第11話 真夏の怪談?

 昼食終わりの午後のこと。

 コール対応で、いつこさんの元へ走る。


 ベッドに横になっているいつこさんの不穏な表情。

「どうしました? いつこさん、トイレ?」


「ううん、そこの車椅子さ、赤ちゃんいるべ」

「えっ? う~ん、私には見えないけど、赤ちゃんいるんですか?」


「うん、その赤ちゃんな、ベッドさ入って来て足元から上がってくるんだよ。顔の皮ベロっとめくれでで、首だけの赤ちゃん。誰の子がもわからねぇ。おじいさんど、おばあさんもそばさいる」


 ヒョー

 めっちゃホラー。

 私、鳥肌が立ち始めました。


「おらは、何もできねぇから、どっかさ行ってけれって言ってるんだども……」

「いつこさん、こういう時は仏様さ頼むのが一番」

「んだが、なんまいだぶなんまいだぶ言えばいいんだよな」

「うん。なんまいだぶでいい」


 本当は、お不動様の真言教えたいけど覚えられないよね。

 と思いながら話を聞く月猫。

 正直ビビりまくりです。


 これって、レビー小体型認知症の症状なのかな? と思いつつ話は続く。


「みんなはよ、すぐに妄想だ妄想だってしゃべるんだ」

「そうかぁ」(そういわれるの、切ないだろうな)

「赤ちゃん、まだ車椅子さいるべ。おっかねぇ人来ると、直ぐに居なくなるんだ」


 まだ居るってことは、私はおっかなくない人なんだな。

 それは良かったけど、めっちゃ怖いよー


「私に赤ちゃんは見えないけど、いつこさん、トイレに行く? それともホールに行く?」


 この辺で、強制的に話を変える作戦にでた月猫。

「う~ん。 ……あと、三十分か一時間横になってるかな」

「そう、じゃ、ゆっくり休んで。また何かあったら、直ぐにコールしてね」

 そう言って、月猫は部屋を出る。


 明るい廊下にさっきまでの恐怖は吹き飛んだ。

 でもさ、まさか、日中こんな恐怖体験することになるとは思わなかった。


 夜勤でこんな対応してたら、絶対怖いと思う。


 夜勤してる介護士さん、ファイト!

 お守り持って仕事してね、と思う。

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