クッキーと拳銃 / 1ヶ月1万字小説4月号
作家志望A
1万字通貫Ver.
曇り空の昼下がり、ティータイムの紅茶を淹れるために湯を沸かした。3枚のクッキーをテーブルに置き、ティーバッグとカップを準備して、ケトルを手にキッチンから戻ると、もうクッキーは無くなっていった。かわりに、1人の、6歳くらいの少女が椅子の上に立っていた。
「え?クッキー、、、誰?クッキー、、、」
特徴のないパーカーとズボンの少女は、祭りのお面をつけて顔が見えない。
ただ、モゴモゴと繰り返しお面が動くのみである。
「クッキーおいひい!もうないの?」
「あ、もうない、ちょうど切らしてしまったよ、申し訳ない。それより―――」
「軍人さん?戦うの?」
「え?いや、もう軍人じゃないんだ。でも、軍服しか持っていなくて―――」
「見て!このお面!なんだかわかる?」
「ん?あ、それh―――」
「オルターマン!オルターマンだよ!強いんだよ」
「え、うん強いね。それより、お嬢ちゃんはどこから来たのかな?」
「クッキー食べたいなァ、もうクッキーないの?」
青年期を戦争に費やしたエトウにとって、少女との会話は難しい。21歳のエトウと、6歳の少女。2人の会話は、停車駅の無い電車のように終わりが見えない。
「軍人さん!カッコいいね!強いんでしょう?」
「んー、いいや。弱かった、心がね」
「敗北者は誰だ!我が国は終戦から2年が経つ。連合国として参戦、5年間、食料や高い税金を費やして、ついに連合国は勝利を収めた!だが、我々は何を得た?租借地、賠償金、国際社会での立ち位置、、、そんなもの我々、国民にとって何の価値がある?食料は今日も戦時下の価格であり、日用品の一部は未だに配給制だ!2年も経って、これが戦勝国の在る姿というのか?我が国は勝った!だが我々、国民は敗北した!」
雑居ビルが立ちならぶ街の、細い道を抜けると小さな平屋が1つある。その中では、武装した数名が、リーダーらしき人物の演説を聞く。一方、公安偵察隊の2人は窓から、その演説を聞いていた。
「ケイさん、これ、、、」
「あぁ、これは情報と違う。テロは今日、実行される、、、」
「腐敗した政府に、裁きの時が来た!!我々は残念ながら『テロリスト』として悪名を残す。しかし、国民を苦しめる政府、悪に対する悪だ!悪に対する悪は神聖なのだ!奴らは意表を突かれ、何もできぬまま今日、国民は解放される!」
「密偵の情報なら、武器の到着は1ヶ月後だったじゃないですか?」
「今まさに!我々が国民を助け出す!」
「密偵が裏切った、、2重スパイだった、、ボスに連絡はしたが、公安の手では負い切れない。陸軍に―――」
「そう、もう遅いよ」
公安の2人の前に、2重スパイとなっていた、その密偵は現れた。
「キムラッッ!」
2発の銃弾は正確に放たれ、公安の2人が命を落とした。テロが始まる。
「クッキー!クッキーがないといやなの!」
「そういっても、もうクッキーは無いよ」
「じゃあかって!かって!」
「いやあ、、、困ったなァ。どこの子かも分からない、どうしよう。
わかった、今から買いに行こう!一緒に来るかい?」
「いく!」
子供との会話に慣れないエトウは、見ず知らずの子と長く家にいるよりも、とっとと交番に連れて行き、警察に受け渡すことにした。
「さあ、行こうか」
エトウが少女の手を取ろうとした瞬間、大きな揺れと轟音が響き渡った。激しい揺れは食器棚を倒して、床で割れた皿の破片が散らばる。その後、揺れと爆発音は6度あった。エトウは少女をかばっていたが、揺れが収まったことで立ち上がった。
「な、なに?」
エトウが窓の外を見ると、街のあちこちで煙が上がっている。国の議事堂がある場所は家から近くなので、大きく崩れて黒い煙がもくもくと舞い上がるのが見える。街のあちこちでアラート音がいくつも鳴り響く。
