48話・彼女の身元の判明
執事もまた、フィルマンにとっては信用に値する人だ。彼はフィルマンが王宮で暮らしていた頃、侍従長を務め、彼の成長を見守ってくれていた祖父のような人だ。
この屋敷の采配を負かされている執事は、神妙な顔付きで言った。
「彼女を訪ねてきた者? それは誰だ?」
「領内にある孤児院の運営を任せている神父です。こちらでサクラを名乗っている者は、孤児院にいた少女ではないかと問い合わせがありました」
「どうして神父が? うちにサクラを名乗る女がいると何で知ったのだ?」
思わずノルベールと顔を見合わせる。自称サクラは、言動が拙く感じられ、平民のように感じられていたが、まさか孤児院育ちの孤児とは思いもしなかった。
「神父曰く、少女が突然いなくなり捜索願を出していたそうなのですが何も音沙汰がなく、心配していたところ、文が投げ入れられたそうです。それには少女がサクラを名乗り、領主屋敷に居座っているから迎えに行くようにと書かれていたそうです」
「彼女は失踪していた?」
そうなると彼女は、何者かの思惑で利用されていたとも考えられる。彼女は孤児院を何らかの理由で飛び出し、衣食住に困っていた所、誰かに声をかけられて領主屋敷に「サクラ」を名乗って、入り込んだ?
その誰かは、彼女をサクラに仕立て上げたものの、邪魔になって始末した?
「神父には彼女の面通しはしたのだろう? どうだった?」
「孤児院からいなくなった少女で間違いないそうです。検死の後、彼女の遺体を引き取りたいと申し出がありました」
「そうか。彼女が口にした毒は解析出来たか?」
「まだハッキリとはしていませんが、恐らくアドニス草を口にしたせいではないかと。あれには毒が含まれていますから」
「アドニス草? あれは愛でる花で食べ物ではないだろう?」
アドニス草は、この国では良く見かける黄色い花だ。その花は冬の終わりに芽を出す植物で、名残雪からひょっこり顔を現すことから、春告げ草とも呼ばれている。
「アドニス草の新芽は、エコー花の蕾と良く似ているので間違って食したものと思われます」
エコー花は食用とされている植物で、金魚の尾のような花だ。その華やかな見た目からメイン料理の添え物として飾られることが多い。
「しかし、アドニス草らしきものは食卓にもあがっていなかっただろう?」
フィルマンは今朝の食事内容を思い出したが、それらしきものは並んでいなかったのを記憶している。彼女も自分と同じ物を食している。食堂で毒を盛られる可能性は低い。
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