28話・からかわないで




「あの、そういうことは人前ではあまり口にしない方が良いような……」


「じゃあ、人前でなければいい?」




 宝石のように輝く青い瞳がこちらを見つめてきて、目が離せなかった。ざわめく周囲に、羞恥でわたしの顔は真っ赤になった。








「顔が真っ赤だね。本物のきみは可愛すぎて堪らないな」




「フィルマンさま。からかわないで」




「僕はいつでも本気だよ」








 彼と手を繋いでいない方の手で顔を覆うと、わたし達の様子を窺っていた女性達から「キャーッ」「嘘ぉっ」「信じられない」と、黄色い声が上がった。








 男性陣からも「あの御方が嘘だろう?」と、驚愕している。




恥ずかしすぎて俯いていると、横から呆れたような声が上がった。焦げ茶色の髪に深緑色の瞳をした中年男性が現れた。








「何やら部屋の外が騒がしいと思えば……。フィルマンさま。私の執務室の前で何か御用がおありでしたか?」




「ユグラート騎士団長。きみに訊ねたいことがあってきた」




「どうぞ。中へ」








 フィルマンに手を引かれて、執務室に入る。そこでわたしはフィルマンが彼のことを「騎士団長」と、呼んだことに気が付いた。部屋の中には、もう一人男性がいた。どうやら騎士団長の副官らしい。








「騎士団長。きみはサクラメントに、数名の騎士を送ったのか? 何の為にそのようなことをした?」




「唐突に何のお話ですか? フィルマンさま。サクラメントに騎士を送るような事はしておりませんよ」








 詰るようなフィルマンの言葉に、騎士団長は怪訝そうに眉根を寄せた。その言葉に嘘はなさそうな気がした。








「こちらの女性が、サクラメントから助けを求めて現れた」




「……! サクラメントから? 一体何が起きたと?」








 サクラメントと聞いて、騎士団長の顔色が変わった。








「アガリー魔術師長にある嫌疑がかけられていて、その嫌疑を晴らす為だと言って彼女を連れ去ろうとした」




「そのようなことを私は命じていません。アガリー魔術師長に嫌疑などかけられていませんよ。私の名を騙った者がいるようですね?」




「そんな所だろうと思ったよ。現場にはすでにノルベールが向かった」




「ミラーユ。牢屋の手配を」




「はっ」








 副官が頭を下げて出て行く。ユグラート騎士団長はわたしを見た。








「お嬢さん、詳しい事をお聞かせ願えますか?」








 わたしはサクラメントのお屋敷に、騎士達が現れてからのことを話した。こちらの話を黙って聞いてくれる騎士団長に、既視感のようなものを覚える。騎士団長には初めて会った気がしなかった。




話を終えて騎士団長を注目していると、フィルマンが聞いてくる。








「そのように騎士団長を見つめるなんて妬けてしまうね」




「フィルマンさま」








 騎士団長がいる前でなんてことを言い出すのだと思ったら、ユグアート騎士団長が目を見開いていた。




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