第7話 魔法学園に通いましょう
出来るだけアルバート様に会わずに王宮に通い、これ以上心がアルバート様に傾くのを阻止しながら3年。アルバート様が13歳になり魔法学園に通うようになると、月一回あったお茶会も無くなった。それでも、手紙や贈り物をマメに贈って来てくれるので、私たちの関係は良好だと周囲は疑うこともなかった。
そして私も13歳になり魔法学園に通う許可が下りた。当初お父様は、体が弱いのだから魔法学園ではなく家庭教師で十分だと反対していた。通えることになったのは、一緒に父を説得してくれたアレン兄様とミランダ姉様のお陰だ。隣国に留学するには、まずは自国の魔法学園で優秀な成績を残し、教授2名以上の推薦状が必要だ。
つまり魔法学園に通えなければ、留学自体が消えてしまっていたのだ。過保護の父は今も健在。出来るだけ倒れることなく、優秀な成績を修めたいと思う。
「お嬢様、学園に行く時間ですよ。馬車は準備できています」
侍女のベスが扉の向こうから呼び掛けている。23歳になったベスは、家令見習のジェームズと結婚したが、子供ができるまでは侍女として勤めてくれるそうだ。私と一緒に王子妃教育を習っていたベスは、縁談が多く舞い込み引く手あまただったらしいが、彼女が選んだのは昔から気心が知れた幼馴染のジェームズだった。
「自分を大切に思ってくれる相手が一番なんですよ」
結婚当日に、本当にジェームズでいいのかと聞く私に、ベスは幸せそうにそう言った。きっとこれが正解なんだろうと、何となく私は理解した。まだ、私には男を見る目がないのだろう。ちなみにジェームズの頭上には【一途、子煩悩、少し頑固】という文字が輝いていた。
「では、行ってきます」
兄と姉と一緒に馬車に乗り込む。とくに入学式的なものはないらしく、両親もここで心配そうに見送ってくれていた。私は二人を安心させるように微笑んで手を振った。
最近では男性に対しての拒否反応もかなり落ち着いてきた。人間とは慣れる生き物、少しずつではあるが、妻を二人持つ男性でも、同じように大切にしていれば軽い吐き気程度で済むようになっていた。
相変わらずギルフォード殿下には、寒気吐き気が酷いのだが、それは彼の頭上に輝く文字が悪い意味でパワーアップしているからだろう。
「クリスティーヌ、大丈夫かい?」
「はい、きっと何とかなります。最近は酷い吐き気も頭痛もありませんし…」
「そう、クリスティーヌと同じクラスには王女殿下もいらっしゃるそうだし、お友達が一緒なら心強いわよね」
「はい、今から楽しみです」
王宮に通っている時に、王子妃教育に王女殿下であるキャサリン様が加わるようになった。どうせ受けるのだから、一緒に受ければいいじゃない。そう言っていたような気がする。
一見美少女、しかし性格は男前で、一緒に過ごす間にそんなキャサリン様が好きになって親友となった。そう、アルバート様が嫉妬するぐらいにすっかり仲良しだ。
「どうせ耳に入ることだから言っておくのだが、第一王子殿下は最近お気に入りの娘がいて、色々な噂が学園でも囁かれている。クリスティーヌとは直接関係ないとは思うが、ジョセフィーヌ様とも仲が良かっただろう?」
「そうですね。最近お手紙にそのようなことが書いてありましたが、気にしなくて大丈夫だと書いていました」
「そうか、学生同士の範疇を越える行動は慎むようにと教授も注意はしているようなのだが、兎に角クリスティーヌは関わらないように注意しておいた方がいいと思う」
「はい、気をつけますね。アレン兄様はアルバート様の側近候補でしたよね?ギルフォード殿下と接点があるのですか?」
「ああ、同じ学年なので少なからず接点はある。うわさの娘はミランダと同学年だよね?」
「ええ、そうですわ。あまり印象の方は良くないので、こちらからは接触しないように気をつけていますわ」
「あの、念のためその方のお名前を聞いておいていいですか。知らずに接触してしまうと困るので」
「ええ、そうね。ダントン男爵家のミリアンナ様よ。私と同じ、つまりアルバート殿下とも同じ学年よ」
「なかなかに目立つ容姿だよ。ピンク色の髪に紫の瞳。確かに一見庇護欲をそそる感じではあるけどね。僕は遠慮するな」
なるほど、昔日本でやっていた乙女ゲームみたいな設定なのね…ピンクの髪色、これで彼女が聖女とかだったら、私は乙女ゲームに転生したことを疑った方がいいかもしれない。
「おっと、いきなり遭遇だね」
馬車から降りて校門をくぐったところで、ギルフォード殿下にしな垂れかかっているピンク頭が目に入る。このまま黙って隣を通り過ぎたいが、そうはいかないだろう…
兄たちとゆっくりと歩いていくと、ギルフォード殿下と目が合う。殿下の頭上には【女好き、浮気男、モラハラ、パワハラ、自尊心が強い】という文字がキラキラと輝いている。また増えたようだ…18歳になったギルフォード殿下は、黙っていれば美青年なのだ。文字さえ見えなければ、私も見惚れていただろう。残念なイケメンというのが、最近の私の評価だ。
「久しいな、クリスティーヌ。兄妹揃って登校か。仲が良くていいことだな」
「お久しぶりです。今日からこの学園に通います。よろしくお願いいたします」
「そうか、クリスティーヌも13歳か。綺麗になったな」
そう言いながら、ギルフォード殿下が私に手を伸ばした。兄と姉は流石に殿下の手を阻むことは不可能だ。気持ち悪さを覚悟して、ぎゅっと体に力が入る。
「兄上、私の婚約者に触れないでいただきたいと、何度言えばわかっていただけるのですか?」
私をサッと背に庇い、アルバート様が少し不機嫌そうにそう言った。
「ふん、減るものでもないのに、お前は相変わらず婚約者に過保護だな」
いや、確実に私の精神が減ります。心の中でそう言ったが、残念ながら面と向かっては言えない。
「まあ、アルバート殿下の婚約者様ですの?」
甘ったるく可愛い声が、ギルフォード殿下の側から響く。殿下は腕を女性の肩に回し抱き寄せた。
「……」
その場にいた皆がハッと固まる。さすがに婚約者のいる男性がする行動ではない。勿論妻を2人娶ることのできる貴族男性なら、可能ではある…でも王族は例外だ。このままでは廃嫡されるのではないだろうか??
「まあいい、行くぞミリアンナ」
「兄上、このままではいけません。わかっておられますか?」
「うるさいぞ。別にミリアンナはそういうのではない。ただの友人だ、問題はないだろう?」
ギルフォード殿下は不機嫌を隠さずに、そのまま校舎へ向かって行った。
「兄上がすまない。大丈夫か、クリス」
「はい、庇っていただいてありがとうございます。お陰で、登校初日から救護室に行かずに済みました」
「そうか。間に合ってよかった」
15歳になったアルバート様は、かなり身長が伸び、最近は騎士団に混じって訓練にも参加しているらしく、男らしい色気まで備えだした…周りの女生徒からも熱い視線を感じる。
優しい微笑みを浮かべてこちらを覗き込まれれば、ギルフォード殿下とは違う意味で心臓がトクンと跳ねた。
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