「テロだ、、、いや大丈夫。ここは安全だから」
エトウは怖がる少女にフォローを入れようとしたが、振り返って少女を見ると全く怯えていなかった。それどころか何かワクワクしているような顔だ。
「あれ、大丈夫?」
「うん!オルターマンがここに居るよ!任せなさい!」
「そんな呑気な。。。銃もって来るか」
遠くで銃弾が放たれる音がする。バリバリバリと、かつていた戦場に近い音を聞いた。エトウは机のから拳銃を出して、マガジンを取り付け、ホルスターに差す。そして、化粧台の横に立てかけてある小銃を持った。
「大丈夫、、、2年経った。もう平気、出来る、、、」
銃を手に取ると、戦時中を思い出す。肩にかける前に小銃を見つめる。だんだんと息が荒くなってくる。爆発音が鳴り、隣にいた人が撃ち殺され、轟音が耳をつんざく。そして爆発に巻き込まれて、、、
「あぁぁああぁぁああああ!」
頭を抱えてしゃがみこんだ。荒い呼吸が止まらない。少女を守りたい。でも立ち上がれない。恐怖で涙が流れる。自分はこんなことするべきではない、こんな時間はない、少女と避難しなければいけない、だというのに悔しい、、、
「軍人さん?どうしたの?」
「できない、もうむりだ、、、」
「できない?なにができないの、軍人さん?」
「軍人じゃない!軍人になれない、、、あぁぁ、、、」
7年前に、ポダートがテアに侵攻したことで東方戦争が始まった。エトウが14歳の頃だ。すぐ志願兵に応募したが、『入隊は16歳から』と断られてしまう。戦いが好きな、血の気の多い幼少期を過ごした彼女にとって、開戦は嬉しいものだった。なにより牧草しかない地元から抜け出したかったのだ。入隊して2年間の訓練を積み、18歳でついに、戦地に入った。
エトウが配属された分隊の隊長は、新兵を前にした初日に語った。
「撃たなければ撃たれる。殺さなければ殺される、当たり前の話だ。なにも戦争だからではない。生きる者は皆、この道理から逃れられない。」
エトウは自分の考え方と、まさにピッタリの考えと出会った。
「だからといって、味方でも誰でも撃ちまくる、そんなバカは要らねえ。俺が言いたいのは、自分を主体に考えろということだ。『自分が』先に撃たなければ撃たれる。『敵に』撃たれるから、その前に撃つとかいう、相手出発の考え方では、戦場どころか、この世界じゃ生きてけねえ。」
分隊は、最前線へと切り込んでいった。ポダートはテアに対して、断続的に大きな戦力を投入した。一方で、テアは防戦のみで、国内に入り込んだ敵を追い返すだけで攻め込まない。短期間で国内に押し込まれ、数か月かけて戦線を前に押し戻す。これを繰り返していた。エトウのいた分隊は、戦線を前に押し返す際、補給隊を護衛する任務だった。
エトウは銃の扱いに長けていた。頭もよかったので、戦いをよく理解していた。死角の多い山岳地帯の戦争だが、敵の奇襲を上手く避けた。分隊長も彼女の意見を聞き入れ、
スムーズな作戦遂行を行い、交戦時にも共闘することで2人は生き延びていた。
開戦から5年が経った頃、テアを中心にして組織された他の連合国にも、ポダートが攻撃を行うようになった。テアは、連合国の条約に基づき、海外の戦地にも派兵することになる。エトウのいた分隊は、西南にある小さな国、エムラッヒに向かった。エムラッヒ火山と製鉄所しかない国で、補給隊護衛の任務を続けていた。
「その野営地に行く。高低差が激しいこの国で、一番に平らな場所だ。敵地の偵察隊からは丸見え、いつ大きく攻め込まれてもおかしくない。だが、2か月前から決まってんだ。ここへの補給隊を護衛する」
「その野営地の補給隊を護衛するのは良いんです。でも、補給ルートまで決められるのが納得できない!このルートを使うと、標高が格段に下がる地域があります。この地帯は、お椀のような形になっている。これでは攻撃された時に回避行動をとれない」
