第3話 第一王子はご遠慮いたします
王宮側の入り口から3人の男女が入場してきた。王妃様似の金髪に綺麗な青い目をした美少年が第一王子のギルフォード殿下。国王陛下似の茶色の髪にアイスブルーの瞳を持つ、少しクールな印象の美少年が第二王子のアルバート殿下。そして第二王子と同じ髪色を持つ美少女が第一王女のキャサリン殿下。瞳は第一王子似だろうか。
二人の王子の頭上には、キラキラと文字が浮かんでいた。
「え……」
第一王子が近くを通り、私は視線を下げながらもその文字を読んだ。頭上には【女好き、愛人は多い方がいい、モラハラ男】と、でかでかと文字が浮かんでいた。私はショックのあまり机に手をついて倒れるのを防いだ。ドクドクと心臓が嫌な音を立てている。
「ジョセフィーヌ嬢、久しいな。息災であったか?」
綺麗な声が頭上から聞こえる。どうやらギルフォード殿下が顔見知りのジョセフィーヌ様に挨拶をしているようだ。椅子から立ち上がったジョセフィーヌ様が綺麗な淑女の礼で答えている。
「はい、元気にしておりましたわ。殿下もご機嫌麗しく」
その時、何故かギルフォード殿下の視線が私と合った。私は怖すぎて視線を逸らすことが出来ない…
「ところでそちらの娘は初めて見る顔だな」
びくりと体が強張るが、逃げ出すことも出来ず隣の兄の手をぎゅっと握った。
「お久しぶりです。殿下。こちらは我が家の末娘のクリスティーヌです。ずっと体が弱く、こういった集まりのも今回が初めてでございます」
兄のアレンが微笑みながら私を紹介してくれたので、私は渾身の力を振り絞り立って淑女の礼をした。気を抜いたら気を失いそうだ。
「ほう、この娘がスコット侯爵の溺愛する末娘か…将来が楽しみな娘だな」
そう言われた瞬間、ぐらりと体が傾いだ。慌てた兄に抱きとめられ倒れずに済んだが、足はガクガクと震えて力が入らない。きっとチート発現以来最大のクズ男だと、私の体が警告を発しているようだ。
「申し訳ございません、殿下。妹は緊張して体調が優れないようです」
「そうか、体が弱いのだったな…それでは満足に子も産めないかもしれないな…ではな」
そう言ってギルフォード殿下は立ち去っていった。
それはセクハラ、いや、モラハラ…どの道この男にだけは関わってはいけない。
「大丈夫そうか?アレン、もしこれ以上無理なら、休憩室へ連れて行ってあげなさい」
耳に優しい声が響いた。声のする方を見ると、第二王子のアルバート殿下が心配そうに立っていた。頭上には【誠実、腹黒】という文字が浮かんでいたが、不思議と嫌悪感はなかった。
「お気遣いありがとうございます、殿下。もし、これ以上悪化すればそうさせていただきます」
兄が丁寧にお礼を言ったので、アルバート殿下は私の横を通り過ぎて行った。
「不思議、少し気分が治りました」
この国の、貴族の結婚制度の例外が王族だった。200年程前に王族で第一夫人第二夫人による跡目争いが熾烈を極め、あわや王族がいなくなる寸前に陥ったことがあったらしい。そこから王族だけは第一夫人のみ。浮気も厳禁。もし発覚すれば王族を廃嫡される法律ができたらしい。
つまり王族と結婚すれば、結婚観は守られチートも発動しないはず…でも、王族にお嫁に行くなんて、そんな狭き門通れる気がしない…それにギルフォード殿下は浮気するわよね。頭上には【愛人は多い方がいい】という文字が出ていた。
「お兄様、私少しお花摘みに行ってきますわ」
紅茶を飲みすぎたのか、私は尿意を覚えてしまった。化粧室までは王宮の侍女がついて来てくれるそうなので、話が盛り上がっているミランダ姉様にお願いするのはやめて、私は近くの化粧室に急いだ。
「よし、もう少しでお茶会も終わる。何とか無事に終われそう…」
化粧台に向かって微笑みを作り、気合を入れ直して化粧室を出た。そう、気合を入れて…
「クリスティーヌではないか」
かかる声に寒気がした。身体が強張って、はくはくと息をするのがやっとの状態だ。ゆっくりと声のする方を振り向けば、男性用の化粧室からギルフォード殿下が出てきていた。隣には側近候補の男の子がついているようだ。私について来てくれた侍女は一歩下がって静観している。
「おい、どうして固まっている」
殿下の手が私の肩に触れた。その瞬間、酷い寒気と吐き気に思わず私は意識を手放した。侍女が慌てて私を支える感触がした。
夢を見ていた。真っ白な空間につるつる頭のおじいさんがいて、すまなさそうにこちらを見ていた。
「誰ですか??」
思わず声をかけたが、その声は今の私ではなく、日本にいた頃の27歳の私だった。
「すまんのう。わしがあの時通り過ぎなかったら、お前さんは死んでなかったのに…」
「あの時?死んでなかった??」
「そうじゃ、突き飛ばされた時、わしの頭をお前さんが踏んでのう。そのせいで落ちてしまったんじゃ」
もしかして、踏ん張ろうとした時、ぐにゃりとした感触は…おじいさんの頭だったの?!
「せめてもの罪滅ぼしと思って、お前さんが最後に願った、クズ男がわかる何かを授けようとしたんじゃが…」
「今のところ迷惑なチートになっていますね…」
「すまんのう。せめて、追加で何かしてやれたらと思ったんじゃが、何か希望はないかのう?」
「そう言われても、今は生きるのに精いっぱいで、何が必要か分からないです…」
「そうじゃのう、では、ここぞという時に助けを呼べば、3回まで助けてやるというのはどうじゃ?」
「なるほど、3枚のお札みたいなものですね。ありがとうございます。大切に使わせていただきます」
おじいさんが満足そうに頷いた様な気がした……
「おい、大丈夫か?」
目を覚ますと、心配そうにのぞき込む第二王子のアルバート様の綺麗な瞳と目が合った。
「あ、私…」
「少しの間、気を失っていた。たまたま近くを通ったので私が様子を見ていた。今侍女が、アレンたちを呼びに行っている」
「そうでしたか、それはすみません…」
「いや、兄上が君に何かしたのだろう?」
「いえ、ただ、肩を掴まれて、それで…」
恐怖が蘇って来たのか、すこし震える私をアルバート殿下は痛ましそうに見ている。頭上には【誠実、腹黒】という文字が相変わらずキラキラと浮かんでいたが、やはり嫌悪感も吐き気もしない。むしろ息がしやすく落ち着く。
「兄上が急に君の肩に手を?そうか、やはり、君は兄上の好みなのだろうな…」
「は??」
アルバート殿下の言葉に、思わず声が漏れた。もしかして、これはフラグ??このままバッドエンドになる予定なのだろうか?
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