのような目つきになるとはな……だが、しっかり生きて守るのが貴殿の務めだ。必ず生きて戻るようにな。でなければ、余の娘が悲しむことになる」


「ははっ!」


「うむ、ガイアス卿も頼んだぞ! コンラッド卿が無茶なことをせんように、見てやってくれ」


「はい! この私にお任せ下さい」


「うむ! 良き返事だ。では、また報告を待っておる」

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