第18話 トロトロの女。
認知症の恵子さんは、「あんだ綺麗だな。ここで、一番綺麗だ。肌も白くてな」と、私を褒めてくれます。
はい。
私の肌にはシミがあります。が、恵子さんのおめめには見えないようです。サンキュー、老眼! 世の中の全ての人が老眼になってくれたら、もう、シミに悩む必要なんてありません。
話が脱線しましたが、もう一度言います。
認知症の恵子さん。実は、施設の職員さんみんなに「あんだが一番綺麗」と言っております(笑)
それでもいいんです。何度でも綺麗と言ってください。
ある時、恵子さんが私の顔をじぃっと見て言いました。
「綺麗だな。トロトロしてで、綺麗だ」
「……トロトロ? 私、トロトロしてるの? トロトロって、どういう意味?」
トロトロという言葉に思わず噛みつく私。
恵子さんは「わがらねぇ」と答え、恥ずかしそうに笑ってテーブルに顔を伏せました。
どうやら私は、トロトロしているらしいです。
が、言葉の意味は、未だ解明されておりません。
さて、介護施設には、いろんなタイプのご利用者さまがいらっしゃいます。
お話し好きなたか子さん。
私が他県出身であることを伝えました。そんなことから、話は弾み? 夫が施設にいることや義両親と同居していること、父と弟が既に亡くなっていること、母が一人で暮らしていることを伝えたら、たか子さん泣き出しちゃいました。
「可哀相に……」って。
う~ん。
私の人生、いろいろあったけど、うん、あり過ぎだと思うけど、別に可哀相な人じゃないんだよなぁ。ポリポリ……
明るくサラリと話しても私の身の上は重いのかぁと苦笑していると、たか子さん、今度は私を拝み始めちゃいました。
「おらだち年寄りの面倒みでくれて、ありがとな」と。
ねぇ、たか子さん。
その言葉に、その涙に、その合掌(ちょっと恥ずかしいけれど)に救われてるのは私の方ですよ。
何度もくじけそうになったけれど、生きていて良かったと思う、ほんとに。
こうして、心に温かな火が灯る瞬間に出会えたのだから……
介護の仕事って大変なことが多いけれど、私はこの仕事に救われてます。だからね、介護の仕事をする人が、もう少し増えてくれたら嬉しいな。
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