「それは分かっている。だが、今回は補給ルートまで含めて指定されている。このルートで行く」
エトウが渋々に納得した作戦だった。そして、補給ルートを進む道で、奇襲を受けた。
砲弾を運ぶ車に集中砲火され、補給隊の大部分は爆発に巻き込まれた。そこで分隊長は戦死、エトウも顔に大きな火傷を負った。だが、それよりも心に大きな傷を負ったのだ。
「軍人さん?軍人さんがたたかわないなら、オルターマンが銃をぶっぱなしてやるよ!」
戦いの恐怖は、ある時ふと感じてからは、なかなか逃れられない。
「オルターマンのガンアクションを、とくとみよ!」
少女はエトウのホルスターを外して拳銃を抜き取った。
「オルターーー!!ショーーーットッッ!!」
少女は短い指でトリガーに手を伸ばすが、それでは扱えないほど大きく重い。
「できないや、、、」
頭をかかえて、うずくまる元軍人と、拳銃を持て余す少女の沈黙は、再び起こった外の爆発ですぐに終わった。
ドンッという大きな音と揺れが街全体を揺らす。
「あぁぁぁあああぁぁぁぁあああ!!もう無理だぁぁぁあ!!」
エトウにはとってはもう無理だった。何もできない、撃たれるだけだ、そう感じた。
「軍人さん?ワタシはまだ銃をうてない。でも軍人さんなら銃をうてるでしょ?」
「撃てない、、、」
「うてるよ!軍人さん、銃をうつのが好きでしょ?」
「銃、、、銃を撃つ、、、無理だ」
「軍人さんって戦うものでしょ?」
「軍人は、、、」
「軍人さん、銃をうてるでしょ?好きで、出来る、だから『する』でしょ?」
「えぇ、、、」
「軍人さん、オルターマンをまもってくれるでしょ?」
沈黙が流れた。外では近くで銃弾が放たれる音がする。
「そう、、、好きだったんだ。自分は、戦うのが好きなんだ。だから、出来るようになるために、銃を撃てるように、訓練したんだ、、、」
「オルターマンをまもってくれる?」
「あぁ、そう、だから、銃を撃つ!」
エトウは立ち上がった。大きな深呼吸をして、窓の外を睨み、床に捨てられた拳銃をホルスターに戻す。
「あぁ。オルターちゃんを守る!」
エトウは少女に笑顔をみせた。そして少女の手を握り、家の裏口から飛び出した!
「あぁぁ!腕が、、、腕がぁ!」
「衛生兵!何やってんだ、早く来い!」
「待て!こっちが先だろ!!こいつの血が止まらねぇんだよ!」
「退避!退避だぞ!早く戻れ!」
「撤退命令は出てないぞ、戻れ!逃げるな!」
「おい!そっちじゃねぇって!」
「民間人の避難が優先じゃないのか?」
「こいつはもう死んでんだろうが、次だよ」
「息があるだろ!?」
「退避!退避だ!」
「民間は放っておけ!テロ止めんのが先だろ?」
「包帯は?」
「タイヤを狙え!」
「避難誘導は?」
外は大混乱だった。エムラッヒ軍は完全に翻弄され、テロの戦車は街を破壊しながら進み、民間人は逃げ惑う。
「そんな、もうここまで来てたのか!」
「軍人さん、大丈夫?」
「あぁ、大丈夫!必ずシェルターまで連れてっから!」
エムラッヒでは、緊急時に地下鉄がシェルターとなる。民間人の避難先になるのだ。エトウの家からは歩いて6分の距離に地下鉄の駅がある。しかし、その駅に行くためには、テロリストと軍の交戦地区を潜り抜けなくてはならない。
「1人なら行けるが、少女を連れて危険なことは出来ないな、、、」
エトウは方向を変えて、走って10分の距離にある別の駅を目指すことにした。少女が流れ弾に当たるかもしれない、しかも少女の前でテロリストに発砲しなくてはならないのだ。それを恐れたエトウは細い路地を駆け出した!
「おい、撃ち殺せ!軍の奴だ!」
細道に潜んでいたテロリストは、軍服の奴は容赦なく射撃する!
