クッキーと拳銃③ / 分割Ver.

「軍人さん?軍人さんがたたかわないなら、オルターマンが銃をぶっぱなしてやるよ!」

 戦いの恐怖は、ある時ふと感じてからは、なかなか逃れられない。

 「オルターマンのガンアクションを、とくとみよ!」

 少女はエトウのホルスターを外して拳銃を抜き取った。

 「オルターーー!!ショーーーットッッ!!」

 少女は短い指でトリガーに手を伸ばすが、それでは扱えないほど大きく重い。

 「できないや、、、」

 頭をかかえて、うずくまる元軍人と、拳銃を持て余す少女の沈黙は、再び起こった外の爆発ですぐに終わった。

 ドンッという大きな音と揺れが街全体を揺らす。

 「あぁぁぁあああぁぁぁぁあああ!!もう無理だぁぁぁあ!!」

 エトウにはとってはもう無理だった。何もできない、撃たれるだけだ、そう感じた。

 「軍人さん?ワタシはまだ銃をうてない。でも軍人さんなら銃をうてるでしょ?」

 「撃てない、、、」

 「うてるよ!軍人さん、銃をうつのが好きでしょ?」

 「銃、、、銃を撃つ、、、無理だ」

 「軍人さんって戦うものでしょ?」

「軍人は、、、」

「軍人さん、銃をうてるでしょ?好きで、出来る、だから『する』でしょ?」

「えぇ、、、」

「軍人さん、オルターマンをまもってくれるでしょ?」

沈黙が流れた。外では近くで銃弾が放たれる音がする。

 「そう、、、好きだったんだ。自分は、戦うのが好きなんだ。だから、出来るようになるために、銃を撃てるように、訓練したんだ、、、」

 「オルターマンをまもってくれる?」

 「あぁ、そう、だから、銃を撃つ!」

 エトウは立ち上がった。大きな深呼吸をして、窓の外を睨み、床に捨てられた拳銃をホルスターに戻す。

 「あぁ。オルターちゃんを守る!」

 エトウは少女に笑顔をみせた。そして少女の手を握り、家の裏口から飛び出した!




「あぁぁ!腕が、、、腕がぁ!」

 「衛生兵!何やってんだ、早く来い!」

 「待て!こっちが先だろ!!こいつの血が止まらねぇんだよ!」

 「退避!退避だぞ!早く戻れ!」

 「撤退命令は出てないぞ、戻れ!逃げるな!」

 「おい!そっちじゃねぇって!」

「民間人の避難が優先じゃないのか?」

 「こいつはもう死んでんだろうが、次だよ」

 「息があるだろ!?」

 「退避!退避だ!」

 「民間は放っておけ!テロ止めんのが先だろ?」

 「包帯は?」

 「タイヤを狙え!」

 「避難誘導は?」




外は大混乱だった。エムラッヒ軍は完全に翻弄され、テロの戦車は街を破壊しながら進み、民間人は逃げ惑う。

 「そんな、もうここまで来てたのか!」

 「軍人さん、大丈夫?」

 「あぁ、大丈夫!必ずシェルターまで連れてっから!」

 エムラッヒでは、緊急時に地下鉄がシェルターとなる。民間人の避難先になるのだ。エトウの家からは歩いて6分の距離に地下鉄の駅がある。しかし、その駅に行くためには、テロリストと軍の交戦地区を潜り抜けなくてはならない。

 「1人なら行けるが、少女を連れて危険なことは出来ないな、、、」

 エトウは方向を変えて、走って10分の距離にある別の駅を目指すことにした。少女が流れ弾に当たるかもしれない、しかも少女の前でテロリストに発砲しなくてはならないのだ。それを恐れたエトウは細い路地を駆け出した!

 「おい、撃ち殺せ!軍の奴だ!」

細道に潜んでいたテロリストは、軍服の奴は容赦なく射撃する!

 「なんだと!ここにもいるのか!こっちは小さな女の子を連れてんだぞ?」

 「ねぇ!」

 エトウは向きを変えて細路地を進み、運よく攻撃を避け切った。そして民家の窓をぶち破り、中に入って敵の目から逃げることにした。

 「ねぇ!」

 オルターちゃんと呼んだ少女を引き寄せ、窓の下でかがむ。テロリスト3人の足音と話声が近づき、そして遠ざかっていった。

 「ねぇ!」

 「なに!?どうしたの?」

 「オルターマンね、戦車が見たい!このまま走っていくと、戦車見れないまま、ひなんじょでしょ?やだ!戦車見たい!」

 「はぁぁ、あのね、オルターちゃん?戦車を一目見る前に、銃で撃たれちゃうかもしれないんだよ?」

 「見たい!軍人さんも見たいでしょ?」

 「そうね、確かに戦車は見たいかも」

 「いいでしょ?すこしでいいから!」

 大通りの戦闘区域を避けて路地に入ったが、ここでもテロリストに出会ったことを考えれば、銃で撃たれる可能性があるのは変わらない。逃げても絶対に安全というのはないのだ。それならば、危険を冒してもオルターちゃんの希望通り戦車を見せ、近いところにある避難所に駆け込むのがよい。避難所に入っても、テロリストに侵入されれば安全な場所でもなくなるのだ。それならば、自分の好きを優先してしまおう。自分がしたいことをして死ぬのと、自分がしたくないことをして死ぬのは、同じ死だと思えなかった。

 「よし、オルターちゃん立て!戦車を見せよう!」

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