第5話 新米ゆえ叫びそうになりました。

 備品補充の際、トイレから物凄い便臭が漂ってきた。


 ぬぉぉぉぉぉ~~~

 危険なかおりがする。

 こ、これは、誰かがうんこを漏らした臭いだ!


 便座に座っているのはすみれさん。

「うんこ、うんこ」と呟きながら、便まみれのパンツを綺麗にしようとトイレットペーパーで拭いていた……


「すみれさん! ちょっと待ってください」


 待てと言われて、手を止め黙って座っているご老人がいるだろうか? 否。すみれさんは、一心不乱に便を拭く。便にまみれたその手で……

 

 私はというと、最初に汚れたズボンと下着を脱がせた。その後、おしりふきで汚れた手を拭いた。

 でもすみれさんは、トイレットペーパーで便を拭きとる行為をやめない。そのスピードは、私が汚れた体を綺麗にする作業の上をいく。だから、何度も綺麗にした手が汚れるのだ。


「すみれさん、自分で体を綺麗にしたい気持ちはわかりますが、私が拭きますので動かないでください」

と何度もお願いする。

 

 しかし、『綺麗にしなきゃ』という一念に支配されているすみれさんに私の言葉が届くことはない。 何度も汚れる手・手・手……


「やめてください!!」

と、私のイライラが急上昇した。

介護の仕事で初めて感じたイライラ度である。 


 ハッと我に返り『仕事だ。怒るな』と言い聞かせ、怒りをダウンさせた。すみれさんは、小さな体で「ありがと。ありがとう」と繰り返し呟いている。


 そうだよね。すみれさんは、他の人に迷惑かけたくないと思っているんだよね。自分で綺麗にしたいんだよね。便を拭きとりながら、私は複雑な気持ちに支配される。


 なんとか、汚れを取ってズボンを履かせることができた。新米ゆえ時間はかかったが……。それから、便で汚れたトイレ箇所を掃除する。続いて、便汚染された衣類を洗いに走る。


 汚れた衣類を洗いながら、「仕事だからイライラを抑えることができたけれど、これが自宅介護だったら、私には無理だなぁ」そう、思った。


 

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