「なんだと!ここにもいるのか!こっちは小さな女の子を連れてんだぞ?」
「ねぇ!」
エトウは向きを変えて細路地を進み、運よく攻撃を避け切った。そして民家の窓をぶち破り、中に入って敵の目から逃げることにした。
「ねぇ!」
オルターちゃんと呼んだ少女を引き寄せ、窓の下でかがむ。テロリスト3人の足音と話声が近づき、そして遠ざかっていった。
「ねぇ!」
「なに!?どうしたの?」
「オルターマンね、戦車が見たい!このまま走っていくと、戦車見れないまま、ひなんじょでしょ?やだ!戦車見たい!」
「はぁぁ、あのね、オルターちゃん?戦車を一目見る前に、銃で撃たれちゃうかもしれないんだよ?」
「見たい!軍人さんも見たいでしょ?」
「そうね、確かに戦車は見たいかも」
「いいでしょ?すこしでいいから!」
大通りの戦闘区域を避けて路地に入ったが、ここでもテロリストに出会ったことを考えれば、銃で撃たれる可能性があるのは変わらない。逃げても絶対に安全というのはないのだ。それならば、危険を冒してもオルターちゃんの希望通り戦車を見せ、近いところにある避難所に駆け込むのがよい。避難所に入っても、テロリストに侵入されれば安全な場所でもなくなるのだ。それならば、自分の好きを優先してしまおう。自分がしたいことをして死ぬのと、自分がしたくないことをして死ぬのは、同じ死だと思えなかった。
「よし、オルターちゃん立て!戦車を見せよう!」
エムラッヒの首相と秘書が話す。
「テロは今どんな状態だ?」
「初めのミサイルで、議事堂や庁舎が破壊され、現在も30人程度のテロリストが戦車などを使って街を破壊しています」
「民間人への被害は?」
「最初の爆発でいくらか巻き込まれましたが、早急に地下鉄への避難を始めたので、戦車の砲撃からは逃れられています」
「陸軍と警察は?」
「テロ開始後、3分以内に鎮圧を目指して活動を開始しましたが、15分経過した今でも、戦力と士気不足で全く対応できていません」
「そうかそうか、、、俺の、避難を促すVTRは流れてっか?」
「街のアラート音が大きいので被害地域では聞いている人はいませんが、他地域での放送では見ている人が多いでしょう」
「そうかそうか、、、」
「オルターちゃん!あれが戦車だ!」
「も、もっとゆっくりはしらないと見られない!」
「何言ってんだ!あぶねっ!!これ以上ゆっくりは走れない!」
「あ!見えた!かっっけぇぇぇ!」
エトウは少女を抱きかかえ、片手で拳銃を使いテロリストの攻撃を避けながら猛ダッシュで駅へ向かう。エトウの戦闘スキルは衰えていなかった。
「見えた?あと少しだ!飛ばすぞ?」
「あ~~!ゆ、揺れるぅぅぅぅぅ!!」
エトウと少女はついに、階段を駆け下り地下鉄へ着いた。避難所となっている地下鉄には、大勢の人々がいる。頭をかかえて絶望に瀕したり、抱きしめあって生きていることに感謝したり、惨憺としていて地獄絵図だ。スーツ、部屋着、パジャマ、下着姿の人もいる。ある日突然、日常は崩れさり、もう二度と、かつての平穏には戻れない。この苦しみを生き残った者が、新たな平穏を作る。それ以外の他に道はない。生き残らなくてはならないのだ。
「どう?オルターちゃん!パパとママは居る?」
「ううん、ここには居ないかなぁ?」
「え?どうしてわかるの?いっぱい人が居るよ、この中に居るって!」
「パパとママ、今はお家にいるもん」
「お家?でもテロが起こったから避難しているんじゃない?」
「お家、この辺じゃないもん。もっと草がいっぱいで、、、」
「冗談言っている場合じゃないよ、お家の人も心配しているよ?すみません、この子の親は知りませんか?」
エトウは隣の男性に声をかけた。
「え?どの子ですか?」
「この子です!あ、、、あれ?どこ行った?」
「え、はぐれちゃいました?探しましょうか?」
「ありがとうございます、お面をかぶった女の子です。もともと迷子の子だったんですけど、訳あって、、、」
エトウは探し始めた。人ごみの中をかき分けて、探した。
「オルターちゃん?どこー?」
「なにー?ここだよー!」
すぐ後ろにオルターちゃんがいた。
「あれ?オルターちゃん?」
「ずっと、すぐうしろにいたのに、どこにいくのかと思ったよ?」
「あ、えぇ?そうだったの?それより、いい加減にお面を取ろう?」
隣に居た軍服姿の奴に急に声をかけられ、知らない少女を探すのを手伝った男性が声をかける。
「居ましたか?お面の女の子?」
