30話・0羽根の騎士の真相


「サクラメントは秘蹟の地とされている。あの地の領主の家系には、昔から結界魔法を操れる女性が産まれやすい。その為、その力を持つヴィオラ夫人は、結界の魔女、もしくは結界の聖女などと呼ばれている」


「じゃあ、ユノさんにもその力が?」


「彼女はその力を引き継がなかった。でも、彼女から産まれる子や、孫達がその力を持つ可能性はある」




 そのような特殊な事情を抱える彼女を守る、0羽根の騎士とはどういう意味を持つのだろう。




「ヴィオラ夫人は未婚でありながら、子を成した。王家や教会はそれを処女受胎だと発表した」


「ヴィオラさまの旦那さまは、神さまなのですか?」




 にわかには信じられない話だ。フィルマンは首を振った。




「いいや。蒼天教の皆はそれを信じて彼女を神格化しようとしているが、彼女は拒んでいる」




 そんな彼女に付けられた騎士。公にはできない何かありそうだ。




「わたしにそんな話をして大丈夫ですか?」


「きみには知っておいてもらった方がいいと考えている。もしかしたら今回の事は、幾つか要因が考えられるが、こちらの路線からきみが狙われた可能性がないわけじゃない」


「どういうことですか?」


「きみはサクラメントに現れ、ヴィオラ夫人やユノ夫人とも親しい。それを知った者がきみを利用しようと企んだかも知れない」




 わたしは自分の知らない間に、きな臭いことに巻き込まれていたようだ。




「ヴィオラ夫人は、僕の祖父の兄の婚約者だった。何事もなければ王妃となっておられただろう。ところが婚約者だった王太子が病に倒れてお亡くなりになられ、僕の祖父が王太子となった。しかし、その後に彼女が身籠もっていることが発覚した」




 その説明で大体のことを察した。元婚約者の子を妊娠していたヴィオラの立場を慮って、0羽根の騎士は誕生したのだろう。それは当時の両陛下の情けだったのかも知れない。


 亡き王太子の子を公にすれば、勢力争いに突入しかねない。王家の安泰の為にも、その子は存在しないことにしながらも、未婚で子供を産んだヴィオラ夫人の名誉が穢されないようにしたのかも知れなかった。




 教会と繋がりが出来れば、王家に対抗することになりかねない。その事もあってヴィオラ夫人は秘することに徹していそうだ。




「では、0羽根の騎士とは、公には認めることの出来ない王家の血筋を守る者?」


「正解。さすがはサクラ」




 端正な顔立ちのフィルマンが破顔すると、騎士団長が息を飲んだような気がした。一体、何だろう? 先ほどから周囲の人達は、フィルマンが笑う度に驚いているような気がする。




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