第17話 殺人ドラマの世界へと。
「私を殺しに来たんだろ? お前の顔は覚えたからな」
「みんなグルなんでしょ。いいよ、どうせ先は長くないんだから、死んでやる」
「殺される。殺される!」
ひきつった顔で職員を睨みながら、そう言い続ける利子さん。
私たち介護職員は、利子さんの殺人ドラマの世界に否応なく引きずり込まれる。
廊下で、トイレで、部屋で「殺される!」という声が聞こえてきて、不穏で重い空気が施設内を這うように覆い始めた。
利子さんは、どうしてこんな風になってしまったんだろう?
認知症によるもの? 精神疾患?
利子さんの「殺しに来たんだろ?」という言葉が、恐怖を孕んで私の心をえぐってくる。
『私は、殺人者じゃない!』思わず、心の中で叫んだ。そして、ハッとする。自分が、利子さんんの物語の登場人物に引きずり込まれそうになっていることに……
精神科の医師が精神を病むという話を聞いたことがあるけれど、確かにこれは病んでしまうかもしれないなと思った。
利子さんは、たった一人で脳内で作られた死の恐怖と戦っている。
どうしてそうなってしまったのかはわからない。
この一件で介護という仕事は、ときに死臭を含んだ闇を纏うんだなぁと思った。
だからこそ、「ありがとう」と手を合わせてくれる利用者さんの言葉がその闇を祓い、明日の仕事への活力となるのかもしれない。
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