「はい。本当にありがとうございます!この子なんですが、顔に見覚えとかありませんか?」
エトウはそういって、オルターちゃんの顔に手を伸ばして、お面をはがした。そして、その顔を覗き込んで、、、
「え!?これ、私だ!」
「あの、、、」
「これ、私の小さい頃の顔そっくり!」
「あの、、、あなたは何が見えているんですか?僕にはどこに少女がいるのか分からないんですけど?」
「え?―――」
エトウは驚いた顔のまま止まっている。だが状況は、夢から覚める時のように事実へ戻される
「軍人さん!すっごくたのしかった!パパとママにも伝えるね!軍人さん、戦車をみるおねがい、かなえてくれてありがとう!もうひとつおねがい、この街の人を守ってあげてね!軍人さん!」
エトウは戦地から帰ったときから、戦後のPTSDを患い、時には幻覚が見える時があった。人間の防衛本能が精神と肉体に影響を及ぼした結果である。
「私の幼い頃だったのか、、、。ありがとう、私も戦車見れて楽しかったよ」
オルターちゃんは、次の瞬きで消えるような気がした。だから、目を閉じないようにする。自分自身の好きな生き方を思い出してくれた、少女に感謝したかった。あるいは、この状態に、この状態を生み出した自分自身の幻覚に感謝したかった。自然と涙があふれ、目を閉じて涙が零れると、少女は消えていた。
「本当に、ありがとう、、、この街の人を守るよ、、、」
「誰かと話しているんですか?」
「あぁ、自分自身と話していたんだ。さて、と」
エトウは小銃を肩から降ろして、じっくりと見つめて握りしめ、先に駆け下りた階段へ向かった。逃げる人々を避けて、階段を駆け上がり、銃を構えて飛び出す。にやける自分を誇りに感じてテロへ立ち向かうのであった。
「ツェビィ総合商社は、ルゼナ運輸の株を完全に手放すそうです。表向きには、銀行事業の方を本格化させていくのだとか」
「確かにな、FOEツェビィ銀行は安定してきた。だが、このタイミングでルゼナ運輸の株を売却するのは、この国にとって、あまりよくない流れだな。我が国の運輸業はルゼナ一強ではないか?」
「広告業に手を出すとか。実はその資金繰りかもしれません」
「広告業?EJ社か?」
「EJ社です」
「そうか、、、。火山と、鉄鉱石しかない我が国で、ツェビィの働きは大きい。確かに、文化産業に力を入れて、数少ない観光産業を強化するためにも、大きな資本を広告会社につぎ込むのは良い。だが、ルゼナ運輸を手放さなくてはならないのかね?」
コンコンとドアが叩かれ、一人の男が入ってくる。
「失礼します。先ほどから行われているテロの話ですが、、、」
「その話はもうよい。テロが起こることは知っていた、だからテロの日に合わせてポダートとの内密な交渉をしに来た。知っているだろう?」
「テロが想定よりも速いスピードで、、、」
「それがどうした?『テロのスピードが想定より速く、国民の被害が甚大です』か?知ったこっちゃない。2年も続いた悪しき慣習を街ごと消し飛ばすためだ。犠牲は仕方ないだろう」
「テロが、鎮圧されています」
「なぁにィ?どうしてそうなった!?」
「軍服を着た女性が、テロを1人で鎮圧しています」
「はぁ?軍はどうなっている?」
「陸軍と警察は想定通りの戦力で、テロに全く影響を与えていませんが、、、」
「それもそれで残念だが、それよりも、その軍服の女はなんだ?」
「分かりません、、、今、防犯カメラの画像で調査中です」
「うーん、テロリスト達の装備は、こちらで良いものを提供したはずだが?」
「テロリストは25人が負傷、全体の8割です。」
「はぇぇー!もう終わってしまうではないか!それでは困る。街が壊されて作り変えることで新たな街になるのだ!新たな都市と国ができるのだ!」
銃弾の数が限られる中でエトウは、正確な射撃を繰り返した。テロを止めて街の人々を守る。エトウは、テロリストを殺害しないように、遠距離にもかかわらず致命傷を避けて撃ち込んだ。
「エトウ!」
電信柱を撃つことで、戦車の行く手を阻む。電信柱を破壊して戦車は進むが、高電圧が繰り返し流れることで、戦車内の電気系統が徐々に摩耗していく。
「エトウ!」
走りながら、たった1人でテロリストとの戦闘を繰り返すエトウは、ふと自分の名が呼ばれたのに気付いた。
「だれ!?」
「こっちだ!エトウ!」
路地の隙間から1人の男がエトウを呼ぶ。
「シロタ?どうしてここに居るの?」
エトウは路地に入り、かつての戦友との再会を喜んだ。
