第42話 聖女は神殿で祈る
「はい、神殿に行こうと思います。もし神様に会えるなら、神殿の可能性が高いと思いますし…」
「神に会う?」
「いろいろ聞きたいことがあるんです。ミリアンナ妃にも同行していただけるか、聞いておきます」
きっとミリアンナ様が聖女になったのも、あのおじいさんが関わっていそうだ。10年前、黒魔術が発動して時間が無かったため、ギルフォード殿下に関することを詳しく聞けていなかった。寿命がどれほど残っているのか、あの時の判断が正しかったのか、済んでしまったことながらずっと気になっていたのだ。
「そうか、ではそちらの方はこちらで日程を指定することにするよ。ミリアンナ妃もあと4日で帰国すると言っていたから」
「はい、お任せいたします。ミリアンナ様には私からお願いしておきます。神殿も隣国の王太子妃には干渉できないと思いますが、念を押しておいてくださいますか?」
「ああ、そうしよう。……前から思っていたが、クリスは年齢より随分しっかりしているように思う。見た目は愛らしく幼いのに、たまに自分と同じ歳なんじゃないかと思うよ」
確かに前世27歳だった私は、前世を思い出した5歳から、その記憶のせいでどこかで自分は子供ではない気がしていた。思考も大人の方へ引っ張られてしまうのは仕方ないだろう。もしかしてミリアンナ様もそうなのだろうか?
「う~ん、私はちゃんと自覚したのが、学園入学の時だったから、子供時代はちゃんと子供だったわよ。魔法学園時代は、浮かれ過ぎて黒歴史ですけどね…ヒロインだと思い込んで、攻略しようと躍起になって、かなりヤバい娘だったから……変に前世の記憶があって、恋愛観が今の世界に合ってなかったから余計にヤバかったわ」
確かに結婚まで純潔が当たり前の貴族令嬢が、ベタベタとスキンシップするのはこの国ではかなりヤバい娘だと思う。実際学園時代のミリアンナ様は、皆に批判され遠巻きにされていた。
「そうでしたね」
「もう、それは忘れて!本当に黒歴史なんだから。今は幸せよ。でも、オリバー様には言えないわ。言ったらギルフォード殿下を消去しに行きそうだもの……」
そういえばオリバー殿下も【ヤンデレ、溺愛】だった。確かに嫉妬に狂いそうだ。神殿の奥へ向かいつつ、私とミリアンナ様はコソコソと話していた。聖女二人だけしかいないため、気軽に前世の話も出来る。一応案内の神官がいるが、しっかり防音魔法もしているので聞こえないだろう。
「それにしても、アルバート殿下がよくお許しになったわね。心配して監禁していたんでしょ?」
「神殿の周りに、警護の兵士が沢山包囲していますし、神官の方々もこの状況で、変なことは出来ないと思いますよ。これでも、かなり減らしてもらったんですが、神殿を包囲できるくらいの数は来ていましたね…」
「減らしてこれって、本当に過保護だわ…まあ、大人になった殿下からしたら、クリスは子供だものね、仕方ないかもね」
「出来れば普通に接して欲しいのですが、これからですね」
「聖女様、こちらの奥が祈祷の間でございます。どうぞお二人だけでお進みください。是非この国の平穏をお祈りいただけますようにお願い申し上げます」
案内の神官が、神殿の奥を手で示した。荘厳な石造りの建物が、奥に見えた。神聖な場所には、限られた人間しか入ることが出来ないらしい。私とミリアンナ様は、ゆっくりとその建物の中へ入った。
神聖な空気に包まれた本殿の正面に一柱の石像が鎮座していた。
「おじいちゃん…」
その石像は、夢であった老人の姿にそっくりだった。
「ほうほう、呼んだかのう?」
「へ??」
二人で、声のする方を見て固まった。石造の頭の上に、同じ顔のおじいちゃんが座っていた。
「姿は石像を彫った者の主観に影響されるんじゃ。もっとイケメンにしてくれていたら、わしは今頃モテモテ男じゃったのにのう、残念じゃ」
神様は信仰に影響されるのか、石像を神様として信仰した皆さんのイメージで、姿は石像の様に見えるらしい。それならば、イケメンに彫ってもらった方が嬉しいだろう。何故つるつる頭のお爺さんなのか……
「神様、あの、聞きたいことがあってここへ来ました。教えてくださいますか?」
私はギルフォード殿下のことを聞きたかった。10年間眠っていたため、どうなったのかずっと気になっていたのだ。
「神様ではなく、おじいちゃんでええぞ。孫みたいで嬉しいしのう。あの男のことを聞きたいのかのう?」
「はい、対価を命にしたまま術は完成してしまいましたから、殿下があと何年生きていられるのか教えて欲しいのです」
「分かった、教えよう。それと、そちらの娘は、2人目の聖女じゃな」
「はい、私も何故私が聖女になったのか知りたいです。突然でしたし、心当たりもなくて…」
「分かったのじゃ。まず、あの男じゃが、あの当時19歳、残りの人生が50年として考えると10年経ったから、差し引いてもあと35年は生きる予定じゃな。事故で死ぬ、流行り病で死ぬなど不測の事態は考慮してないのじゃが。つまり100年を10分の1にしたから、それに見合う寿命が縮んだのじゃな」
「そうですか、50年の10分の1の5年分ですね。それなら安心です」
「相変わらず、お人好しじゃて。それと、そちらの娘じゃな。聖女になる前に、木から落ちたことがあるじゃろう?」
ミリアンナ様は、思考を巡らせ思い当たる事があったようだ。
「はい、ありました。子猫を助けようと木に登り、降りている途中で木がつるっと滑ったので、そのまま落ちました」
どこかで聞いた様な話だ。木がつるっと?
「偶然通りかかったオリバー様に助けていただき、怪我を負った彼を癒そうとした時に、突然聖女の光が出てびっくりしましたが、まさか…」
「ほうほう、それじゃ。つるっと滑ったのはわしのせいじゃ。丁度木の間を通った時に、わしの頭を掴んで滑ったのじゃ。死にはせんかったが、助けられてなければ打ちどころが悪くて死んでおった。それでお詫びに聖女にしたのじゃ」
ああ、やっぱり……。ミリアンナ様は、ポカンとしていた。神様が通る、それは死を伴いやすく危険なことのようだ。
「でも、その度に聖女にしていたら、この世界は聖女で溢れるのでは?」
「それはないのじゃ。どうもわしが引き寄せられるのは、この世の魂ではない娘のようでのう」
「そうですか、では今は私とミリアンナ様だけなのですね?」
「そうじゃよ。わしが通るのは滅多にないことじゃ。さらにそれで事故が起こる確率はさらに低いんじゃよ」
その滅多にないことで前世の私は死んで、ミリアンナ様は今世で木から落ちて死にかけたらしい。
「教えていただきありがとうございます。では、ここに来た目的を果たします。この国と隣国の平穏を祈らせていただきます。どうぞ、平和な世界で皆が幸せに暮らせますように」
私とミリアンナ様は跪き神様に祈りを捧げた。どうぞ、神様が通り事故が起こることがありませんように。
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