第14話 sideアルバートの思惑(甘い罠)
優しく温かい魔力に癒されながら、私は目の前のクリスを見つめる。
王宮で彼女を抱きしめた次の日から、クリスは私を避け始めた。初めは偶然タイミングが合わないから、たまたま会えないのだと思っていたが、3日目になっても一向に会う機会が訪れず、これは偶然じゃないと気づいた時には、ショックのあまり王宮の廊下とカーテンを凍らせてしまっていた。
抱きしめた行為をクリスが嫌がって、それで避けられていると思った。自分から彼女に接触する勇気が出ず、夜もあまり眠れなくなった。眠るため騎士団に混じって不安を払拭するように体を動かしたが、結果はあまり変わらなかった。食事も喉を通らず、無理したせいか昼頃に酷い眩暈を起こして中庭で蹲ってしまった。
何故かそこに、知っていたかのようにダントン男爵令嬢が現れ癒そうかと言われた時は、正直気持ち悪さで鳥肌が立った。いつも兄上にしな垂れかかる彼女のことが、思いのほか苦手だったようだ。
「アルバート様」
クリスの声が聞こえた時は、とうとう現実逃避で幻聴が聞こえたのかと思った。
彼女は今にも泣きそうな顔でそこに立っていた。私は慌てて男爵令嬢を追い払った。一瞬でも誤解されるような行為はしていたくなかった。
癒してもらいながら、クリスが避けていた事情を話してくれたが、結局自分の事情で避けたということ以外語らず、はっきりした理由は教えてもらえなかった。それでも、今後は避けないと約束してくれたことで、苦しかった胸は幾分穏やかになった。
キラキラと輝きながら、私を癒してくれるクリスは本当に綺麗だった。
クリスに避けられて、はっきりと自分の気持ちを自覚してしまった。きっと彼女がこのまま逃げていても、自分は彼女を逃がすことはなかっただろう。逃げ道を塞ぎ、確実に彼女を手に入れていた。キャサリンが私のことを怖いと言った意味が分かった。
「私こそごめんね。クリス」
目を瞑って癒しの魔法をかけていたクリスが、目を開けてこちらを見た。私の言った意味が分からず、キョトンとした顔でこちらを見ている。
可愛いくて、綺麗で優しくて…そんな彼女を私は絶対に逃がせないだろう。酷い男に捕まったと気づかせないよう細心の注意をはらって、逃げられないように素敵な見えない檻に囲い込もう。
そう思ったらスッと心が軽くなった。王太子になる気はないかと父上に言われていたが、必要ならそれを受けてもいい。確実にクリスと私の邪魔をさせないためにも王太子という立場は有効だし、悪いが兄上には早々に退場してもらった方がいいかもしれない。
「終わりましたよ。気分はどうですか?」
「ああ、ありがとうクリス。最高に気分がいいよ」
「最高ですか?それは良かったです」
安心したように微笑むクリスに、私も微笑んだ。
「ねえ、クリス。今度街に遊びに行かないか?ずっと会えなくて、不安になってしまったんだ」
わざと大袈裟に、傷ついたふりをして言った。
「街にですか。そうですね、ではお父様に許可をもらえたら、ぜひ行きたいです」
「わかった、では許可が下りたら一緒に行こう」
確か今日、スコット侯爵は議会で王宮に来ているはずだ。素早く頭で計画を立て、王宮でスコット侯爵に会えるよう算段をする。
今回のことで分かったことがある。自分はそんなに気が長い方ではないと。気長に彼女が落ちてくるように待つなんて、それは私らしくないだろう。
妹のキャサリンが聞いたら、また怖いと言われるだろうなと思ったが、事実そうだから仕方ないだろう。自分でも面倒な男だと思う。そんな男に惚れられたクリスは、本当に迷惑だろうなとも思う。
ごめんね、クリス。君は隣国に留学しようと本気で思っていると思うけど、それは無理かもしれない。君を私の側から2年も離すなんて耐えられないし、君を隣国の男性がいる元に送り、君の言う「運命の相手」なんて見つけられたら、きっとそいつを消滅させてしまう。隣国との和平を保つためにも君は私の側にいるべきだよね。
「え…?!」
ニコニコと微笑んでクリスを見ていたら、彼女がビックリしたように私の頭上を見た。
「どうかしたのかい?クリス」
「え、っと、いえ、何でもないです。大丈夫、みたいです」
そっと私の腕に手を乗せて、上目遣いで私を見るクリスは心なしか青ざめているが、ホッとしたように微笑んだ。
「それならいいけど、もし癒しの魔法で疲れたのなら…」
「いえ、午後から光魔法の授業もあるので、あ、お昼休みが終わってしまいますね。私は教室に戻ります。時間が無いので、アルバート様も戻ってください」
「そうか、送れないな。仕方ないが気をつけて」
「あ、はい、では」
脱兎のごとく、私の可愛いクリスは小走りで教室に行ってしまった。
可愛い私のクリスティーヌ、君を振り向かせるにはどうしたらいいかな?
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