第14話 謎の男


 週明けの月曜日の朝。

 いつも通り、怜音と二人で登校していると、学校の正門で夢人に会った。



「志音くん、怜音くん、おはよ」


「夢人、おはよ!」


「はよ、夢人」


「あれ? もしかして仲直りした?」



 夢人がおれたちの表情を見て、気がつく。

 おれはぽりぽりと頭をかいた。



「……した」


「ほんとに!?」


「ごめんな、心配かけて」


「夢人、気にすんなよ。志音が暴走するなんて、いつものことだから」


「ぐぬぬ……今回ばかりは反論できねー」



 おれたちのやり取りを見て、夢人がくすくすと笑った。



「よかった。二人が仲直りしてくれて。双子のきみたちがケンカなんて似合わないよ」


「そうかぁ?」


「そうかなぁ?」


「そうだよー」



 おれたち、仲はいいと思うけど、結構ケンカしてるんだけどなぁ。

 おれたちが頭にハテナを浮かべていると、夢人がさらに笑った。



 キーンコーンカーンコーン。



「予鈴だ。早く教室に行かなきゃだな」



 朝の予鈴が鳴って、おれたちはそれぞれの教室へ急いだ。

 夢人と一緒に席につくと同時に、広瀬先生が入ってきた。

 よっしゃ、セーフ。



「おはようございます……」



 あれれ?

 いつもの月曜日なら、ウザイくらい元気にあいさつをしているハズだ。

 なのに、先生はしょんぼりとしている。



「みなさんに、残念なお知らせがあります」



 広瀬先生は眉をハの字にしていた。

 おれは隣の席にいる夢人と、顔を見合わせた。



「また学校に怪盗ノットが現れました。今度は私たちのクラスの算数ドリルが盗まれました……」


「うそー!? 四年二組だけ!? なんで盗まれたんだよ」


「先生、職員室にあるんじゃないの!?」



 クラスのみんなが目を丸くした。



「えっと、その……教室にうっかり置き忘れちゃって……てへ」



 先生がてへぺろを繰り出すと、クラスのみんなが叫んだ。

 おれよりも前の方の席にいる愛菜が、くるりとこちらを振り向いた。

 そして、ぎっとにらんできた。


 ええー……まだおれたちのこと、疑ってんのかよぉ。


 確かに、おれたちが金曜日の夜に盗みました。

 でも、その算数ドリルは奪われました。

 奪われたんだよ……。



『志音、志音。応答せよ』



 怜音からのテレパシーだ。

 その声に応えるために、意識を集中する。



『こちら志音』


『お前のクラス、予想通りさわぎになってんな』


『うん。あと、愛菜がまたおれをにらんでるよ』


『まだ疑ってんの、少女探偵さん。確かにオレらが盗んだけど、持ってねーからなー』


『ミッション失敗なんて初めてだ』


『だな。こんなにやらかしたことなんてねーもんな』



 ターゲットを奪われた。

 ターゲットのロボチップを、破壊することができなかった。

 当然、ターゲットを元に戻すこともできなかった。

 怪盗ノットの流儀は、一つもできなかった。

 

 今、思い出しても、ふるえるような怖さがある。

 タカのような鋭い視線を持つ男。



『怜音、アイツ、何者なんだろう?』


『EDENの諜報員・門司佐多雄もんじさだおじゃないかって、五朗のおじさんが言ってたな』



 おれたちはミッションから帰ったあと、五朗のおじさんに報告した。

 五朗のおじさんは少し考えてから、門司じゃないかって言ったんだ。

 門司という男は、仕事の早さと戦闘力の高さで有名らしい。



『おれたちがCREOのジュニアスパイだってこと、わかってたのかな?』


『わかんねー。でも、五朗のおじさんはターゲットを奪われただけで済んだのは幸運だ、って言ってた。オレらがEDENに敵対している組織にいることは、わからなかったかもな』



 おれたちや母さん、五朗のおじさんが所属している国際共創組織CREOと、世界管理機構EDENは対立をしている。


 五朗のおじさんに教えてもらったことがいくつかあるんだ。

 世界管理機構EDENは、『人間は愚かだから、コントロールしてあげなければ、世界は存続しない』と考えるグループなんだって。


 それを阻止しようとしているのが、国際共創組織CREOだ。

 CREOは『みんなが持つクリエイティブ力を発揮して、世界を豊かにしていこう』と考えているグループなんだ。



 考え方が正反対だから、敵対している。

 母さんが命を狙われているのも、そのためだ。



『おれたちが怪盗ノットをやってたから、助かったってことか』


『だな』


「静かにしなさい。廊下まで二組の声が響いています」



 がらりと教室の扉が開き、クラスのみんながぴたりとおしゃべりをやめた。



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