エピソード6, あの空を忘れることが出来ない


 僕は、あの空の色を忘れることが出来ない。


 それは、いつの日か見た空の色、それはただの夢の狭間で映し出されたもの。


 しかし、それは僕の脳裏に焼き付いていて……いかなる時も僕を苦しめたんだ。



 ――……



 映し出されたのは雲一つない快晴の日。


 青空は澄み切っていて、頬を撫でる風からは生暖かさを感じた。


 空気を取り込むとツンとした煙たい香り、恐らく何かが燃えているのだと悟る。背には砂利の欠片が食い込み、腹の辺はずんとした重しのようなものが乗っているかのような鈍い痛みがあった。


 肩の力を抜く。浅い呼吸をとっては人生の回想を試みる。


 回らない思考はそれすらもままならず、僕はただこの空を眺めることしか出来なかった。


 一面に広がる空は雲一つ無くて、今の何も無い僕にぴったりであった。


 今もきっとどこかで名の知らない仲間という存在が命を懸けている。


 生きて戦いたい?

 まだ生きていたい?


 ……正直そんな気持ちなかった。


 殺しが合法となったこの世界の常識、それを肯定している狂った世界に違和感を持ったのは多分今のこの瞬間。


 心のなかに湧くのは怒り、ではなくて懺悔と後悔、そしてただただ疲弊していたんだ、心も身体も。


 これから僕はもうじき死ぬ。

 その事に恐怖はなくて、やっとこの悪夢から解放される安心感が勝った。


 ただ、一人ぼっちになるんだろうなぁ


 視界が滲んだ。


 何故かは分からない。


 でも、きっとそれは僕の人生の最期であったからかもしれない。




 そんな僕に君は泣いてくれた。




 君が泣き叫んでも僕の耳にはもう、僅かな悲鳴だって届かない。


 君が顔をくしゃくしゃにしても君の顔をはっきりと目に映すことも出来ない。


 君の涙を拭いてあげたくても僕には腕を伸ばす力すら残っていない。



 だから君は、笑って僕を見届けてくれないか?



 そんな淡い願いを言葉にする事すらできなかったけれど、僕が笑いかけたときに君が泣きながら頬をほころばせた気がしたのはきっと気の所為ではないと願いたかった。



 僕はあの空の色を忘れられない。


 あの空の下に君がいたから。

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