小さい頃に俺がいじめから助けた内気な少女は再会したらヤンデレになってました

   

第1話

新しい学校やクラスに慣れ始めてきた高校一年生の五月下旬、俺、北田浩樹はいつも通り、一人で机に突っ伏しながらスマホを見ていた。


別にハブられていたり、避けられているわけではない。俺にはあまり積極性が無かった。故に自分から話しかけられる友達がいない。


小さい頃には自分から周りにいる人に話しかけて友達がたくさんいたものだが、今となってはただの過去の栄光である。


今日も俺はいつものように意味もなくただSNSを携帯で見ていたら、教室の前のドアから担任の教師が出てきて静かにするように促しながら全員に聞こえるような声量で淡々と喋った。


「みんな、今日は転校生が来てます。あまり騒がないでくださいねー。」


その発言にクラスの連中が一斉に喋り出す。


「どんな子何だろう?」

「女の子かな?可愛い子が良いな。」

「フィクションの読みすぎだろ。」

「えー。転校生ってどんな人だろう?」


大半が男子による言葉だったが今なお廊下にいる転校生には聞こえているだろう。なかなか入りづらい空気を出す奴らである。


まあ、俺には関係の無いことだろう。俺はそのまま気にせず携帯を見ていた。


しかし、転校生がドアから出てきたことで皆が息を呑む音が聞こえる。一体、何だと俺も前を見ると、俺も転校生を見て固まることになった。


綺麗な茶髪を背中まで伸ばし、背は女子の平均よりも少しだけ低い方、そして顔は目鼻立ちがはっきりとしているにも関わらず、どこか幼い印象を覚える美少女。


まさにフィクションの中の人物のようにその女の子は現れた。


「こんにちは、私は雁夜南那かりやななと言います。これから一年間、どうぞよろしくお願いします。」


少女は堂々とした様子で自己紹介をした。その様子にクラスの過半数が惚けている。一瞬、静寂が教室を支配した後、そんな雰囲気をぶち壊すように皆が騒ぎ出した。


「「おおー!よろしく!」」

「転校生で美少女が来た…?嘘だろ…こんな展開って現実であるのかよ。」

「めっちゃ可愛い…」


クラスの男子共がやかましくガッツポーズをしながら舞い上がっている。


それにしても…『ナナ』か。俺の脳裏に浮かんだのは小さい頃に出会った内気な女の子だった。


『俺は浩樹!友達とかからはヒロって呼ばれてる。そっちの名前は?』

『わ、私…?私は…な、ナナ。よろしくねヒロ君。』


俺が転校することで会えなくなってしまった小さい頃ずっと一緒に遊んでいた女の子の記憶が蘇ってきた。しかし、彼女とは何も関係のないことだろう、流石に考えすぎだ。


「じゃあ、雁夜さんは……あ、北田君の隣が空いてるね。じゃあそこで大丈夫?」


「はい!大丈夫ですよ。」


そう言って雁夜さんは俺の隣の席まで歩いてきた。俺の隣は誰もいないから、今まで一人で楽だったが、急に転校生が隣の席に座ったことで少し気が重くなった。しかもこの容姿ならすぐにクラスの人気者だろう。俺のただでさえ狭い肩身がより狭くなることを覚悟したほうが良さそうだ。


「よろしくね。…ええと、北田君?」


雁夜さんは席に座ってすぐに俺に話しかけてきた。苗字は聞いたばかりなのに自信が無いのか確認するように聞いてきた。さっきさんざん隣の席になることが嫌っぽいことを思っていたが、改めて考えると隣の席に座れて良かったと思うほどに彼女は眩しかった。


「北田浩樹です。よろしく。」


俺は淡白に名前だけ言った。今はとりあえず名前だけ言っておけばいいだろうと思っていたのだが、彼女は俺の名前を聞いた直後、放心したように固まってしまった。


「ええと、雁夜さん?」


「浩樹…もしかして……ヒロ君?」


雁夜さんは目を見開きながらそう言った。そして俺も同時に驚愕した。俺のことをヒロ君と呼ぶ同世代の人間はたった一人しかいない。


「もしかして……ナナ?」


俺がそう言うと、彼女は目から一筋の涙を流しながら俺のことを見つめていたのだった。





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ハジメマシテ。




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