第13話 ミッション失敗


「あ、そうだ。怜音、ドリルは!?」


「ここにあるよ」



 怜音はカプセルバッグを取り出し、ふりふりと振った。



「さすが、怜音! 結局、どこにあったんだよ?」


「この教室。職員室に忍び込んだけど、なかったんだ」


「ちゃんと忍び込んでくれたんだ……」


「まぁ、志音が引きつけてくれてたし?」



 テレパシーが使えなくても、ケンカして離れていても、やっぱり双子だ。

 おれたちは双子の片割れが何をしているのか、なんとなくわかるんだ。

 怜音が双子の片割れでよかった。



「志音、帰るか」


「おう」



 と返事をしたのに、あ、と怜音が声を上げた。



「お前のホバージェット、オンにならなかったんだっけ?」


「そうだった」


「見せてみろよ」



 おれのベルトのバックルのスイッチを、怜音が何度かカチカチと押す。

 すると、ホバージェットがウイーン、とうなり声を上げた。



「う、動いた! ありがと」


「とりあえず応急処置な」


「五朗のおじさんに教えてもらったのか?」


「ミッションの時は師匠な。なんかあった時のためにって。今日、役に立つとは思ってなかったけどな」


「うっ……ごめん。助かりました」


「見つけたぞ、怪盗ノット!」



 ガラガラ、と勢いよく教室の扉が開いた。

 ドタバタと入ってきたのは、必死な顔をした大泉刑事だった。



「飛び降りたからヤバイと思ったら、ちゃっかり無事だな!?」



 あ、そっか。おれ、飛び降りたように見せたんだった。



「刑事さん、心配かけてごめんね」


「ごめん、と思うなら、逮捕されたらどうだ!?」


「それはごめんね?」


「お前、さっきからごめんばっかな」



 隣の怜音がくすくすと笑った。



「というわけで、刑事さん。オレら、ミッション完了」


「は?」



 大泉刑事がぽかんとした。

 刑事さんをよそに、怜音がバックルのスイッチを押し、ホバージェットを起動させた。



「ターゲットのものはいただいたんで」


「おい、ちょっと待て!」


「おれたち帰ります。それではみなさん、ばーいばーい!」



 おれたちの体がふわりと浮いて、教室の窓から外へ出た。



「くそぉ、怪盗ノットめーっ!!」



 おれたちはホバージェットの出力を最大限に上げて、スピードを出した。



「ああ! 怪盗ノット、待ちなさーい!」



 運動場にいた愛菜と数人の警官が、空を飛んでいるおれたちを追ってくる。

 けれど、当然運動場の塀に阻まれるわけで。



「うわあああ!!」



 ドスンドスン、と警官たちが見事に塀にぶつかっちゃった。

 おれたちは思わず笑ってしまった。


 あ~あ。おれたちを捕まえたかったら、空ぐらい飛ばなきゃ。

 ま、無理か。


 母さんが作ったホバージェットは最新技術が使われているんだ。

 ちょっとやそっとじゃマネできないもんな。



「今日も無事にミッション完了だな」


「おう。師匠に報告できるね」



 顔を見合わせ、ニカっと笑い合う。

 怜音と仲直りもできたし、ミッションも完了したし、めでたしめでたしだよな!



「楽しそうに笑って、何かいいことでもあったかい?」



 え!?

 突然、声をかけられた。



「だ、誰だ!?」



 おれたちは空を飛んでる。

 今、帰宅途中のマンションの屋上を通り過ぎようとしてた時だぞ。

 一体、なんなんだ!?


 辺りをきょろきょろ見回す。

 マンションの受水槽のそばに、黒いボディースーツを着た男がこちらを見ていた。

 アイツか……?


 目が合うと、背中がゾクッとした。

 タカのような鋭い視線。

 口元をフェイスガードで隠してるから、余計に視線が際立つ。


 なんだよ……コイツ……。



「君たち、面白いことをしているな。ただ、盗みはいけないよ?」


「は?」



 と思った瞬間、すっと目の前に現れた。



「うわっ!」



 おれたちはのけぞりながら後ろへ下がり、屋上へ着地した。


 あぶねーっ。

 一瞬で間合いをつめられた。

 一体、何者!?


 すぐに両手首のパワードスーツのスイッチを入れる。

 こっちはジュニアスパイとして、五朗のおじさんに鍛えられてるんだからなっ。


 熱くなった拳を勢いよく繰り出した。

 しかし、すばやい動きで、攻撃はあっさりとかわされる。


 マジかよ!?

 パワードスーツは大人と対等に戦えるように作られてるんだぞ!


 おれの動きに合わせて、怜音も反対側から攻撃を仕掛ける。

 双子のシンクロ攻撃だ!

 息の合ったコンビネーションで、拳と蹴りを何度も打ち込む。



「くっそ!」


「当たれ!」



 二人がかりで攻撃しているのに、 なんで一発も当たらないんだよ!?



「これはもらっていこう」


「あ!」



 怜音が叫ぶ。

 怜音との間合いを一瞬でつめた男は、カプセルバッグを手にしていた。


 ウソだろ……。

 それは今日のミッションで手に入れた、算数ドリルだぞ……。



「盗みなんてやめて、ガキはさっさと寝るんだな」



 夜の闇にまぎれて、男はひらりと去っていった。

 その間、おれたちは一歩も動けなかった。


 レベルが、違う。


 おれたちは男が去る背中を、呆然と見つめていた。



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