「エトウ!なんて久しぶりだ!あぁ、先に紹介しよう、こちらがキムラだ」
「あ、どうも、エトウです。というか、なんでこの戦いの中で冷静なの?2人は」
「補給地で爆発に巻き込まれた時、ボス不在のなか、エトウが指示を出してくれたから救助隊を呼べたんだ!病院でも感謝したけど、エトウは俺の命の恩人だよ!」
「とても心強い方なんですね、エトウさんは。」
「ほんとうにその通りだ!それで、エトウ、君の質問に答えよう」
シロタは少し顔をしかめて、理解をしてくれるかどうか不安になりながら答えた。
「このテロの指導者は俺だ。この国を壊している」
「はぁー!?何いってんだ?」
「分かる。平和の為に戦った俺が、こんなことをしている。分かっている、俺は悪だ。だが、覚悟の上だ。このクソみてぇな政治をぶっ壊すためには、悪を名乗る『何か』が必要だ。正義なんて簡単には現れてくれない!だから俺は、ひとまず悪にでも何でもなりきって正義がこの世界を素晴らしい世界にするためのスイッチになるんだ。死んでも構わない」
「なに言ってんだ、シロタ?本当に?」
「俺らが補給できなかった野営地、シルソーでは連合国が敗北した。シルソーの大敗。これはな、俺らが補給に失敗したからじゃない。シルソーの大敗は、連合国とポダートの政府や利害が一致する企業や、裏の組織みてぇな奴らが結託して、何か月も前から仕組まれていたんだ。ポダートは東方戦争で敗北するが、シルソーでの大勝を考慮して、エムラッヒの執政権を公的に獲得する。その代わり、秘密裏に半年以内の終戦が決定した。もちろん、その中の約束には、シルソーへの補給隊を攻撃することも含まれていた」
「が、え、はぁ?」
「まぁ、そうなるだろう。驚きで何も考えられない。そんで、あの苦しみや、大事な人を失ったのは、いったい誰のせいなのか考える。そうすると、そう、湧いてくんだよ、怒りが。なぁ?誰のせいだ?」
「クソみてぇな、世界を裏で操ろうとしている奴らのせいだ、、、」
「その銃口を向ける相手は、ひとまず俺たちじゃない。そうだろ?」
「だが、民間人の犠牲が、出るのは、どうなんだ?」
「そう、だからよ、俺たちは天国に行くつもりなんてねぇんだ。地獄行きの電車に乗り込むときに、その隣に、この世界を裏で操って、誰かの幸せを奪おうとしてる奴が居てくれるだけでいいんだ」
「そんな、、、そう、か、、、」
街の破壊は、2人の静かな会話と裏腹に、轟音と爆発と共に進んでいく。そして、2人の会話は、5分も経たないうちに終わり、もう2度と会話をすることはない。
「だから、でも、シロタはそれで良いのか?」
「良いかどうかは、誰の基準だ?最初の攻撃で殺害された人の家族は、俺たちテロリストを心底恨むだろう。だが、これから生まれる子たちはどうだ?少なくとも、生まれる前に起こった『秘密裏の制約』によって苦しむことはない。テロに感謝することはないが、テロを恨むことはないだろう。教科書には正義しか載らないわけではないんだ」
「そう、その通りだよ」
口を閉ざして2人の会話を聞いていたキムラは、腕時計の針を確認すると、胸から拳銃を取り出した。そして2発の銃弾を正確に放ったはずだったが、エトウは身を縮めて回避、ホルスターから素早く拳銃を取り、キムラの額に打ち込んだ。エトウから遠く離れて侵攻を続けていた戦車やテロリストたちは、国で一番の大きな図書館の横を通り過ぎる際に、埋められていた大量の地雷を踏み鳴らした。そして、業火に焼かれながら、建物と共に姿を消した。テロが終わる。
エムラッヒの首相と秘書が話す。
「テロは今どんな状態だ?」
「最初の砲撃から、丁度1時間が経過したので、テロリスト全員を無効化して、街の破壊を完了しました。特別作戦は完了です」
「ふっ、そうかそうか」
「それと、テロ主導者のシロタから、今回の武器提供について、礼品が届きました」
「礼品?というか、俺がここに居るのを何で知っている?」
「それは、やはり!ルゼナ運輸だからなせる業でしょう!正確に届けるのがお仕事ですからね」
首相はニヤケて言った。
「そうかそうか」
大きなゴルフクラブバックくらいの包みを開けると、ポダートの迎賓館を吹き飛ばすほどの爆発が起こり、新たな時代の幕開けとなった。
エトウは、屋根のない家の椅子に座り、自分の好きなクッキーを頬張った。
好き、だから食べるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます