第23話 アルバート様の変化についていけません
翌日、約束通りランチをするためアルバート様と待ち合わせをして、学園の食堂へやって来た。食堂に上級貴族用の個室があるらしく、今日は皆の視線も気になったのでそちらを利用させてもらうことにした。
朝登校した時から、皆の視線が私を追うのが分かった。舞踏会に参加した令嬢子息は多く、当然あの時の現場を見られてしまっていた。聖女の癒し(それも神様にお願いした神様級の癒し)を見た生徒が、私のことが気にならないわけがない。私が眠っている間に、噂も広がり尾ひれも背びれもついて、もう収拾がつかないことになっていた。
「大丈夫かい?表立って君に接触する者はいないと思うけど、何かあったらすぐに言って欲しい」
頭上にキラキラと【誠実、腹黒、ヤンデレ、冷酷】が輝くアルバート様が、申し訳なさそうにそう言ってくれたが、頭上の文字が気になってそれどころではない。誠実と冷酷は同じカテゴリーに入っていいのか、腹黒でヤンデレってどういうことなのか、そもそもその4つが混在しているアルバート様の心境の変化に戸惑ってどうしていいか分からない。
「クリス?大丈夫かい、まだ体調が悪いなら、早退してもいいよ」
「いえ、そうではなくて、アルバート様こそ大丈夫ですか?」
「大丈夫だよ。心配してくれてありがとう」
「いえ、私こそありがとうございます。アルバート様が私を守ってくれるから、聖女であるということも大事にならずに済んでいるのだと思います」
「それは婚約者として当然のことだ。クリスは何も気にしなくていい」
婚約者として当然、嬉しい言葉のはずなのに心がきしりと音を立てて痛んだ。婚約者でなくなれば、こうしてアルバート様に守ってもらうことも、顔を合わせて食事をすることも無くなる。それを悲しいと思ってしまう自分の心をどうしたらいいか分からなかった。それでも…
「あの、これからは聖女であるということを隠す必要がなくなったので、何か役に立てることがしたいと思っています。アルバート様が力を入れていた孤児院や救護院にも行って、癒しを使ってはいけませんか?」
アルバート様から自立するためにも、私は自分で何かしないと…
「どうして急に?」
「私は2年後に隣国に留学します。それまでに自分で出来る事を増やしておきたくて。今まで体調が悪くなることが多くて、貴族の子女がする奉仕活動には参加できていませんでしたが、聖女の力を使って奉仕活動をすることなら、今の私にも出来ると思って…」
「…隣国か…聖女であると分かってしまっては、クリスが隣国に行くのは難しくなると思うが…」
「そうかもしれませんが、今の私には隣国に行くことだけが心の支えで、その事を諦めてしまったら、どうしていいか分からなくなってしまうので、最後まで留学できるように頑張りたいです」
「諦めてはくれないのか…」
「え…?」
「いや、分かった、それならば護衛をつけて私が行っている孤児院と救護院に行ってきたらいい…」
「ありがとうございます。アルバート様。私頑張りますね」
自分で何かをすることがなかった私は、新しいことに挑戦する高揚感で、目も前のアルバート様の様子をちゃんと見ることが出来ていなかった。
この時、少しでもアルバート様の気持ちに気づいていたら、心がすれ違っていなかったと思う。でも、気づいた時には、もう遅かった。
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